彼方のあなたへ

@tosakanoTOSAKA

第1話 運命

いつもと変わらない風景。

それは安心を与えてくれるけど、なんだかつまらないものだなんて思わない?

青い空は綿みたいな雲を浮かべて、ところどころひび割れている道路には途切れ途切れ車が走っている。道端にはたんぽぽが生えていたりたまに猫がいて、それを撫でてみたり。

変わらない日常の始まり。いつも通りの登校風景それはつまらないもだし、いっそ何か大事件が起きて学校が休みになればいいのになって。


そう思ってた。



キィィィィィィ!



急に、トラックが急停車する時の摩擦音のようなすざましい音が響きわたり、ソレは突如空に現れたんだ。


私はアレを初めて見た時に思った。

私なんてほんとにくだらない存在なんだって、

人間なんて所詮圧倒的弱者なんだって...



言うなればそう、それは乾いた血を球状にしたような、まるで怨嗟や怨念、悪意で練り固めた泥団子のような。おぞましい存在だった。

ソレは上空に浮かんでいて、それでもしっかりと大きく見えるということは

自分が考えられないほど大きいんだろう

私は恐怖に支配されて、膝から崩れ落ちた。

持っていたバックが落ち、中身を道に放り出す。

いつの間にか赤く染っていた空に浮かぶその球体を、私はただ呆然と見つめた。


アレの体に引きちぎれたには、鎖のようなものが引っかかっている。

ああ、さっきの音はアレに絡まっていた拘束具のようなものが引きちぎれた音だったんだ...



あまりに非現実的なものを見たせいか、

ぼんやりとそんなことを考えることしか出来ないまま座り込んでいた私は、先程のものよりも小さな摩擦音を遠くに聞いた。少しすると排気音が聞こえ始め、それは徐々に大きくなっていく。


振り返ると、その音の正体が近づいてくるのが見えた。排気量400ccを超えるであろう大型バイクが全速力で近づいてくるのが見えた。と、

次の瞬間にはそのバイクは私の脇をすごい速さで抜けて10メートル程先でドリフトして止まった。運転手はバイクから降りたかと思うと、しっかりと体を沈みこませ、次の瞬間私の視界から消えた。

気のせいかその足元が淡く光ったような...

そういえば、あの運転手は何処に...

ハッとして私は上を見上げた


驚くことに運転手は球体の真横まで飛び上がっていたんだ。そして腰に付けていた刀でそれをいとも簡単に一刀の元に切り捨てた。



そもそもがおかしい。あんなものが現れたことも、あんなジャンプができて刀を持っている人物がいることもまるで信じられない....

それにアレを一刀両断にしてしまうなんて



呆然と眺めている私の元にあの人物は軽やかに着地した。


「大丈夫ですか?どうしてこんなところに?」


手を差し伸べながら私に話しかけてくるその声は低くて、穏やかな男性の声だった。

私の精神は正常ではなかったし、恐怖から解放してくれたということもあったし、仕方ないことなのかな?自己弁護をしながら彼の手を取り私は思った。



やばい私、この人に恋したわ





「うん、ありがと。ところで付き合ってくれない?」




お礼を言おうと咄嗟に出た言葉に膠着した



「え?」


「え?」




この時の私は正常ではなかったそれだけが確かだ。きっとそれ以上に彼は焦り困惑していたはず。まさか本音が先に出るとは....



「ち、違うの。ごめんなさい!」



駆け出した私は.......





目を覚ました。



「え?」



自分が今どこにいるのか私には分からなかった。見慣れない白い天井だ。体の感触からどうやらベットの上らしい。ベットから身を起こしてみるとそこは病室のようだ。体は問題なく動くが、少しふらつくし、頭が回らない。



ガラガラ。



そこに看護師が入ってきた。



「あ、起きられたんですね。

ダメですよまだ安静にしていてください。あなたはトラックに引かれたんですからね。」




「どういうことですか!?」



私は目を見開いた。

だって私はあの男の人に助けられて....


「覚えてないんですか?あなたは登校中に事故にあって、近隣住民からの通報で救急車で運ばれたんですよ?」


運のいいことに外傷はほぼありませんでしたが。と看護師の女性は心配気にこちらを気遣いながら話すが、私はそれをほとんど聞いてはいなかった。



さっき私が体験したことは夢であると言われた方が信じられるような不思議な出来事だったけど。そんな事有り得るのかな?でも、あんな怪物を見たらみんなその話で持ち切りになるはずだし。本当に夢だったのかもしれない。



私は考えた結果あれは夢だったと結論づけた。

何故かと言えばそれが一番納得いくからとしか言えないけれど。



「お昼ご飯は食べれますか?」



そういえばこの看護師さんは私にご飯を運んできてくれていたらしい。でも、あんなものを見たあとだと食欲が出ない。あ、夢ってことになったんだった。そうだった。



「動いていなかったですし、悪夢を見たあとなのでちょっと無理だと思います。」



「わかったわ。水だけ置いておくから。

今日いっぱいは様子を見て、明日には退院出来るはずなので安静にしておいて下さいね?」



と念を押して看護師さんは部屋を後にした。


私は特に何もやる気が起きなかったので

ゆっくりと寝ることにした。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る