五つ面

久我宗綱

五つ面



 ついこの間、ある山の中の道を歩いていた際に、少し変わった道祖神を見つけた。


 何が変わっているかというと、リバーシブル仕様になっているのである。表には和やかな顔つきをした、男女とおぼしき一組がまっすぐに並び立っていた。ここまでは大して珍しくもないと言うのは失礼だが、よくある道祖神である。

 そして、その裏を見てみると三面六臂の、つまり阿修羅みたいなものが彫られていた。問題はその顔で、何とそれが削り取られているのである。丁寧に三つとも。

 裏の削り跡や表の彫刻の断面を観察するに、どうも最近の痕跡に見えてならない。苔の生え方からもそんな雰囲気が感じ取れる。


 地図によると、この道を少し行った辺りにはちょっとした温泉地のようなものがあるらしいのだが、なんだか嫌な気持ちがして、これ以上歩くのはやめて、引き返してきてしまった。

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五つ面 久我宗綱 @kogamunetsuna

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