第3話

 席は基本的に自由席で、大抵は授業初日に使ったお席を使うことが多いと聞いております。

 そして現在の空席は、一番前の窓側でダンティル様のお隣、または、廊下側の一番後ろのお席だけが空いております。


 窓側の空席の後ろには白髪のフロレント・リュデルク教皇子息様。ダンティル様の後ろは紺髪のマジラウル・ノーザエム宰相公爵子息様。ダンティル様と側近様に囲まれたお席です。


 わたくしのカバンは廊下側の後ろの席に置いてあります。これは王子殿下警護の一環です。後ろの出入り口はわたくしが監視するのです。

 廊下側の一番前の席で前の出入り口に近いお席は赤髪のエリアウス・ギーゼルト団長侯爵子息様がお座りになっております。


「まあ………」


 わたくしは思わず声を洩らしハッとアンナリセル様を見ました。

 アンナリセル様は青い顔をなさり狼狽しております。お話を聞く限りあの窓側のお席をお喜びになられるようなご令嬢ではないようです。

 ダンティル様も側近様たちも皆見目麗しく、普通のご令嬢でしたら、お席がお隣という幸運に歓喜すると思うのですが、アンナリセル様は近寄ろうともなさいません。


「わたくしが交渉いたしますわ」


 お声かけしますと、肩を撫で下ろしました。

 わたくしのお席の前の席に座る男子生徒に話をしました。その男子生徒はすぐに頷きアンナリセル様のお荷物を窓側の席から持ってきて、今度はご自分のお荷物を持ってダンティル様のお隣のお席へ移りました。それを見たフロレント様がその彼とお席を交換し、ダンティル様のお隣にお席を変えられます。


「アンナリセル様は婚約者がいらっしゃらないのでしょう? あのようなお席ではお友達も作れませんわよね」


 私はあからさまに先程のお席を睨むアンナリセル様に笑ってしまいました。


「彼の者はわたくしの家と関係する者ですの。気になさらないでね」


「でも、それって護衛なのでは?」


「お隣にもう一人いるから大丈夫ですわ」


 わたくしのお隣の席の男子生徒が頭を下げます。


「では、お言葉に甘えます。ありがとうございます」


 アンナリセル様は輝くような笑顔を浮かべ、わたくしの前のお席に座すわりになりました。

 それから間もなく授業が始まりました。


 午前中の授業が修了いたしました。


 ダンティル様がこちらへいらっしゃいます。そして、アンナリセル様にお声掛けなさいました。


「今朝のお詫びがしたいのだが、私とランチに付き合ってもらえないか?」


 唐突なお誘いにアンナリセル様は肩を揺らすほど動揺されてましたが、必死で顔には出さないようになさっております。淑女教育は充分にお受けになっていらっしゃるようです。


 しかし、王子殿下からのお誘いの断り方など習っていらっしゃるはずもなく、アンナリセル様は困って固まってしまいました。


「ダンティル様。お立場をお考えくださいませ」


 わたくしに咎められるとは思っていらっしゃらなかったダンティル様は軽く睨んでいらっしゃいます。


「俺に詫びもさせぬ気か?」


「そうではありません。違う方法をお考えくださいと申し上げているのです」


 これ以上どう説得するべきか思案しておりますとアンナリセル様から提案がございました。


「では、ベティーネ様もご一緒してくださいませ。わたくし、保健室までお付き添いいただいたベティーネ様にお礼をしたいですわ」


「まあ、よろしいですのに。元々は、ダンティル様に頼まれたことですし」


 こうなると頼んだにも関わらずお礼もなさらないのはダンティル様となってしまいます。二人でチラリとダンティル様の様子を見ました。


「わ、わかった……。二人の分は私が持つ。では、参ろう」


 三人で食堂へ向かうことになりましたわ。

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