第3話 犬の話
遠くで今年一番の蝉が鳴いている。足元をとめどなく流れる川のせせらぎよりも、蝿の羽音が煩い。膿ののった傷口から腐臭が上ってくる。体中のあちこちを這い回る蚤が痒みを思い出させた。鼻先を歩く蟻の行進が、残ったパン屑を巣へ運んで行く。死が間近に迫っていた。
墨を塗った様な闇だった。体は重く、動かすと皮膚が引っ張られて腹や顔に激痛が走った。それでも喉が渇いて身捩りするが、首が締め付けられてそれ以上動く事は叶わなかった。
地獄の底に居る気分だった。いつになったらこの地獄から開放されるのかしれない。空腹と渇きと闇が心を支配していく。
憎い……
痛みが憎悪に変わるのはさして時間のかかるものでは無かった。どうして自分がこんな目に遭わなければならないのだろう? どうしてこんな事になったのだろうと考えれば考える程、あいつが憎くて仕方が無かった。
せめて最期にあいつの首根っこに噛み付いてやりたい。一矢報いてやりたい。この地獄をあいつにも味あわせてやりたいと願った。もう自分には寿命がない。それも何となく分かっていたから尚更、口惜しくて堪らなかった。
せめてこの身が自由であったなら……
脳裏に、あいつの黄色い声が響いた。あいつの顔が、姿が瞼に焼き付いている。
許さない。絶対に許さない。人間共皆、食い殺してやる。
事切れる瞬間そう思ったのだが、不意に誰かに抱きかかえられる感覚を味わった。もう長い間忘れていた温もりに包まれた時、幼い頃の事を思い出した。
六畳程の畳部屋の真ん中に毛布が一枚置かれている。日が登って障子の隙間から日差しが挿すと、独りでに毛布が動き、毛布の下から犬の鼻先が辺りの匂いを確認しながら出て来た。茶色い体毛の中に黒い目が見開いて毛布から飛び出す。周りを気にしながら障子の隙間に顔を近付けると、外の空気が鼻腔に広がった。
とても朗らかな風が吹いていた。鼻先で障子を開けると、板張りの縁側があり、その先に庭が広がっている。白い砂が敷き詰められた庭の先に屋根付きの築地塀があり、その塀の足元に色とりどりの花々が思い思いに花を咲かせている。
淡青色のルリマツリ、白い花をつけた姫沙羅の木、泰山木、梔子、桃色の芙蓉、百日紅、緋衣草、黄色や橙色の鶏頭、青紫の朝顔……
そのどの花からも馥郁とした香りが漂っていた。
それを目にした犬は「ほ〜……」と溜息を漏らした。
これが話に聞いた極楽だとかいう場所なのだろうか。
「おいで」
子供の声がして目を丸くした。外との仕切りのない濡縁に子供が腰掛けているのに全く気付かなかった。訝しく思いながら近付くと、嗅いだ事のある匂いに戸惑った。
死ぬ間際、自分を抱え上げたのはこの子だったのだとその時に悟った。お釈迦様か誰かに掬い上げられたのかと思っていたのだが、どう見ても人間の子供だった。
子供の顔は何処か哀しげで、けれども凛とした面持ちだった。一見、女の子の様な整った顔で、頭に梅結びが描かれた手拭いを巻いている。紺の作務衣を着た彼が隣をそっと叩くと、犬は恐る恐る彼の隣に寄り添った。
「君は誰?」
「鬼だよ」
子供の言葉に驚き、けれども納得する。
「そう……だから私と話が出来るのね」
犬は後ろ足で耳の後ろを掻いた。綺麗に洗ってくれたのか、石鹸の匂いが少し鬱陶しい。
「ああ、やっぱり私は死んだのね」
残念そうに、けれども安堵した様に言った。
「でも、不思議ね。鬼ってもっとおっかないものだと思っていたわ」
子供は、どう見ても小学生くらいだった。小柄な彼がそっと犬の頭を撫でると、嬉しくて擽ったくなる。
「提案があるんだけど」
子供の言葉に犬は目を瞬かせた。
「うちの子にならないか?」
子供はそう言って犬の額に白い札を付けた。彼の頭に巻いている手拭いと同じ、赤い梅結びの印がついている。犬は不思議そうに彼の顔を見上げるが、彼の表情は全く変わらなかった。
「おかしな事を言う子ね? 私は死んだのよ? 死んだら穢土を離れて浄土へ行くのよ」
彼はそっと目を細めて頷いた。
「……まあ、それをお前が望むのならそれでも良いのだけれど、最期に選ばせてやろうかと思って」
「選ぶ?」
犬は不思議そうに首を傾げた。選ぶ権利など、産まれてこの方全く無かった。産まれる場所も、捨てられる場所も、飼い主でさえも、死に場所すらも……それを、彼は哀れに思ったのだろうか?
「よく解らないわ」
「浄土へ逝きやすい様にニ、三、功徳を積んでからでも遅くは無いだろう」
鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして犬はまじまじと子供の顔を見た。
「何だい? それじゃあまさかあれかい? 私はこのままでは地獄へ行くってのかい? 何もしていないじゃないの!」
「そう、何もしていないから、機会をやろうと言っているんだ」
子供は徐に帳面を出すと、少ないページを捲るが、何も書かれていない。
「何だい? それは、閻魔帳ってやつかい?」
「まあ、そんなとこだな」
犬はあからさまに眉根を寄せ、耳を伏せた。生前の行いが書かれた閻魔帳によって、地獄行きか極楽行きかが決まってしまう。その閻魔帳が白紙であれば、閻魔大王だって頭を抱えるだろう。だからこの鬼が自分の眼の前に居るのだと理解した。
「何かを成し遂げる潮時など私には無かった」
「だから、これから機会をやろうと提案しているんだ」
項垂れ、視線だけ子供に戻したが、子供の顔は能面の様に少しも動かなかった。
「君には何か良い事があるの?」
まさか無償で奉仕など無いだろう。あの世の事はよく解らないが、鬼にも出世街道とかがあるのだろうか? お釈迦様から報酬があるのだろうかと勘繰っている。すると子供は瞳を宙に投げて考える素振りをした。
「いや、別に」
犬は目を丸くして驚いた。
「そんなわけ無いでしょう? どうせ、仏様から金一封貰ったり、地獄の釜の掃除を免除して貰ったりするんでしょう?」
詰め寄ると、子供はゆっくりと瞬きした。
「そう思うのならそう思って貰って構わない」
それを犬は肯定したのだと思った。
「それならそうと先に言いなさいよ。私で良ければ、お相伴させていただきます」
三角の耳をピンと立て、尻尾を振って応えた。
「私の名前はね、マメっていうのよ。君は? 鬼さんで良いの?」
「ここでは、明神と呼ばれている」
マメは不思議そうに少し首を傾げた。
鬱蒼と繁る葦と、椚の木がそこここに生えている。松や杉の木の香りや、朝露で湿った土の匂いが心地良い。豊かな森が広がっていた。
マメが見上げた椚の枝に、木鼠が片脚を引っ掛けてぶら下がっていた。どうにかして外そうと体を海老のように反らして右へ左へと揺らしている。マメが見兼ねて居ると、後から来た彦も視線を投げた。およそ二メートルばかり高い枝でもがいている木鼠を見やると、徐に扇子を取り出す。彼が総竹扇を振ると木鼠の直ぐ側から枝が折れて落ちて来た。マメが木鼠の真下に寝転がると、マメの毛の中に木鼠が転げ落ちる。木鼠は驚いていたが、足が枝から離れてそそくさと逃げて行った。
「ふふ、鈍臭いわね」
マメが笑うと、彼は森の奥へ視線を這わせていた。マメも微かな音に気付いて耳を峙たせる。遠くで草木を掻き分ける音がした。
「あら、人間ね」
風に乗って臭いのする方へマメは歩き出した。明神は何も言わずに付いてくる。ふと、森を抜けた先で人影が倒れるのを目にしてマメは走った。
森を抜けた先は崖になっていた。マメが慌てて崖下へ飛び降りると、リュックを背負った男が頭から落ちて来る。既の所で男の体を受け止めるとマメは溜息を付いた。どうやら気絶しているらしい。
いつの間にか、自分の体が大きくなっていた。大人の体をそっと下ろすと、元の大きさに戻る。どうやらこの体は大きくなったり、小さくなったりする事が出来るらしい。マメが男の様子を見ていると、後からやって来た彦は登山姿の男を一瞥して扇子を振りかざした。さっき、木の枝を切り落としたのを思い出して思わずマメが男の前に身を乗り出す。
「ちょっと待ってよ。助けてあげてよ」
マメが懇願するが、彼の瞳に迷いが無い。折角自分が助けたのに、それは無いじゃないかと言おうとすると、男の気がついたのか、頭を抱え、唸りながら起き上がった。
「ああ、びっくりしたぁ」
溜息の様に男はそう言って崖の上を見上げた。およそ五メートルくらいだろうか、あそこから落ちて無傷な事に驚いているらしい。不意に男が振り向いて、明神は扇子をしまった。
「君が助けてくれたのかい?」
「いや」
男の問いかけに明神は無表情で応えた。男は頭をかくと彼をじっと見つめている。平成に入ってから十年過ぎているのに、作務衣で彷徨く子は珍しい。夏越祭も先週終わった所だったので、少し気になった様だ。
「私よ私! 私が助けてあげたんだからね!」
自慢気に目の前をうろうろしながら声を上げたが、どうも男にはマメの姿も声も聞えていないらしい。
「うちにも君と同い年くらいの息子が居るんだ。やんちゃで落ち着きが無いんだが……君は、近くの神社かお寺の子?」
明神が軽く頷くと、男ははにかんだ様に笑って立ち上がった。服についた砂を払うと、今度は明神が口を開いた。
「山を下りた方が良い」
マメは首を傾げた。今しがた自ら手を下そうとしていたのに、その相手にかける言葉がそれなのかと訝った。
「ああ、何処も痛くないから大丈夫だよ。心配かけてすまないね」
体を気遣って言われたのだと男は思ったのだろう。ふと、男は思い出した様に言った。
「ねえ君、古いお墓とか祠とか知らないかな? 実はおじさん、地元の郷土史を調べていて、千年前の鬼の墓を探しているんだけど……」
明神はそれを聞くとゆっくりと瞬きした。
「そんなものはない」
「悪虐非道の限りを尽くした鬼が伝承では討ち取られたって話でね……」
男が説明しようとすると、彼は溜息を吐いた。
「例えあったとしても、そんなもの調べて何になる」
「あったとしたら世紀の大発見じゃないか! 千年前に、鬼が実在した証拠になる」
興奮して話す男を他所に、明神は呆れたのか再び溜息を吐いた。
「知らない」
明神が男の横を通り過ぎて山を下り始めると、マメは彼に付いて行った。男はそのまま山を登って行く様だった。
マメは何度も振り返りながら、男の姿が見えなくなるのを確認した。
「変な人ね。鬼なら目の前に居るのに、お墓を探して居るだなんて。そうでしょ?」
嘲る様に言うと、彼は視線を泳がせた。
「千年前に、この辺りの山や里を鬼が治めていたという伝説が残っているんだ」
明神の話にマメは首を傾げた。
「大昔の事でしょう?」
「まあ、詳しい事は知らないが、うちの先祖の誰かなんだろう。ああやって墓荒らしに来る輩が後を絶たなくて困る」
「墓を暴いて何になるの?」
マメの言葉に彼は瞳を宙に投げた。
「俺には他人の墓を暴く趣味が無いから解らないが、大昔の事を根掘り葉掘り知りたがる連中はいくらでも居る。異国の墓には財宝が眠っていたりするからそういうのが目当てなんだろう」
ふーん、とマメは鼻を鳴らした。もう一度振り返ったが、草木に遮られてもう男の姿は見えない。森の奥へ踏み入る音だけが微かに聞こえていた。墓を荒らされたら嫌だから殺そうとしたのだろうか? けれども、そんなものは無いとも言っていた。墓が無いのであれば暴きようがない。だからマメには彼の言動の意味が解らなかった。
「あ、閻魔帳にちゃんと書いておいてよ。木鼠とね、人間を助けたんだから!」
マメの言葉に明神はそっと目を伏せた。何か考え事をしているのか、彼は何も言わなかった。
山を下りて里に出た。里がこんなに明るくて広い事をマメは知らなかった。穂を付けた稲が田んぼに整列している。細い農道を軽トラックが走って来ると、明神とマメは畦道に避けた。とても長閑な土地だった。
ふと、リードに繋がれて人間と歩く飼い犬が居た。紐でつながれているのにボーダーコリーが嬉しそうに歩いている。マメにはそれが奇妙に映った。
「あの犬は人間に捕まっているのに何故、あんなに嬉しそうなの?」
マメの質問に、彼は少し考える素振りをした。どうやら言葉に困ったらしい。
「そういうふうに躾られているんだ」
彼の言葉の意味がわからず首を傾げる。マメがボーダーコリーに近付いて首輪についたリードを外してやったのに、犬は行儀良くその場に座り、飼い主がリードを付け直すまで逃げずに待っていた。
「何故、逃げないんだい?」
恐る恐る聞いてみた。逃げたら殺すと脅されているのだろうか? 家族を人質にでも取られているのだろうか? そんな理由を心底期待していた。
「どうして君はリードを付けていないんだい?」
そう聞き返されてマメは頭を悩ませた。
「何を言っているんだい。そんなものをつけられたら好きな所へ行けないし、首が苦しいじゃないか!」
「君は知らないのかい? リードや首輪を付けていないと、人間と仲良くない犬だと思われて捕まって処分されてしまうんだよ。人間は犬が怖いんだよ。だから、人間と仲良くしているって証拠なんだよ。こうしていれば、毎日美味しいご飯がもらえるし、暖かい毛布も貰えるんだ。大好きなボールで遊んでも貰えるよ」
マメは信じられない話に目を白黒させた。ボーダーコリーが飼い主と一緒に行ってしまうと、マメは明神を見上げた。
「あの犬は頭がおかしいんじゃないのかい?」
マメの言葉に彼は目を伏せた。
「そういう考え方もあると言うだけだ」
彼の言葉の意味が分からず、口を開けたり閉めたりしたが、声にならなかった。洗脳されているだとか、頭のネジが緩んでいるのだとかそういった答えを期待していたのに、そういう考え方。と言われてしまうと二の次が出て来ない。
「そう……そういうものなのね……」
釈然としないが、彼と議論した所でどうしようもない。リードに繋がれている犬を見て私はおかしいと感じたが、本人はそれが当然だと思っている。本人が納得しているのにあれこれ口出しするのは野暮かとも思った。
それから結構歩いた。公園の前を通りかかった時に、ベンチに腰掛けて俯いている女性が目に入った。三十代くらいの女性の右手には空の瓶が握られていた。明神が近付くが、女性は寝ているのか動かない。
「あのさ」
不意に声をかけると、驚いて女性は顔を上げた。思わず持っていた瓶が飛んで、少し離れた地面に転げる。
「は〜……びっくりした」
「しんどいなら家に帰って寝てろ」
「ちょっと休憩してただけよ」
肩程に伸びた髪をかき上げながら女は呟いた。顔色は悪く、少し苛ついている様にも見える。女性の名は橋本 春香と言った。春香は徐に立ち上がると、落とした瓶を拾い上げた。栄養ドリンク剤と書かれた瓶を見つめると、深呼吸する。
「明神くんは散歩? 珍しいわね」
春香が振り返って聞くと、彼は軽く頷いた。
「まあ、たまにはそういう日があってもいいだろう」
「ええ〜……じゃあ、今度一緒にピクニックに行きましょうよ。家に麻紐あるから、それで籠バッグ作って欲しいなぁ」
春香の提案に彼は考えるようにゆっくりと瞬きした。
「あんたの気晴らしになるなら良いけど」
「じゃあ決まりね。今月は無理だけど、来月の何処かで……また連絡するわね」
そう言って立ち上がると、春香は伸びをして首を回した。笑みを浮かべていた春香が彼に背を向けると、明神は扇子を出して広げる。
「待ってよ! 知り合いなんでしょう?」
マメの言葉も虚しく彼が扇を振ると、その風が春香の右足に当たった。春香も違和感があったのか、一度立ち止まって右足を気にする素振りをみせたが、そのまま歩いて行ってしまう。マメは何が起こったのか解らずに首を傾げた。
「何をしたの?」
「明日には分かる」
彼がそう言って歩き出すと、マメは春香の背中を見送って彼に付いて行った。
大きな道路を渡り、橋を渡り、住宅街を横切り、小高い丘を越えた。
後から着いてきていた彼が不意にこっちへ来る様に呼んだ。とある一軒家の庭先にお腹の大きな雌犬が横たわっている。優しそうな人間の親子が代わる代わる母犬に声をかけていた。
「もうすぐ産まれるから、お前をあの仔犬に入れてやろうと思う」
明神がマメの額に手をやると、母犬のお腹の中に六匹の仔犬が見えた。けれども一匹だけ、どうも元気がない。
「転生する魂が上手く入って来なかったんだろうな。死産という形になるから、お前に入って貰ったら丁度良いと思うのだけれど……」
彼の言葉に戸惑った。
「今のままでは好きなもの食べられないし、他に友達も作れないだろう?」
「また虐められたらどうするの?」
マメの問いに彼は目を伏せた。
「また捨てられるかもしれない。拾われた先で嬲り殺されるかもしれない」
マメの言葉に、彼は何も答えなかった。答えられなかったのだろう。
翌日、明神が学校へ行くのを見て興味があった。
「鬼も学校に行くのね」
マメは嬉しそうにそうに呟いた。
「おかしいか?」
相変わらず何の感情も伴わない顔で彼は聞いた。
「指鬘外道って話があってね、人を沢山殺した大悪党でも、お釈迦さんの教えを受けて悟りを開いたのよ。鬼でも人でも、学ぶ姿勢は大事よ」
マメは得意気に話した。明神は考える様に一度瞳を宙に投げたが、何も言わずにマメに視線を戻した。
白塗りの校舎に入ると、同い年くらいの生徒と同じ教室に入った。先生が一方的にずっと喋っている。人間にはマメの姿が見えていないので、マメは彼の後ろに横たわり、つまらなそうに欠伸をしていた。
鐘の音が鳴って、先生が教室を出て行ったので休み時間らしい。暖かい日差しに誘われて外へ出ようと体を起こした時、聞き覚えのある声に鳥肌が立った。
「俺、見たんだよ。あいつが犬を殺しているところを」
その声に嫌悪し、言葉に驚いて彼を見上げた。彼は冷めた目で言いがかりをつけて来たクラスメイトの行定 淳を見つめている。
「そんなことするはずないだろ?!」
他のクラスメイトの橋本 直人がそう言い放って、我に返った。
そうよ! この子が私を殺すわけないでしょ!
そう言おうとした。喉まで出かかっていた。
「どうでもいい」
彼の言葉に驚き、傷ついた。
「嘘でしょう?」
彼は何も言わなかった。否定してほしい。否、嘘に決まっている。ただ、肝心な所は覚えていなかった。目も見えなかった。だから、もしかしたらそうかもしれないと思った。
「この、犬殺し! 次は何を殺す気だ?」
「お前の父親」
明神が呟くと、行定は口籠った。彼の眼に気圧されて行定はおずおずと引き下がった。
「何であんな事言ったんだよ?」
放課後、帰宅途中の明神に直人が声をかけた。彼よりも頭一つ分直人の方が背が高かった。
「何が?」
「お前が犬を殺すとか……そんな可哀想なことするわけないだろ?」
マメも彼の側で聞き耳立てていた。否定してほしい。一言。たった一言で済む事だった。
「あのさ」
溜息混じりに彼が口を開いた。
「俺はお前が思っているような奴じゃない」
「は? だってお前良い奴じゃんか! 巣から落ちた雛を助けてたじゃんか」
それを聞いて、やっぱりそういう子なんじゃないかと安堵した。一瞬でも彼を疑った自分が恥ずかしい。
「それが?」
「…………は?」
直人にも、マメにも何故、聞き返されたのか意味が分からなかった。
「お前のしたことは可哀想な雛を助けたから良いことだろ?」
「了見が狭い」
「え? 何?」
マメは小さい脳みそをフル回転したが、全く彼の言っている事が理解出来なかった。
「違う、鳥の話じゃなくて犬! 殺したりしてないだろ?」
そう、そこよ! と叫びたくなった。彼の視線が一瞬だけこちらを向いた。
「やった」
と言われてマメは言葉が出なかった。
「……そんなはずないだろ?」
直人はマメの言葉を代弁してくれている様だった。
「買い被るのも大概にしろ」
直人の手が、彼の頬を思い切り叩いた。
「見損なった!」
直人が吐き捨てて行ってしまうと、マメは彼の顔を見上げた。彼は真っ直ぐマメを見ていた。
「すまなかった」
ポツリと呟くと、明神はその場に座り込んだ。マメはマズルに皺を寄せていたが、彼の顔が哀しげに見えて思い留まった。
「だから私を、他の仔犬へ転生する様に、用立ててくれたの?」
「嫌か?」
マメは首を横に振ると彼を見上げた。
「あなたはちゃんと、自分の過ちを認めて反省し、謝罪する事が出来る良い子ね。許してあげるわよ」
どうせ生きていたってろくな事無かったんだし……と呟くマメの頭を優しく撫でた。
「マメは良い子だな」
「そうでしょう? だからさっさと閻魔帳にマメは良い犬って書いて閻魔様に出しといてよ」
マメの言葉に彼はそっと目を伏せた。
麻紐を手繰る手は細くて小さく、白かった。まるで動きを覚えた機械の様にどんどん籠鞄の形に編み上げられている。マメはその様子を珍しそうに眺めていた。明神は手を休める事なく思い出した様に呟いた。
「小三の頃に道路に落ちている雛を拾った事があったんだけど……」
当時の事を思い出しながら話すと、隣に座っていた橋本 春香は相槌を打った。明神は学校が終わって直ぐ橋本家にお邪魔していた。というのも直人の母にピクニックへ持っていくバスケットを作って欲しいと頼まれていたからだった。マメは三角の耳をピンと立てて彼の話を聞いている。
「直人も言ってたわね。巣に返してあげたんでしょう? 直人が興奮して話に来てくれたから覚えてる。人間の臭いがついたら可哀想だからって、泥や枯葉で手を汚してたって直人が言ってた」
直人の母親は脇に置かれた洗濯籠の中から乾いた洗濯物を取っては畳んで並べている。
「後で様子を見に行ったらまた落ちてた」
明神の言葉に直人の母親は少し目を伏せた。
「どうも他の兄弟に追い出されて落ちたらしくて……飼ってやればよかったと思うけど、もうその時には死んでた」
直人の母親とマメは静かに話を聞いていた。
「鳥獣の保護は禁止されているし、もし仮にあの雛が、俺が助けた事によって生きながらえたとして、世の中の野鳥にどれ程の影響を与えただろうかと考えれば、大した影響なんてないはずなんだけど……そう考えると俺って生きている意味があるのだろうかと思うんだ」
「あるに決まっているでしょう」
強く直人の母が反発すると、明神は春香を一瞥したが、無視して言葉を続けた。
「直人は自分の気持ちに素直な所が羨ましいと思う。でも、どうも俺の事を美化していて、良い人だと思っていたらしい」
「明神くんは良い子よ?」
直人の母親の言葉に一瞬彼の眉根が動いた。
「だからな、そういう事じゃなくて……」
「私もそうだけど、あの子は明神くんみたいに頭が良くないから、難しい事を言っても分からないわよ。落ちた雛鳥を助け上げた事を後悔してるの?」
彼の瞳が小刻みに揺れた。
「人として間違った事をしたと思う。鳥獣だの、家畜だの、愛玩動物だの、希少動物だのと人間が線引したが為に個々の命に優劣をつけるこの社会がおかしいとも思う。だからと言って法を犯していい理由にならない事も分かってる。ただ、あれが野鳥じゃなくて他の動物だったなら、人の手を借りて生きながらえる事も出来たんじゃないかと不毛な事を考えてしまうんだ」
春香は黙って耳を傾けていた。そんな話をしながらも、彼の手は止まることなく、どんどん籠鞄が出来上がっていく。
「この世界は生き死にの連続で成り立っているし、生まれながらに弱いからといった理由で強い鳥が生き残る為に巣から追い立てられるのも自然の摂理なんだろうけど、あの雛鳥が二度地面に叩きつけられる行動をとってしまった俺を、良い人だなんて言われる筋合いない」
言葉とは裏腹に終始静かな口調だった。
「そうなると解っていて巣に返したわけではないでしょう?」
「そういうつもりがあったとか無かったとかいう問題じゃない。自分の行動によって命を弄ぶ結果になったのは事実だ。俺の気持ちは関係ない。育児放棄して餓死させておいて殺すつもりは無かったとか言う大人にはなりたくない」
籠鞄が出来上がると、残った麻紐を纏めていた。
「相変わらず、自分に厳しいのね」
元々、少し気難しい性格の子だという事を春香は解っていた。この年頃独特の、社会の矛盾にぶち当たって苦悩しているのだろう。
「あんたはどうなの?」
明神の言葉に春香は首を傾げた。
「家の事に手が回らなくなる程疲弊するまで仕事して、どれだけの給料が貰えるか知らないけど、後になってから自分の貴重な人生の時間を無駄にしたって思う様な生き方してないか?」
春香は思い当たる節があってゆっくりと深呼吸した。
「でも、みんな困ってたし……」
「良い人って思われたいと思う事自体は悪い事じゃない。ただ、そんな他人の物差しに振り回されて、自分を安売りするのは感心しない。それをあんたが望んだ結果だと言うのなら俺は何も言わないけど、他人に都合の良い人と思われて体を壊しても、誰も責任なんか取らない」
春香は眉間に皺を寄せ、口をへの字に曲げて俯いていた。
「息子に対しても同じだ。母親は家政婦じゃないんだから、出来る限り家の事をさせた方がいい。その方があんたも楽だろうし、息子も社会人になってから困らなくて済むだろう」
「それは……そうなんだろうけど……」
「いつまでも健康なまま生きていられると思うなよ」
明神の真っ直ぐな眼に気圧されて春香は困った表情をした。
「……気を付けます」
春香はそう呟くと大きく息を吐いた。
「ここの取手の所に蝶々付けてよ」
まるで恋人に強請るように指し示した。明神は足元の東袋から水引を数本出すと器用にだきあわじ結びをして形を整える。紺、紫、白の水引で出来た蝶を机に置くと、今度は紅と白で小さな梅結びを作り始めた。マメは自分の額に貼られた札に描かれた梅結びと見比べた。
「相変わらず上手ね」
「水引には祈りの意味があるんだ。せめて生きている間くらいは幸多い人生であるように。俺にはそう祈る事くらいしか出来ない」
マメはそれを聞いて、彼が自分の幸福を祈ってくれているのだと感じた。
出来上がった小さな梅結びを蝶の右前翅に二つ付けた。左前翅の端に水引を一本通し、鞄の取っ手部分にあわじ結びで留める。
「ありがとう」
そう言って春香は傍らに置いていた鞄から財布を取り出した。千円札を三枚封筒に入れて差し出すが、彼は手を出さなかった。
「千円の約束だけど」
「出したもの引っ込めれないでしょう? 貰っときなさい」
それでも受け取るのを拒むと、春香はにこりと笑った。
「私、足が今こんなだから、代わりに買い物とか行って来てほしいなぁ」
いたずらっぽく笑うとギブスを履いた右足を見せた。明神は呆れた様に溜息を吐くと、封筒を受け取った。
「ただいま〜」
橋本 直人の声が聞こえた。マメは風呂掃除をしている明神の側でじっと様子を伺っている。「おかえり〜」という優しい声が居間から聞こえて来た。足音荒く階段を駆け上がる音がして、彼は溜息を吐いた。
「よく分からないのだけれど」
マメの問いかけに明神は視線だけ寄越した。
「私は昨日、貴方が春香さんに意地悪をしようとしたんだと思ったの」
彼は反論しなかった。
「貴方は、春香さんに休んで貰いたくて怪我させたのね?」
それでも、彼は何も言わない。
「山で会った登山者も、殺す気は無かったのよね?」
「お前がそう思うのなら、それが真実なんだろう」
明神の返答にマメは不思議そうに目を丸くした。
「俺には両親が居ない。だから他人の家族に取り入って家庭崩壊を目論んでいるだとか、人に災いを齎すだとかそういった噂に暇が無い。現に、俺が春香の足を折ったのは事実だし、そのせいで仕事に行けなくなった。彼女の収入は減るだろうし、後遺症が残るかもしれない。それを、良い事と捉えるか悪い事と捉えるかは俺の知った事じゃない」
マメは困った様に項垂れた。
「ただ、不幸を俺のせいにする事で生きる糧になるというのならいくらでも悪く言われたって構わない。だからお前も、俺が殺した事を許すと言うのなら、自分の幸せを選んでほしい。もし、お前の言う通り生まれ変わってもまた捨てられる様な事があったら、その時は俺に出来る限りの事はする。俺が飼えば、周りから石を投げられる事は想像つくから、飼ってはやれないけれど……」
マメは嬉しくて尻尾を振ったが、彼の表情は相変わらずだった。
「無責任だろう?」
「あのね、何も生まれて死ぬ迄、乳母日傘で面倒看てくれなんて誰も思いはしないわ。そりゃあ、貴方が良い子だって事は解っているし、拠無い理由があって不幸を被る事はある。それは生きていれば皆同じよ。全部貴方が背負う必要はない。私を死なせてしまったからと言って責任を感じてくれるのは嬉しいけれど、そこまで過剰な責任を私は求めていないわ。もう許したんだから、胸張って生きなさいよ」
マメの話に彼は了承したように会釈した。
二階から足音荒く駆け下りてくる足音と、直人の声が響いた。
「母さん! 俺の部屋に勝手に入ったの?!」
「何度言っても片付けないから」
「勝手に入るなって言って……」
親子が言い争う声が聞こえる。マメはそっちが気になって居間へ足を運んだ。
「……どしたの? その足」
「ん〜誰かさんの部屋のシーツやら脱ぎっぱなしのパジャマやらを抱えて階段を降りてたら足を踏み外しましてね。骨にヒビが入りましたわ」
ほほほほほ……なんて嫌味を直人の母が言っていた。
「え〜、じゃあ今日の晩飯は?」
直人が振り返るとテーブルの上にお皿が並んでいた。鮭の塩焼きと肉じゃがとほうれん草のお浸しが並んでいる。料理の上には蝿帳が掛けられていた。さっき明神が作っていた料理を目の前にして、直人が目を丸くしている。
「ご飯は炊飯器に炊けてるから。あと、コンロのお鍋に卵スープ作ってくれてるのよ」
母はそう言いながら松葉杖をつき、対面式キッチン横のテーブルに移動した。
「良い子よね。うちの子にしたいくらい」
マメも、この人が彼の母親だったならどんなに良いだろうかと想像する。
「良い奴なんかじゃねーよ。あんな奴」
直人の言葉に母が驚きの表情を浮かべた。
「何? 喧嘩でもしたの?」
「喧嘩じゃなくて……クラスの行定が飼ってた犬を殺したんだよあいつ」
更に驚いたのか、母の目が一層大きく見開かれた。
「理由は聞いたの?」
「どうでもいいとか言ってた」
それを聞いて信じられないと言いた気な顔をする。マメがじっと二人の様子を伺っていると、掃除が終わったのか明神が顔を出した。
「あいつどうかしてるよ。案外母親殺したって話も本当なんじゃないの?」
「直人!」
春香が思わず声を上げた。母の視線が明らかに直人の後ろを見つめている。直人が振り返ると明神が立っていた。頭に梅結びの絵が描かれた手拭いを巻いている。それを取ると軽く頭を下げた。
「用事があるのでお暇します」
全く表情を変えることなく静かにそう言った。
「待って! 誤解でしょう?」
「息子の言うこと、母親が信じてやらなくてどうする」
春香の言葉に反論してそのまま出て行った。居心地が悪かったのだろう。きっと怒ったのだと思う。悲しかったのではないだろうかと思った。だからマメは彼に付いていくのを躊躇した。多分、一人になりたいだろうと思った。
春香は頭を抱えて大きな溜息を吐いた。
「直人、明神くんのお母さんが亡くなったのはあの子が三歳の頃だったのよ? 三歳の子に何ができるって言うの?」
彼にも、母親がいないのだと知った。
「けど、行定の犬を……」
「確かに、生き物の命を奪うのは悪いことよ? でも、それは直人が飼ってた犬じゃないでしょう? 当事者でもない、理由もよく知らないのに一方的に彼を責めるのは間違ってるわ。明日ちゃんと謝って、もう一度話を聞いてあげなさい」
「聞いてもあいつは言わない……」
「直人は明神くんの話を信じてあげた?」
母に問質され、直人は思い返した。
「やってない、やるはずないって、自分の理想を彼に押し付けてない? 誰にだって間違いはあるものよ? ちゃんと自分のした事を認めたのに話を否定されたらそれ以上何も言わなくなる子よ? 相手を信じることと、自分の理想を押し付けて事実を捻じ曲げることは違うのよ?」
「……わかった」
直人がそう言うと春香はほっと胸を撫でおろした。マメはそんな親子を見届けると、その場を後にした。
翌日、明神が自分の席につくと、マメは隣に座り込んだ。
「別に来なくてもいい」
誰もいない教室に向かって彼が呟いた。
「確かめたい事があるの」
マメが呟くと、ニ、三人、四人と他の生徒が教室へ入って来た。そのうち行定が登校して、明神の姿を見つけるなり詰め寄った。
「おい! お前、本当に親父を……」
行定の体が小刻みに震えていた。今にも泣き出しそうな顔をしているが、明神は何も言わない。
「人殺し!」
行定が腕を振り上げると、そこへ直人が駆け寄って二人の間に滑り込んだ。
「何だよ? 何があったんだよ!」
「こいつ、本当に俺の親父を殺しやがった! 山の尾根付近で親父の死体が今朝見つかったんだよ!」
行定の言葉で直人は彼を見返したが、相変わらず表情が変わらない。
「警察は?」
「事件性はないから事故だろうって……けど、こいつ昨日言ってただろ? 俺の親父を殺すって! たった一匹の犬痛めつけたくらいで……!」
マメはそれを聞くと、立ち上がって牙を剥いた。しまったと思ったのか、行定が口籠る。他のクラスメイトは居心地が悪いのか教室から出て行ったり、教室の隅へ移動して遠目に見ている。
「痛めつけた?」
「違う! 可愛がってたんだ! それなのに俺が飼ってた犬をこいつが殺したんだ!」
マメはそれを聞いて苛立った。
「じゃあ明神、行定に謝って。それで行定も許してやろうよ。お父さんの事は偶々不幸な事故が重なっただけだと思う。明神も、軽々しく誤解させるような事を言ったのは不味かったんじゃないの?」
直人の提案に、マメは眉根を寄せた。こんなの絶対におかしい。どうして彼が謝らなければならないんだ? 寧ろ、謝ってほしいのはこっちだ。
「許してほしいとは思わない」
彼の言葉に行定と直人は目を剥いた。マメも不意を突かれてきょとんとしている。
「あのさ、悪いことしたらごめんなさいだろ?」
「謝れよ! 俺のペット返せ!」
直人の言葉に行定が便乗して声を上げると、明神は溜息を吐いた。
「じゃあ聞くけど」
彼の流し目が少し怖かった。
「目をホチキスの針で止めたり、鋏で尻尾や耳を切り落としたり、火傷させたり、挙げ句紐で柱に繋いだままにして何日も餌も水も与えないで放置するのは飼い主としてどうなんだ?」
直人は思わず行定を見た。マメは悔しそうに顔を歪めている。
「放置じゃなくて忘れてたんだよ。それにちょっとカッコよくカスタムしただけじゃん」
悪びれもしないで平然とそう言ってのけた行定に直人が殴りかかろうとした。けれどもそんな直人の腕を明神が掴んでいた。
「何でそんなこと……」
「何で? 俺が飼ってるペットを俺がどうしたっていいじゃないか!」
行定の言葉にもう迷いなど無くなっていた。
「ペットは物じゃない! 家族の一員だろ?!」
「だから殺されたら腹立つじゃん。もっと遊ぼうと思ってたのに」
無邪気な行定の声がどんどんマメの中の憎悪を育てた。あいつの喉元に噛み付いてやりたかった。
「分かった」
明神がそう言うと直人は彼の手を振り払った。
「お前もな! そんなの見つけたら動物病院に連れて行くとか……!」
直人は言いかけたが、この里に動物病院はない。山の向こう側まで行けばなくはないが、車かディーゼル機関車で行く必要がある。自分だったら、どうしただろう? 親に相談して車で四十分かかる街まで出て、治るかどうかも分からない犬を動物病院まで連れて行くだろうか? それならいっそのこと、苦しみが少しでも長く続かないようにと手を下したのは彼のせめてもの優しさだったのではないだろうか? そう考えると尚更、行定のしたことが許せなかった。
「何で止めるんだよ!」
「もう止めない」
明神が即答すると直人は再び行定を殴ろうと拳を振り上げたが、行定は天井を見上げていた。直人も天井を見るが何もない。行定が悲鳴を上げて教室を飛び出すと、直人は何が起こったのか分からずに呆然と立ち尽くした。
行定は走っていた。教室を飛び出してから何処をどう走ったのか覚えていない。振り向けば直ぐ後ろに化け物が居た。息を切らせながら必死にさっきの事を思い出していた。
「……何で……」
行定の脳裏に明神の姿が映った。彼の隣に、両目をホチキスの針で止められ、耳の無い犬が息を切らせながらこっちへ顔を向けている。額には赤い梅結びの絵を描いた小さな紙が貼られていた。幻かと思ったが、犬がどんどん大きくなって見上げる程になるとその場から逃げ出さずには居られなかった。
悪い予感がした。
行定が疲れて足を止めると、いつの間にかあの橋の下に来ていた。何故ここに来てしまったのだろうかと思いつつ引き返そうと振り返ると、そこにさっきの犬が立っていた。お腹が酷く焼け爛れている。
「は……はは……」
行定は後退りしたが、犬は牙を剥き出しにして彼に飛びかかった。犬の鋭い爪が行定の両目を切り裂く。彼の悲鳴が橋架下に反響した。
「おいで」
ふと、誰かの声がした。行定の腹に噛み付いていた犬が声のした方へ向き、唸っていた。
「もう十分だろう?」
「何故止めるの?」
「生きているものは何れ死ぬ。態々お前が手を下すまでもない。そいつは遅かれ早かれ地獄行きなんだ。そんな奴の為に自ら地獄へ逝く必要は無いだろう」
「こいつを許せというの?!」
マメの悲鳴に似た声が、悲しく響いた。
「何でだよ……」
ふと、行定が声を上げた。マメが視線を落とすと、両目を押さえて身悶えている行定が横たわっている。
「マメを殺したのはあいつじゃないか。何で俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ!」
「まだ言うかこのクズ!」
マメが行定の喉元に噛みつこうとすると、明神の声が響いた。
「その通りだ」
マメの動きが一瞬止まった。
「お前を殺したのは俺だ。お前の恨みも怒りも俺が引き受けるから、だからこっちへおいで」
その場に膝を付き、手を差し伸べている明神の元へゆっくりとマメは歩き出した。彼に面と向かって殺したのは自分だと言われても、マメにはどうしても彼に飛びかかる勇気が無かった。
「痛えよ……早く救急車呼べよ。そこに居るんだろ? 助けろよ!」
行定の言葉にマメの毛が逆立った。どうしても、許せなかった。自分に止めを刺した彼よりも、散々命を弄び、反省も謝罪の一つもない行定の方が許せなかった。
「俺に救いを求めると言うことの意味が分かっているのか?」
明神の言葉にマメは肩を落とした。やはり、そうなのだろう。それが、鬼と呼ばれる由縁なのだろうと思った。
行定も理解したのか、慌てて声を上げた。
「待て、辞めろ。たかが犬一匹痛めつけたくらいで……」
「命に優劣をつけるなとは言わないが、命に対しての向き合い方は改めるべきだと思う」
マメは我慢がならなくなって再び行定に駆け寄った。たった一言、謝って欲しかった。最期に、初めて出会った時の様に抱き締めて欲しかった。だから行定の腹に鼻先を突き入れた。
「来るな化け物!」
そのまま、彼の腸に深く牙を押し沈めた。鉄を含んだ生臭い液体が口の中に溢れた。
直人が家に帰ると、早退した筈の明神が家に居て眉間に皺を寄せた。紺の作務衣に、頭に赤い梅結びが描かれた手拭いを巻いている。学校さぼって何をしているのかと問い詰めようと思ったが、まだ謝っていないことを思い出して思いとどまった。
「直人、おかえり〜」
母はソファに座って洗濯物を畳んでいる。台所で料理をしている彼に近付くと頭を下げた。
「ごめん」
溜息が聞こえて顔を上げるが、彼の表情は相変わらずだ。
「気にしてない」
そうだろう。気にしていたら家に飯作りになんか来ないだろう。
「そんなわけないだろ? 俺が明神の立場だったら腹立つし……」
口も聞きたくないのではなかろうかと思う。
「直人、その辺にしときなさい」
ソファで話を聞いていた母が口を挟んだが、直人はもう一度彼に聞き返した。
「許してくれるの?」
再び彼が大きな溜息を吐いた。
「お前はさ、俺に何を期待しているんだ?」
直人は首を傾げた。
「だって普通怒るじゃんか。俺関係ないのに勝手に怒って明神の話聞きもしないで殴って、酷いこと言って……」
「反省することは良いことだが、終わったことを蒸返したり引きずるのは感心しない」
言葉を遮られて尚更腹が立った。
「なんだよそれ」
「善悪なんてその時の状況や立場で変わるからどうでもいい」
偶に、自分は一体何と会話をしているのかわからなくなることがある。ちゃんと自分は、同じ血の通った人間と話をしているのだろうか? と……
「直人、明神くんが気にしてないって言ってくれてるんだから、素直に信じてあげなさいよ。しつこいと嫌われるわよ〜。明神くんごめんねぇ」
母に言われて直人は口籠った。
「じゃあせめて一発殴って。それでチャラにしよう」
明神が訝しげに眉根を寄せた。
「お前さ、自分の母親の前で殴られるとか自尊心の欠片も無いのか? 産んでもらった母親に申し訳無いと思わないのか」
「あ、私は気にしないわよ。男の子なんだから後腐れない様に一発殴っときなさい」
「傷害行為を助長するのは感心しない」
母が驚いた様に目を丸くし、舌を出して笑った。
「けど……」
「生き物の命を奪う事は悪い事だ。俺が間違った事をしたから、それを正そうとしたのも理解している」
「悪い事だって解ってて何でそれをするんだよ!」
直人が言葉を遮ると、明神は軽く溜息を吐いた。直人の母に視線を向けると、母はにこりと笑う。
「ちゃんと話してあげなさいよ。大丈夫。私も聞きたいし、解るから」
そう言われ、明神は花瓶を指し示した。百合の花が一輪挿してある。
「あの花を見てどう思う?」
「花? 綺麗だと思うけど」
「結婚式のブーケを思い出しちゃうのよねぇ。少し切ないけどいい花よ」
春香がそう言うと、直人は首を傾げた。
「俺は無性に腹が立つ」
表情は変わらないが、意外な彼の言葉に二人は驚いた。
「人には、何かを見る時にどうしても自分の主観が入ってしまうんだ。だから、俺が死にかけていた犬を見つけて、首に巻き付いた紐を切ろうとしたのを、無理に引っ張って首を締めた様に行定には見えたんだろう」
明神の言葉に直人は息を飲んだ。
「殺すつもりは無かったんだろ?!」
直人の言葉に明神は息をついた。
「……殺すつもりがあったとか無かったとか俺の気持ちは関係ない。俺の腕の中で動かなくなったのは事実なんだ。生きているものは何れ死ぬ。俺があの現場に居なくてもあの犬は死んでいた。だからどうでもいい」
「どうでも良くない!」
直人が怒鳴るが、彼の表情は変わらなかった。
「お前が殺したわけじゃないじゃないか!」
「行定がそう思ったのならそうなんだろうし、お前がそう思うのならそうなんだろう。当事者でも無い奴が、どちらか一方の言葉だけを鵜呑みにするのはどうかと思う」
直人は自分が馬鹿にされていると思った。何の感情も伴わない彼の言葉が冷たく感じる。
「明神くんは……」
春香が口を開くと、直人と明神は母に視線を向けた。
「その犬を助けようとしたのね。可愛そうだったね。間に合わなくて後悔しているのね」
春香の言葉に直人は唾を飲み込んだ。
「もう少し早く見つけてやれればよかったとは思うが、済んだ事を悔やんでも仕方ないだろう」
それを聞いて春香が笑った。
「明神くんらしいわね」
直人は冷静さを取り戻した。また彼を叩こうとした自分が情けなくなってくる。
「行定のお父さんは?」
「鬼の墓を捜しているとか言って山に入って来ていた。一応忠告はしておいたが、そのまま山へ入って行くのを見送った。大抵あの辺りは滑落事故で即死するのが常だから、会った時に足の一本でも潰して無理にでも下山させておけばよかったと思う。まあ、そうしなかったんだから俺が殺した様なものだろう」
直人は遣る瀬無い気持ちになった。きっと、子供の言う事だとあしらわれてしまったのだろうと想像する。もし、行定の父が明神の言う事を聞いて下山していれば、死なずに済んだのだ。
「明神のせいじゃない」
「そう思うのなら、そうなんだろう」
不意に何故、あの花に嫌悪するのか気になった。
「何で花が嫌いなんだよ」
「……」
口籠る明神の表情は相変わらず冷たかった。
「別に嫌いではない」
「は?」
「勝手に産んでさっさと死んで逝った母親を思い出す」
また地雷を踏んでしまったと直人は思った。
「別に花に罪はないじゃんか」
「だから、それは俺の主観であって罪のあるなしは関係ない」
「母ちゃんの事をそんなに毛嫌いするなよ」
直人の言葉に明神はゆっくりと瞬きした。
「生きていれば親孝行の一つも出来たのに、親の幸せを祈る暇すら取り上げられた事に腹を立てているだけで、尊敬していないわけではない」
それを聞いて直人はぽかんと呆気に囚われた。春香がそれを見て笑っている。直人は頭を捻りながら明神と母の顔を交互に見た。
「……わっかんないけど……わかんない事だけは分かった」
「素直でよろしい」
明神はそう言うとそっと目を閉じた。
ーー雨の音がする。橋の下にダンボールが置かれていた。そこが私の家だった。捨てられた理由なんて知らない。気付いたら捨てられていた。お母さんも、兄弟も居なくて寂しかった。
「お、かわいい」
子供の声に顔を上げた。拾って下さいと書かれたダンボールの中を行定が覗き込んでいる。ランドセルを下ろすと、彼は鞄からビニール袋に入ったパンの欠片を出した。
「給食の残りやるよ」
ダンボールの中に置かれ、お腹が空いていたので早々に食べた。行定が嬉しそうにパンをちぎってダンボールの中へ放り込む。パンを食べ終わると、行定は犬を抱き上げた。
「お前かわいいな。小さいからマメって名前な」
嬉しくて尻尾を振った。寂しさが何処かへ飛んで行く。行定に抱きかかえられてダンボールの外へ出た。
「元の場所へ返して来なさい」
行定とマメに、おっかない声が浴びせられた。最初こそ反発していた彼も、どんどん元気がなくなっていく。
「うちは団地だから飼えません」
母親を説得出来ないまま、行定はマメを抱いて家を後にした。
「いいや、黙って飼ってやろ」
行定は嬉しそうに言った。またあの場所に戻って来たが、彼は何度も頭を撫でてくれた。それから毎日、給食の残りを持って来てくれた。そんな楽しい時間がずっと続くと信じて疑わなかった。
「飽きた」
その言葉が行定から発せられてから、なかなか会いに来なくなった。ビニール紐で繋がれたまま、何日も何日もそこで彼が来るのを待った。偶に来て食べ物をくれたけれど、もう撫でたり抱きしめてはくれなかった。
「何で俺ばっかりこんな目に遭うんだよ!」
何か嫌な事でもあったのか、行定はマメの腹を思いきり蹴り上げた。それから、彼は何かとマメに当たり散らす様になったーー
「あのまま死んでいたなら、私は何の疑問も持たず、怨みに染まって人に祟りなす怨霊になっていただろう」
マメは闇の中に腰を下ろすと、目の前でもがき苦しんでいる行定を見据えていた。
「その方がずっと楽だったかもしれない」
マメの呟きが闇へ吸い込まれた。この先へ進めば地獄に続いている。私は人を殺した罪で地獄へ逝かなければならない。地獄へ行けばもう、明神と会う事は無いし、彼が用立ててくれたあの新しい仔犬への転生も無理だろう。あの優しそうな家族なら、幸せになれただろう。あの子が準備してくれたのだから、そんな未来しかないと思う。今回の様に捨てられたり、虐め抜かれて死ぬ事など無いだろう。それが解っていても、眼の前の飼い主から目を離せなかった。どうしても許せなかった。
「何だよ……何で俺の所に来るんだよ!」
針で目を止められた犬はゆっくりと行定に近付いた。
「お前にはあの子が私を殺した様に見えたのかい?」
彼の体が恐怖から小刻みに震えていた。
「あの子はね、最後に私に、人を許すきっかけをくれたのよ。あんたが痛めつけて汚いと言った私の体を彼は抱き締めてくれたのよ? それだけでもう何もかも良いかと思っていたのに、お前はなんだい? 私が死んだのはあの子のせいだって? あの子はね、私に人間を恨まない様にと嘘を吐いたのよ。怨霊になって人を襲い、地獄の底へ行かない様に。私の幸せを願ってそう言ったのよ」
マメが牙を剥いて鼻先を顔に近付けた。荒い鼻息が行定の顔に当たる。生臭い息に彼は顔を顰めた。
「こっち来んな化け物!」
「マメ」
ふと、何処かから声が聞こえて犬が振り返った。犬が向いた視線の先に明神が立っている。あちらは現世へ続く道だ。こんな所まで追って来たのかとマメは心底呆れていた。
「あんたもしつこいね」
「お前までそいつと同じ地獄へ落ちる必要はないだろう」
明神が手を差し伸べているが、マメは首を横に振った。彼が、復讐を遂げさせて自ら地獄へ落ちる結果を望んで、マメを現世に留まらせた訳では無い事は解っていた。だから、彼の気持ちを思えば、こんなつまらない奴の事など忘れて、目の前にある幸せに縋り付けばいい。それを彼が望んでいる事は承知の上だった。
「躾の行き届いていない飼い主に拾われたのが運の尽きさ。私はもう決めたんだよ。あんたの元へは行けない。私は自分の幸せよりも、こいつの不幸を願うどうしょうもない畜生なんだよ」
「……俺はまた、救い上げたつもりでお前を二度、地面に叩きつけてしまったんだな」
彼の言葉にマメの良心が揺らいだ。彼は自分の為に、復讐を思い留まれと言っているのだ。
「卑怯者!」
マメは思わず声を上げ、前足で行定の胸を踏み抜いた。彼の断末魔が辺りに響いて消える。
「この……鬼がぁ……!」
自分の迷いを打ち消そうとした。あったかもしれない幸せを思い描きながら、地獄の責苦を受けるのはそれこそ塗炭の苦しみだろう。だから彼はこのまま逝かせたく無いのだ。だから態と卑怯な事を言ったのだ。その気持ちが痛い程解った。
「私は飼い主と同じ地獄へ逝くよ」
犬がニヤリと笑うと明神は近付いて五色の水引で作った梅結びを犬の首につけた。犬の頭を両手で掴むと、額に自分の額をくっつける。
「次に生まれ変わる時にはどうか幸多い生である様に……」
犬の両目を塞いでいた金具が外れると、目から涙が流れた。明神はそのまま優しくマメを抱きしめた。
「今から地獄へ逝くというのに……人を殺した私の幸せを願うだなんておかしな子ね」
マメはふふっと笑うと、行定の首を咥えて歩き出した。
「嫌だ。死にたくない」
涙ながらに語る行定に、マメは苛立った。
「そうかい。私も生きていたかったね。あんたみたいなクズに拾われずに、良い人に拾われて幸せでありたかったね。そうすればあんたなんかを恨まずに済んだのに……お互いに運が無かったね」
そこまで言ってふと、マメは一度足を止めた。振り返ると、明神が目を伏せている。不意に、自分が話した指鬘外道の話を思い出した。
何故、自分はその話を知っているのだろう? 誰からいつ聞いたのだろう? よく思い出せないが、過去世の因果によって、その罪を犯す条件や環境が整ってしまう。それで罪を犯してしまうのだと、誰かから教わった気がする。
「前は、逆だったのかもしれないね」
遠い昔に自分は人として生まれ、犬に生まれた彼を虐め殺したのかもしれない。その連鎖を彼は止めようとして、手を尽くしてくれたんじゃないかと思った。彼の努力を無にしてしまった事を少なからず後悔する。
けれどももう済んだ事で、どうしようも無い事だと解っていた。だから迷い無くマメは自ら地獄への階段を下りて行った。
「怖くなんてないさ、これから存分にお前が苦しみ続ける様を側で眺めていられるのだから」
それは同時に、自らの犯した罪と向き合う行為だという事をマメは理解していた。
「お互いに地獄の底で罵り合おうではないか」
マメの声が底の無い闇の中へ溶けて行くと、それを見送っていた明神は溜息を吐いた。
小さな箱を手にして明神は立ち尽くしていた。箱には黄色と白の水引であわじ結びで封がされている。結び切りにしたのは、もう辛いことはこれっきりになる様にという彼なりの思いがあっての事だった。
「それが、行定が飼ってた犬?」
隣にやって来た直人が聞くと、明神は頷いてみせた。
「どうも親は犬を飼うことに反対したらしくて、こっそり行定が橋の下で面倒みていたみたいなんだ。最初こそ甲斐甲斐しく通って餌も与えていたみたいなんだけど……」
そこまで話して言葉を詰まらせた。明神は箱を動物霊園の事務所に持って行くと最後の別れを呟いた。
「生まれてきてくれてありがとう」
「え? 何?」
聞き逃した直人が声を掛けたが、彼は何も言わなかった。
「そう言えば行定のこと聞いたか? 野犬に襲われて、病院に運ばれたけど間に合わなかったんだってさ……因果応報って本当にあるんだな」
直人の話に興味が無いのか、明神はつまらなそうに鼻を鳴らして事務所を後にした。
「なんか、可哀想だよな」
直人の言葉に明神は視線を宙に飛ばした。
「可哀想?」
「きっと行定、親に反対されたから勝手に飼ってるの人に知られたくなくて、誰にも相談出来なかったんだと思う。本当だったらちゃんと飼ってくれる人を探すとか、保護施設とかに連れて行けた筈なのに、自分の事しか考えられなくて、鬱陶しくなっちゃったのかなって思うとなんか……けど、やっぱり行定のした事は許せないし……何て言ったら良いのか分からないけど……」
明神は直人の話を聞きながらバス停のベンチに腰掛けた。
「親の言いつけを守らないという選択をしたのは彼だし、命を弄ぶという選択をしたのも彼自身だ」
「それはそうなんだけど……」
「まあ、一人じゃないからお互いに寂しくは無いだろう」
まるで死んだ犬が、飼い主を迎えに来たとでも言いたげな言葉だった。
「あとは子供と夫を失った母親が、恨みや怒りの矛先を間違えない事を祈るだけ」
明神はポケットから紅白の水引を出すと、手際よく梅結びを作った。
「この世に生まれた命はどんなものも平等に尊いのか?」
明神はぽつりと呟いたが、直人は答えられなかった。別に彼が答えを求めて呟いたというわけではない事は解っていた。直人もベンチにこしかけると物思いに耽った。
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