此処をキャンプ地とする。



 シーワールドの近く、そして海に近い場所は怖過ぎるのでなるべく内陸へ。


 島国日本は土地が足りないとよく言うが、それはあくまで都市部の話しであって、山の近くなんかに行けば結構な面積で遊んでる土地がある。


 サメとシャチを撃退した俺達は、そんな場所の一つにベースキャンプを設置した。


 荷物からテントをいくつか出して設営し、ちょっと離れた場所に穴を掘って仮設トイレも作る。


 水に関しては俺とフリルがアクアロード使えるし、フリルのアクアロードはサメの魔石によって超強化されたから水の総量も確保出来る。


 魔石の重複摂取は効率悪いが、それでも最初から育ってる魔石を摂取すればそこそこ育つのだ。そしてサメのアクアロードとクリコンは俺たちより育ってた。


 キャンプへは常にネコを配置して、更に俺とフリル、チカちゃん、ミケちゃんがローテーションで護衛すれば一定以上の安全は保てる。


 そして、クリコンが複数手に入ったので欲しがってたメグミやレオにもプレゼント。


「じゃぁ、今日からしばらく鴨川に滞在して、魔石と物資集めるよ。メグミも志願したからには戦闘員として扱うけど、まぁミルクと離れないようにな」


「わかった!」


「メグちゃん、一緒に頑張ろうねっ」


 何かの建築予定地だったり、駐車場だったり、畑だったり公園だったり、何かしらに利用出来たはずなのに「なぜ、此処は手付かずなの?」って言いたくなる様な謎の空き地にベースキャンプを設営した俺達は、まぁなんか適当に過ごし始めた。


「俺はフリルが回復するまで動かないけど、皆は好きにしてて良いぞ。自分で手に入れた魔石は自分の物にして良いし、見付けた物資もそう」


「いや、物資は一回ヤマトさんに渡して複製してもらった方が良いんじゃ……?」


「それはそうだが、その場合はオリジナルが俺の所有だから普通に皆へ渡すぞ? 独占したいアイテムがあった場合はオススメしない」


「…………この状況で、そんな欲を出しちゃう物とかあるのかなぁ」


「分からんだろ。て言うかイミテーターだと魔石は複製出来ないんだし、今はこんな世の中なんだ。もしかしたら複製とか出来ないなんかファンタジーなアイテムとか拾うかも知れないだろ」


 個人的には、魔法的な効果を持ってる薬草とか出現すると助かる。


 俺らにはメタモルフォーゼ持ちが二頭ふたりも居るけど、これだって万能って訳じゃないし、接触しないと直せないってことはフリルかネコの近くじゃないとダメって事だ。遠く離れた場所で早急な治療が必要になった場合、間に合わないかも知れない。


「まぁ、要するに自由行動時間な。期限は未定だけど、鴨川エリアを『概ね攻略出来たな』って思ったら終わりか。そしたら山に向かって本拠点候補地を探して、拠点作りをする」


 かなり危険な場所だが、その分美味しい土地だ。


 こんな激戦区なら魔石だって最初から異能増し増しで成長も著しい物が手に入るし、人が居ないから残ってる物資も好きに出来る。


 此処で活動したらサバイバーとしての経験値は上がるだろう。ゲームみたいにレベルアップとかはしないけど。


「んじゃ、解散! 防衛に関しては、まぁなんかフィーリングで!」


「指示が適当過ぎますよ…………」


 俺は解散を宣言したあと、フリルを抱っこして大型テントに入る。フリルはまだぐったりしてた。


「…………流石に、二個でこうは成らないだろ。もしかして、知らない模様の分もあれ、どっちも金魔石だった?」


 一個であれば十分程で回復するのに、数時間経ってもダウンしてるフリルを見て考える。


 だとするなら、あのサメはレア魔石持ちを三体仕留めて食ってたって事だよな。…………良く勝てたな俺達。


 いや、金魔石の数で格が決まるなら、フリルもほぼ同格か。ショックサイトとメタモルフォーゼとアクアロード+クリコンだしな。アクアロードは単体だと水を出すだけなので攻撃力は無いが、クリコンと合わせると意味不明なレベルでチート異能と化す。


「………………早く元気になってくれよな」


「……にゃ」


 邪魔な装備は全部外して、ぐったりするフリルを膝に乗せてあぐらをかく。ふわふわの毛並みにブラシを入れて、ゆっくりいていく。


 異変が生じたあの日から今日まで、俺もフリルも駆け抜けた。好き放題にしてたけど、それでも休みなく暴れてた気がする。


「…………そうだな。ここら辺で、一旦休もうな」


「……にゃぁ」


 気だるそうに尻尾を振る嫁にブラシをかけながら、俺は久し振りに穏やかな気持ちでゆっくり過ごした。




 夕方、フリルがやっと元気になったのだが、ダウン中がそれほど辛かったのか、珍しく甘えん坊になって俺から離れない。めっちゃ可愛い。


 尻尾を俺の足や腕に擦り付けたり巻き付けたりしながら、うにゃうにゃとスリスリしてくる。死ぬほど可愛い。え、死? 死ゾ? これ以上は死ゾ?


 元気になったのならって、とりあえず栄養を摂るべきだと猫缶を取ってきたのだが、「食べさせて?」と上目遣いでお願いされて心臓が止まる。え、どうしたのフリル? 俺を殺す気なの?


 スプーンで猫缶をほじってフリルにあ〜んって食べさせると、嬉しそうに「にゃぁ♡」と鳴いてもぐもぐする。吐血しそうだ。今俺の血圧はどんなもんだ? 大丈夫か?


 そうやってイチャイチャしてたら、チカちゃんとミケちゃんがやって来てキラキラお目々で俺を見る。


 エコロケで周囲の確認はしてたけど、二頭は子供たちの探索に着いて行ってたはずだから、多分それが終わって帰ってきたんだろう。


 ただ、それだけでフリルが「邪魔するなよ」って低く唸るもんだから、チカちゃん達がビックリしてテントから出ていってしまった。


「あら、二人きりが良いのか?」


「にゃぁ〜ぅ……」


 つーんとそっぽを向くフリルだけど、尻尾が俺の腕に絡まってて隠せてない。甘えん坊は継続らしい。


「よしよし、今日はとことん一緒に居ような」


「にゃぁっ♪︎」


 恐ろしい出迎えから始まった鴨川エリアだが、その日の夜は穏やかに過ぎていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る