第2話 招待

ホラム王妃は呆れた顔で出席していた国の博士に目配せをしました。

「ではでは、おそれながら私テリーヌからデンバー伯爵と王室との関わりについて申し上げます」

テリーヌ博士は国の博士であり、王室の家庭教師でした。

当然ペリアッド5世にも教えた話ではありましたが、彼は全く聞いていなかったようです。

「この国の初代のハリケーン王がお亡くなりになられ、長子のペリアッド1世様の即位式が行われていたときの事、つまり丁度今夜の様な日の出来事でございます。

ある出席者からデンバー伯爵の噂が話されたのです。伯爵は魔法を操って1000年も前からこの地上で暮らしており、この国の王様よりずっとお金持ちだと言われたのです。

短気で名を知られたペリアッド1世は、当然怒り出してデンバー伯爵を今すぐ連れてこいとお命じになったのです。

軍の副長官と近衛兵2名でデンバー伯爵の居城があると噂されていた川向うへ赴いたそうです。

今も昔も伯爵領へつながる橋はなかったので、大工に急ごしらえの船を造らせて渡ったそうです。

副長官達が川を渡って森を抜けると、小さいが美しい街並みが開け、更に坂を登ってゆきますとこれまた小さいが美しい城があったそうです。

城の壁は純白の石材で造られ、そこかしこに不思議な金属による飾りがあり、それらは月の明かりに照らされて怪しく煌いていたといいます。

副長官が城門を叩くとデンバー伯爵と思われる人物が現れました。

「私はペリアッド国の副長官です。

デンバー伯爵であられますか?」

「いかにも、私がデンバー伯爵です」

「はじめまして、デンバー伯爵様。

我が主ペリアッド1世が即位式に参加せよとの事でございます」

「あぁ、そうですか。

招待状が来ておりませんでしたのでこれは失礼いたしました。

これからすぐに参りましょう」

伯爵が快く応じてくれたので副長官はホッとしたそうです。

伯爵はたちまち贈り物を用意して従者2名を連れて館からいでて馬車を走らせましたのです。

副長官達は後に続きましたが、川のほとりに付くと来たときに乗って来た舟に乗り込むために伯爵の馬車から離れたのです。

副長官達は自分たちが来たとき他に舟が見当たらなかったのでどうするのかと伯爵の方を見ていたそうです。

すると伯爵が川を目の前にして右腕を一振りして叫んだそうです。

「橋よ!いでよ!」

間もなく川に立ち込めていた霧が晴れ、立派な石造りの橋が架かっていたと言うのです。

それはあたかも100年前からそこにあり、今後100年間壊れることはないであろう代物で、伯爵一行はそれを悠々と渡り始めたので、副長官達もちゃっかり付いて行くことにしたそうです。

橋の中程に来ると、副長官達はだんだん怖くなってきて後を振り返ると、なんと自分たちのすぐ後ろから橋が消えていたので驚いてデンバー伯爵の所へ走り恐怖を訴えたそうです。

「伯爵様、橋が消えかかっております!」

「何故私を信じないのか、安心しなさい」

そう言って伯爵が副長官に手を差し伸べたので、副長官が伯爵の手を取って振り返ると、なるほど橋はちゃんと来たところまで繋がっていたらしいのです。


伯爵が皆が橋を渡り終えたのを確認して、橋に向ってパンパンと手を打つと、橋は無くなっていつもの川がそこに流れているだけだったという事です。

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