四十五話 合否の行く末

四十五話 合否の行く末



 三日後。


 およそ三日間にわたる試験期間が終了し、ベルナード魔術学園とウルヴォグ騎士学園の一年生、総勢三百五十四人が集められた。


 その理由は言わずもがな。試験の結果発表のためである。特にクラスごとで集合、なんてことは決められておらず、実際に試験で旗を奪い合った試験場の好きな位置に集合するようにと伝えられていた。


 なので僕とレグルス、アリシアさんとユイさんの四人は事前に集まり、並んでいる。アリシアさんが「どうせ呼ばれるから」と言って聞かず、最前列で。


「あわわ、あわわわわ……ア、アリシアちゃん。私だけ落ちちゃったらどうしよおぉ!!」


「馬鹿ね、落ちるわけないでしょ。私達は勝ったのよ? その上ユイもちゃんと活躍してた。生命操作魔術、凄かったじゃない」


「うぅ……でも私、ちゃんと力を制御しきれなくて。すぐに魔素限界オーバーリミットも来ちゃったし……」


「シャキッとしなさいシャキッと! ほら、横でアンタもしれっと不安そうな顔しない!」


「えっ!? い、いやだって……不安にはなるよ。アリシアさんやレグルスみたいな単体での活躍が、僕にはないから……」


「だーっ! もう!! なんでこう根暗が多いのかしら!! あとユウナ、アンタその他人行儀な呼び方やめなさい!! ちゃんとアリシアって、呼び捨てで言いなさいよ!!」


 ムキーッ、と怒ってみせるアリシアさんに、「えぇ……」とため息を吐きながらも、どうやら呼ばないと掴みかかってくるレベルなようだったので、仕方なくこれからはそう呼ぶことにした。


 女の人を呼び捨てでなんて、初めてだ。ちなみにユイさんも恥ずかしそうにしながら「私も……」と言ってきたけれど、そっちは無理をしているのが分かったからこれまでと変わらず、ということで。ただユイさん側からは僕のことを「ユウナ君」と下の名前で呼んでくれるらしい。初めて会った時はアルデバラン君だったから、少し進歩だ。


「はぁ、どいつとコイツもうっせえなぁ。周りに注目されてるじゃねぇか……恥ずかしい」


「レ、レグルスも余裕そうだね?」


「当たり前だ。ほら、そろそろ始まるぞ」


 コツコツ、と足音を立てて出てきたのは、ウルヴォグ学園の学園長。自慢げに伸ばした髭を触りながら、大声で僕達に告げる。


「生徒諸君、まずはこの度の試験、お疲れ様。途中負傷者やリタイアを多く出しはしたが、素晴らしい戦いも見ることが出来た。今回の試験はベルナード学園長との協議の末これまで以上に厳しいものであった。魔獣を取り入れた新形態の試験に、苦しんだ者も多いかと思う」


 学園長の話が始まってからは、さっきまでの雰囲気が嘘かのように周りが静かになって。ただじっと、耳を傾けている。不思議と僕も引き込まれるように、話を聞いていた。


「先に言っておく。今回の試験は、過去最高の脱落者を記録している。何人かは伏せておくが、既に自分のことだと分かっている者もいるだろう。もう一年、進級せずにこの学園に残って努力に励む気のある生徒は歓迎する。ぜひ、もう一年で力をつけて返り咲いてほしい」


 過去最高の脱落者数、か。昔聞いた話では、毎回の試験でおよそ一割から二割程度が落とされ、所謂「留年」を経験することとなると聞く。別に騎士学園や魔術学園におけるそれは珍しいことではないが、やはり同じことを一年、もう一度繰り返すと言うのは中々精神的に厳しいものがあるだろう。そこで挫折して学園を去る者も多いらしい。


 心臓が、激しく脈打っている。


 怖い。全力は尽くしたけれど、もしそれでも落ちていたらと考えると。震えが止まらない。


「では、個々の成績表は後程私の手から全員に手渡すとして。まずは今回の試験の上位成績者、十人を紹介する」


 パチンっ、と指を鳴らすと共に、背後から別の教員が詠唱を開始。試験時間を表していたあの数字のように、宙に「試験結果、上位十名」の文字と、縦に並んだ一から十までの数字が浮かび上がる。恐らくその横に、該当する生徒の名前が記されるのだろう。


「判断項目は五つ。戦闘力•協調力•発想力•応用力、そしてチームでの勝敗。これらを全て十点満点で採点し、最後のチーム勝敗に関しては勝利していれば十点が、敗北していれば零点が付与されている。その事を踏まえ、ランキングを見てほしい。では、発表する!!」


 パンッッッ。背後からファンファーレのように発せられる大音量の爆発音。それと同時に、一位から順に。十人の名前が、浮かび上がった。


一位 アリシア•ウルヴォグ  44点

二位 レグルス•マテゴライト 43点

三位 ノエル•シーヴァ    40点

四位 アメジスト•ルー    39点

五位 ユウナ•アルデバラン  38点

六位 ルメール•ウィンタ   37点

七位 ハレ•タグレミスト   35点

八位 ユイ•エルス      33点

九位 カイラ•アレイスト   32点

十位 スズ•スオリライン   30点


「だぁっ!? あの性悪が一位……だと!? なんで俺があれの下なんだよオイ!! ぶっ殺すぞ!!!」


「ひゃははっ! 何よ見る目あるじゃない!! やっぱり私より上なんていないわよねぇ〜!!」


「ぼ、僕が……五位!?」


「八位……えっ? 私が? いつも中の下の成績しか取れなかった……私が!?」


 衝撃だったのは、やはり僕の順位。


 この試験を受けていたのは、三百五十四人。その中で、五位……。あまりに高すぎる順位に、頭がフリーズした。


「ユウナ、ユイ! アンタ達も私の下とはいえ、中々やるじゃない!! あそこのバカはどうでもいいけれど、チームアリシアがこうして全員十位以内に入ったのはとても喜ばしいわ!!」


「アリシアちゃぁん……ひっ、えぐ……うぅ!!」


「ああっ、ちょっとユイ!? 泣きながら抱きつかないでよ! みっともない!!」


「だっでぇ……う゛えぇ……」


「クッソ、俺は認めねぇぞ。この性悪女に負けたなんて……だぁぁぁぁぁ!!!!」


「コラ、お前達静かにしろ! まだ学園長の話は終わってないんだぞ!!」


 最前列で泣き、叫び、歓喜する。そうして全体的に盛り上がってしまっている場の雰囲気を牽引していた僕達に、ギュルグ先生が喝を入れる。


 でも、僕の頭にはその声すら届かなかった。


 実感のない好成績。アンジェさんとの約束の一端をこうして果たせたことに、思わず涙が溢れる。


「やっ……た。やったんだ……」


「おほんっ。では改めて。これから試験を行ったチームの順に、名前を呼んでいく。呼ばれた者は前へ。これより成績表を授与する」


 そこからはもう生徒全員、良い意味にも悪い意味にも大騒ぎで。学園長の声を聞いて、というよりは、試合をした順番的にそろそろか、くらいの感じで生徒が前に出ては、一枚の紙をもらって戻っていく。


 だけどそんな光景に目は行かず、僕達の番が来るまでの間。レグルスはアリシアと言い合いをしながら頭を掻き、ユイさんは泣きながらアリシアにべったり。僕は一人で喜びを噛み締めながら、レグルスとの言い合いを終えたアリシアとハイタッチをした。


「ユウナ•アルデバラン。ここに試験合格を祝し、進級証明書と共に成績表を授与する」


「ありがとう……ございます!」


 初めは僕から受け取って、アリシア。その横にひっついてもう歩くのもギリギリなユイさん。そして、死ぬほど不満を露わにしてガンを飛ばしまくっているレグルス。


 全員が進級証明書を貰い、晴れて二年生に上がる事を約束された。


「えっと、成績は……」


戦闘力 4

協調力 8

発想力 8

応用力 8

チーム加点 10


 戦闘力の数値が低いところを除けば、好成績だった。ちなみにアリシアさんとレグルスは協調力のところだけがビックリするくらい低くて、戦闘力は十点で満点を獲得。流石だな、と思い少し悔しく思いつつも、今は試験に合格したということに対して嬉しさが溢れすぎていて。それどころではなかった。


「ねぇユウナ。せっかくこうして何かの縁で集まれた仲間。最後に食事をしない? 私がとっておきを手配してあげるから!」


「え、いいの?」


「勿論よ! そうね、仕方ないからアンタも……って、ちょっと!!」


「俺は帰る!! テメェと食事なんてしてられるか!!!」


「あはは、レグルスらしいや……」


「ったく。まあいいわ。ユウナ、ユイ。三人だけで楽しみましょ」


「うん」


「う゛んっ」


 こうして、波乱の試験は終了した。


 アリシアやユイさんとは、レグルスと違って違う学園に通う者通し。またこうして気軽に集まることは出来ないかもしれないけれど、本当にいい仲間を持てたと思っている。


 願わくは、この縁が切れませんように。そう願いながら最後の食事会を楽しみ、次の日それぞれの学園で終業式を終えて。




 それから、二週間の時が経過した。

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