ピンクブロンド男爵令嬢の逆ざまあ

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ピンクブロンド男爵令嬢の逆ざまあ

「アンジェリーナ・クロフォード侯爵令嬢。私はあなたとの婚約を破棄することを、ここに宣言する!」


 マリアダル王立学院の前期終業記念パーティーの終わりがけで、第一王子ブライアン殿下の凛とした声が響きました。


 わあ、これ知ってるです!

 最近流行の婚約破棄もの定番のシチュエーションです。

 こんなエンターテインメントな場面に遭遇できるなんて、私はなんてツイてるですか。

 ムリして王立学院に入学させてもらった甲斐があるです。


 対するアンジェリーナ様の返答はいかに? わくわく。


「ブライアン様、何故ですか! 私に至らぬ点がありましたでしょうか?」

「そうではない。そうではないのだ」


 ゆっくりと首を振るブライアン殿下。

 おお、芝居がかってるです。

 見せ場ですな。


「私は真実の愛を見つけてしまったのだ!」


 テンプレの理由キター!

 知ってるですよ。

 この場合、どういうわけかピンクブロンドの男爵令嬢が真実の愛の相手と決まっているです。


 ん? ピンクブロンドの男爵令嬢?

 まさか……ブライアン殿下が足音を響かせこちらにやって来て、あたしを抱え上げたです。

 所謂お姫様抱っこです……えっ?


「スマイリー・ビーズ男爵令嬢に真実の愛を捧げよう!」

「えええええええっ?」


 私ことスマイリー・ビーズは、ド田舎を領地とするお父様の長女として生まれたです。

 ピンクブロンドの髪だけが目立つモブです。


 ビーズ男爵家領は何せド田舎なので、中央のお貴族様達との社交よりも、地元の豪族や有力者達との交流の方がよっぽど大事だったりするです。

 よって私の王立学院入学もムダじゃないかと、両親に相当渋られましたです。

 経験とか教養とかきっと役に立つからと、反対を押し切って王都に上ってきたのに。


 おおおお王子様に抱っこされてるとか何事?

 喋ったことすらないですよね?


 侯爵令嬢アンジェリーナ様が悲しげな声を響かせるです。


「ああ、ブライアン様! お考え直してはいただけませんか?」

「ならぬ! 真実の愛は何より重いのだ!」


 ああああ、皆さんの視線がイタイイタイ!

 何なのです? 

 私は無実なのです!

 全てこのバカ王子が悪いのです!


 ででででも私のようなモブ小心者が、王子と侯爵令嬢の名場面に口なんか挟めないです!

 ……お話ではこういう時、私の役どころは小動物のようにプルプルすることだ、などと現実逃避してみたけどダメだこれ。

 混乱し過ぎて何も喋れないです!


「ブライアンさ……」


 あっ、アンジェリーナ様がお倒れになった!

 さすが王子の婚約者ともなると倒れ方まで優雅です。

 参考になりますです。


 慌てる様子もなく警護の騎士達が担架でアンジェリーナ様を運んでいきます。

 王都の騎士ってすごいなあ。

 全然動揺しないんですね。


 生徒会長を兼ねるブライアン殿下が声を張り上げます。


「これにて前期課程は終了だ。休み中羽目を外し過ぎることがないよう、気を付けてくれたまえ」


 一番羽目を外してるのはあんたですから!


          ◇


「うううう、何でこんなことに……」


 パーティー終了後、事情を知りたいクラスメート達に取り巻かれたです。

 そりゃそうです、私だってこんな面白事件が起きたなら食い付くに決まってます。

 ……無関係でさえあったなら。


「スマイリーさん、あなたどういうことなの?」

「そそそそれが私にもサッパリ……」

「そんなはずがないでしょう!」

「いや、ブライアン殿下とお話したことすらないんです」

「考えてみりゃ、おかしな話だよなあ。殿下とアンジェリーナ嬢が破局なんて情報、掴んでたやついるか?」


 全員が首を振る。

 もちろん私も知らなかったです。


「アンジェリーナ様は第二王子パトリック殿下と仲がおよろしいのでは?」

「噂は聞いたことがありますね」

「しかしブライアン様の方から婚約破棄など、あり得ないですわ」

「あの冷静な殿下がなあ……」

「全然騒ぎにならないのも、スマイリー嬢を放置なのも変です」

「ドッキリなんじゃねえか?」

「「「「「「「「ドッキリ?」」」」」」」」


 どゆことなのです?


「冗談ってことだよ。ブライアン殿下もアンジェリーナ様も承知の上の狂言」

「ああ、それなら納得がいくが」

「ええ? でも婚約破棄を否定されませんでしたよ?」

「明日の新聞でネタばらし、とかな」

「なるほど、そういうことですのね」

「そそそそういうことでしたか。王都のジョークは性質悪いです。田舎者の心臓に負担が大きいです」


 一応の共通見解が出たです。

 よ、よかったあ。


「オレはすぐに地元に帰るぜ」

「私もです。皆様御機嫌よう」


 長期休みに入るので、今日ないし明日に地元に帰られる方が多いです。

 王都住みの方も実家に戻られますしね。


「スマイリーさんはどうされるの?」

「私は寮に残るです。実家の領地は僻地ですから、行き帰りの交通費がバカになんないです」

「そうでしたか。では御機嫌よう」


 私は学費を稼ぐためにアルバイトをせねばならないです。

 明日からの休み、腕が鳴りますです。


          ◇


「ど、どういうことなのです?」


 翌朝王立学院女子寮にて、新聞を見ながらボーゼンとしたです。

 どうやらブライアン殿下とアンジェリーナ様の婚約解消は事実のようです。

 でも昨日の婚約破棄劇のことは書かれていませんね。


「新聞記事からすると、どうやら以前から婚約解消は秘密裏に決められていたようですね」

「そ、そのようですね」


 クラスメートに相槌を打ちます。


「それで一芝居ってことになったんじゃないかしら? 故郷へ帰る生徒達に土産話でも持たせてやろうって」

「わからなくもないですが、私が巻き込まれたのは何故なのです?」

「そりゃあ真実の愛にはピンクブロンド男爵令嬢がつきものだから」


 否定することができない厳然たる事実!

 巷に溢れる婚約破棄もののストーリーは、どういうわけかピンクブロンド男爵令嬢が真実の愛の相手役と決まっているです。

 私は即座に殿下の意を酌んで、キラーパスをゴールに繋げねばならなかったようです。

 はあ、都会の生活は大変ですねえ。


 あれ、誰か来たです。


「スマイリーさん、お客様よ」

「お知らせくださってありがとうございますです。どなたですか?」

「なんと、ブライアン殿下をはじめとする生徒会の面々よ。アンジェリーナ様はいらっしゃらなかったけど」


 思わず皆で顔を見合わせます。


「き、昨日の私の大根な演技は、サプライズ婚約破棄劇を台無しにしたですか? 怒られるですか?」

「まさか。よくやったって、お褒めの言葉をいただけるのよ、きっと」

「いずれにしても生徒会の皆さんがいらしたということは、昨日のイベントはやはりドッキリだったのね」

「早く行かねばならないです」


 女子寮のロビーへ急ぎます。


「やあ、スマイリー・ビーズ嬢。昨日はすまなかったね」


 爽やかな笑顔で語りかけてくる生徒会長ブライアン殿下。

 宰相閣下の御子息で長身の書記チェスター・パウエル様。

 ニコニコ笑顔が愛らしい公爵令嬢の会計マリア・ホワイトウッド様。

 諜報局長官の御子息でニンジャみたいな庶務コタロー・フ―マ様。

 うわあ、副会長のアンジェリーナ様こそおられないですけど、学院のオールスターではないですか。


「お、おはようございますです。私に何の御用でしたでしょうか?」


 爽やかな笑顔を崩さないブライアン殿下。


「嫌だなあ、君をさらいに来たんだよ」

「えっ?」

「真実の愛の相手だからね」

「えっ?」


 胡散臭過ぎるです。

 ドッキリなんですよね?

 オールスターズの皆さんの表情からは、意図を読み取れないんですけれども。


「生徒会室に来てもらおうか。ここは愛を語るのにふさわしくない場所のようだから」


          ◇


「王国に未曽有の危機が近付いている」

「はあ」


 ブライアン殿下が先ほどと違って真面目顔です。

 格好のいいお方はどうあっても格好いいですねえ。

 昨日心の中でバカ王子と罵ったことは一旦撤回するです。


「協力を求む」

「は?」

「チェスター、それでは通じまい」


 チェスター様は頭が良すぎて言葉が足りないと聞いたことがあるです。

 もっと頭の悪い人に説明を……生徒会に頭の悪い人なんか在籍してるわけなかったです。


「ねえ、スマイリー様」

「はい、何でしょう?」


 プラチナブロンドの髪が輝く公爵令嬢マリア様ですね。

 マリア様も美しき才女で、ブライアン殿下ととてもお似合いだと思うです。

 けど血が近過ぎるからという理由で婚約が回避されたのでは、という噂を聞いたことがあるです。

 本当ならば悲劇ですねえ。

 悲恋もののストーリーも嫌いじゃないですけれども。


「ビーズ男爵家領にとっても無関係なことではないのです」

「えっ?」


 何事ですか?

 学院に入学してから三ヶ月。

 その間実家とは連絡を取っていないので不安になりますです。


「昨年、虫害によって作物の収穫高が減ったのは御存知でしょう?」

「はい、存じておりますです」

「では、虫害の影響は我が国よりも隣国バハーランドの特に山中で大きく、魔物の生息環境にも関わっているということは?」

「多少は耳に入っているです」


 一斉にため息を吐く生徒会オールスターズ。

 キラキラしい方々のため息は絵になるなあ。


 ブライアン殿下が言うです。


「バハーランドから穀物を融通してくれないかとの要請があってね。もちろんそれには応えたのだが、我が国もまた収穫量が減少していた折りだ。可能な援助は限られる」

「そこで協力を求む」

「は?」

「チェスター、黙っていてくれ」


 シュンとするチェスター様お可愛いらしいです。


「もう少し食べ物を寄越せ、ない袖は振れぬの平行線だ。その内バハーランドがとんでもないことを言い出した」

「何ですか?」

「我が国マリアダルは山もさほど荒れていない。バハーランドから魔物が移動するだろう、とな」

「……つまり、バハーランドが魔物をマリアダルに追い立てると?」

「悪く取ればそうなる」


 魔物を他国領に追い払うのは国際法に反するです。

 でも他国に逃げた魔物を狩るのは、領域侵犯になりますので不可能。

 実際に魔物を隣国に追ったため賠償問題になったとかいう話は聞いたことがないです。


 マリア様が諦め顔だ。


「仮にマリアダルで越境魔物が増えたとしても、バハーランドに責任を負わせることはできないと思うわ。のらりくらりと躱されてしまうでしょう」

「責任の追及は後でもいい。現実問題として越境してくる可能性が非常に高い魔物への対処が先だ。知りつつ放置するのは無責任極まる」

「ごもっともです」

「魔物退治に一日の長がある獣人の力を借りたいのだ」


 ……そういうことでありましたか。


「スマイリー嬢の協力が欲しい」

「そこで何故私の協力と言うことになるですか?」

「調べは付いているでござる。スマイリー嬢の髪色は、獣人の血が入っているのでござろう?」


 発言したのは情報収集に当たっているというコタロー様です。

 小柄で黒髪で生意気そうなところがキュンとくるです。


「『魔の森』の守り人たるビーズ男爵家は獣人へ影響力を及ぼすことができ、中でも髪色に獣人の血が強く出ているスマイリー嬢は獣人とツーカーだとの調査結果でござる」

「はい、確かに。できれば内緒にしてもらいたいであります」

「うん、くだらない差別は我らの望むところでもないからね」

「御配慮痛み入りますです」


 都会では亜人差別があると聞きますです。

 もちろん『魔の森』を管理するために亜人との関係を密にしているビーズ男爵家領ではそんなことありません。

 が、無用なトラブルは避けたいです。


「スマイリー嬢の手引きで、ビーズ男爵家領の獣人戦士二〇〇人を派遣してもらえないだろうか。具体的には街道沿いバハーランドとの国境の峠を守ってもらいたい」

「……条件次第で可能かと思いますです」


 最も激戦になることが予想される場所です。

 生半可な条件では了承できないですが、ブライアン殿下にどれほどの権限があるです?


「一般騎士の給与の二割増しでどうだい?」

「お話になりゃしませんです」


 チェスター様以外は驚いていらっしゃいます。

 獣人戦士は並みの騎士の倍は強いですよ?

 死地に近い場所に追いやって給与二割増しとは片腹痛いです。


 チェスター様が挙手して発言を求めます。


「殿下、私が」

「うん。許可する」

「スマイリー嬢。国境の峠の守備について、獣人戦士達に完全に独立した指揮権を与える。峠すぐ近くに廃された砦があるので、そこを使用してよし。砦の整備と補給は国が行う。倒した魔物の剥ぎ取りは自由。給与は一般騎士の三割増しでどうだろう?」


 ちょっとはものがわかってるです。

 独立した指揮権と拠点がもらえ補給が確約されるなら、魔物退治に慣れた獣人戦士に被害はほとんど出ないと思われるです。

 了承してもいい条件ですが……。


「給金が少ないです。これでは説得が難しいです」


 獣人達のためにも少々欲張ってみるです。


「ビーズ男爵家の特殊性は理解している」


 ……我がビーズ男爵家はマリアダル王国に忠誠を捧げているわけではないです。


 三ヶ国が国境を接する盆地になっている場所にビーズ男爵家領はあります。

 歴史的にあっちの国にベタリ、こっちの国にベタリといった具合に主を変えているです。

 現在マリアダルに与しているのは、税金をタダにしてくれるからに過ぎませんです。


 一方で三ヶ国に広がり混沌の元凶となっている『魔の森』を押さえることで、平和と経済の発展に貢献している自負がビーズ男爵家にはあるです。


 それにしてもチェスター様のシャープな眼差しは素敵ですね。


「スマイリー嬢は夏休みに領地に帰られぬのでしょう?」

「え? はい」


 何でしょう?

 チェスター様の唐突な話題転換はよくわからんです。


「王都でアルバイトに励むから、で相違ないでござるか?」

「はい」


 コタロー様まで何なんだろう?

 あっ、ブライアン殿下が悪い顔してるです?


「冒険者活動は校則が禁じている危険なアルバイトに相当するのだ」

「えっ?」

「スマイリー嬢はこの三ヶ月の間に王都の冒険者ギルドで九回の依頼を請け、内六回は魔物との戦闘に関わった。重大な校則違反だ」

「一発退学に相当する」

「そ、そんな……」


 えらいことです!

 相当なムリを言って入学させてもらったのに、一学期のみでクビになったと知れれば、私の尊厳のピンチなのです!


「な、何とか勘弁してもらうわけにはまいりませんでしょうか?」

「もちろん可能だ。生徒会には校則を変える権限がある。例えば『冒険者活動はBクラス以上のライセンスを所持している者に限って許可する。この条項は過去に遡って発効する』の一文を盛り込めば、スマイリー嬢に後ろ暗いところはなくなる」


 私はAクラス冒険者です。

 獣人譲りの高い身体能力があり、おまけにどういうわけか魔力も高いです。

 冒険者は天職だと思ってるです。


「どうかそのセンでよろしくお願いしますです!」

「そこで交渉だ」


 王子様のクセに何とゲスな顔してるですか。

 もう信じられないです。

 大嫌いです!


「先ほどの条件で獣人を説得してくれ。スマイリー嬢にならできるのだろう?」

「……夏休みを冒険者活動に当てて学費を稼ぐつもりだったです。今……」

「学院には非常勤の危機管理委員を置くことが定められていてね」


 私の言葉を遮ってブライアン殿下が続けるです。

 危機管理委員? 何です、それは。


「学院の警備員の一種だよ。本来は引退したAクラス冒険者が生活に困ることがないように設けられた制度だ。だがまあハイクラスの冒険者ともなると、程度の差はあっても皆裕福でね」


 首を竦めた様子を見せる殿下。

 癇に障る仕草ですね。


「常に定員割れしてるんだ。この制度に学院の生徒は除かれるなんて例外はないから、Aクラス冒険者たるスマイリー嬢が委員になっても誰も文句は言えない。当然給与が支給される。どうだい?」

「迫り来る魔物に対して誰かが備えなければならないのよ」

「対魔物に関して言えば、正直騎士よりも獣人戦士の方がずっとうまく対処できるでござる。スマイリー嬢もそう思うでござろう?」

「獣人との相互理解のためにも利がある」


 うはあ、賢い生徒会オールスターズの皆さんの波状攻撃です。

 とても断れる気がしないです。

 悪の親玉ブライアン殿下が付け加えてきます。


「危機管理委員になれば生徒会役員に準じた扱いにできるよ。課外活動要素として成績に加点されるんだ。何なら生徒会室に出入りしてもらっても……」

「あ、それは本当に結構です。私は所詮男爵の娘ですから、天上人である皆さんと立場が違いますです。今日こうして生徒会室に呼び出されたことも、寮でどう言い訳しようかと考えているところです」

「そ、そうかい」


 殿下は何故かガッカリしているですけれども。

 他お三方は私を見つめているです。

 私が承諾するのを待っているですか?


「……一つ伺いたいことがあるです」

「何だろう?」

「アンジェリーナ様のことです。あの婚約破棄劇は、この度の件に関係があるですか?」

「鋭いね」


 オールスターズの皆さんは慌てる様子がないです。

 やはり茶番だったですか?


「アンジェリーナはバハーランドに留学するんだ。それで情報を送ってくれることになっている」

「あ、そうだったですか」

「これは内緒だよ? アンジェリーナは私の弟のパトリックと相思相愛でね。また私とパトリックもいい関係なんだ。生徒会外から学院を支えてくれている。この際パトリックとアンジェリーナの希望をかなえ、将来的に二人を結婚させるために、私とアンジェリーナとの婚約を解消することにしたんだ」

「ということは、あの公開婚約破棄は何だったのです?」

「ドッキリだ。生徒諸君に土産話でも持って帰ってもらおうと思ってね」


 やっぱりドッキリだったですか。

 何故前もって言ってくれなかったですか!


「一方のヒロインを演じてもらったスマイリー嬢にも満足してもらったと思う」

「何を言ってるですか。迷惑極まりないです。生きた心地がしなかったです!」

「「「「えっ?」」」」


 つい本音が出てしまったです。

 オールスターズの皆さんは何をポカンとしてるですか。

 モブとは立場や考え方が違うというのがよくわかるです。


「で、でも殿下の相手役は光栄でしょう?」

「本当のことなら身分違いは悲劇の元、冗談なら冗談で質問の嵐。ロクなことがないです。私は目立たず平穏に生きていきたいのです」

「その容姿からして目立っているのだが……」


 一々うるさいですね。

 髪色が真実の愛色だということはわかっているです。


 ……しかしこれ以上の抵抗がムダというのも事実。

 ならば国の好意を得ておくが吉です。


「アンジェリーナ様が不幸な目に遭ったのではないということは理解いたしましたです。直ちに帰領し、獣人の協力を取り付けますです」

「助かる! 危機管理委員の今月分の給与は前倒しで今支払おう」

「ありがとうございますです」


          ◇


 ――――――――――半年後。


「満足すべき結果だ」

「恐れ入りますです」


 結局獣人戦士指揮官の勧めもあり、バハーランドとは共同戦線を張ることになったです。

 素早く連携が可能になったのは、アンジェリーナ様のバハーランド留学が功を奏したとも言えるです。

 マリアダル領にある谷にバハーランド側から魔物を追い落としてもらってからの、爆薬と魔法による集中攻撃。

 いやあ、気持ちいいくらいの大戦果でした。


 残りの魔物の掃討に数ヶ月かかったです。

 が、結果としてバハーランドとの友好も深まりました。

 想定以上の結果と、国王陛下からもお褒めの言葉をいただいたです。


「陛下が殊の外お喜びなのだ。獣人戦士全員を招いて賞したいとの仰せだが……」

「いえいえ、マナーも覚束ない者達ですので、その点は御容赦を」

「そうか。残念ではあるが……。報奨金を出すことに決まったので、獣人戦士達にはそう伝えてもらいたい」

「それは皆喜ぶと思いますです」


 私も少しは獣人達にいい顔ができるです。

 よかったです。


 あれ? ブライアン殿下はまだ私に用があるですか?

 ちょっとイケメンだからって私は騙されないですよ?


「さて、スマイリー・ビーズ嬢」

「何でありますか?」

「私の真実の愛に応えてもらえるだろうか?」

「は?」


 何を言ってるですか、このトンチンカン王子は。

 チェスター様マリア様コタロー様もニヤニヤしてますけれども。


「どういうことでありますか?」

「私の妃となって欲しい。ともに王国を盛り立てようではないか」


 はあ?

 本当に何を言ってるですか。

 頭湧いてるですか?


「……冗談じゃないです」

「冗談ではないんだ」

「イケメン王子が告白してくれるというシチューエーションにはちょっと萌えましたです。ありがとうございます」


 私も大人になったです。

 ちょっとセリフが貴族らしくないですが、内心のムカつきを抑えて笑顔で言えたです。


「展開としては大好物です。でも冷静に考えて、男爵家の娘が第一王子妃はあり得ないです。御馳走様でした」


「大好物? 御馳走様?」


 ブライアン殿下、そんな面白い顔もできたですね。

 少しだけ見直したです。

 でも身分とイケメンがあれば私を思うようにできると考えるのは思い上がりです。

 『魔の森』守り人の娘を舐めんじゃねえぞ、です。


「爵位に関しては問題ないんだ。ビーズ男爵家の実力は……」

「それに私には婚約者がいるですから」

「「「「えっ?」」」」


 あれっ? 全員が面白い顔になったですね。

 私の婚約のことは、コタロー様調べてなかったですか?


「す、スマイリー嬢はデビュタントもまだでござろう? 婚約なんて……」

「あ、私王都の社交デビューの予定はないであります」

「どーして!」

「田舎男爵家ですし……社交のメリットがあまりないというか」


 意外そうですね。

 あっ、普通なら当然社交界での人脈作りが狙いだからですか?

 説明が必要ですね。


「婚約者にふさわしい教養を得たかったです。私はそのために王都の学院に学びに来たです」


 にっこり。


「スマイリー様の婚約者とはどんな方ですの?」

「幼馴染です。小さい頃からお嫁さんになると決めていたです!」


 言ってしまったです、恥ずかしいです。

 おっと、ブライアン殿下の顔色が随分悪くなったですね。

 あっ、ピンときたです!

 ひょっとして私に本気だったですか?

 私は顔だけ王子なんかに絶対靡きはしないのです。


「……ビーズ男爵家領の有力者となると、『魔の森』の統治に必要な特殊な家と思われます。手出し無用です。スマイリー嬢については諦めなさいませ」


 チェスター様が殿下に耳打ちしてるですが、聞こえてますよ。

 私は耳もいいのです。


「獣人戦士達には、陛下や殿下から感謝の言葉があったと伝えておきますです。では失礼いたしますです」


 堂々と生徒会室を退出したです。

 意地悪な生徒会長ブライアン殿下に一矢報いた、晴れやかな気分です。

 ざまあ見さらせ、なのです。




 ――――――――――おしまい。

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