拠点候補。



「取り敢えず、ここで良いか?」


「にゃんっ」


 はい可愛い。俺のフリルはいつも最高に可愛い。


 さて、そんな当たり前で当然過ぎる世界の真理は置いておこう。今は仮拠点だ。


 その内、物資も安定して異能も沢山集めて強くなったら、しっかりとした本拠点でも作って終末世界でスローライフがしたい。そんな野望があるので、それまでに作る拠点は全て仮拠点となる。


 そんな俺が選んだ仮拠点敷設予定地第一号は、熊肉を解体した上野の駅ビル一階にあるテナントで、少しこじんまりとした場所だ。


 頑強なセキュリティが欲しい俺としては、ガラス張りとかクソほど要らない。なので前面が開けてて、閉店時はシャッターを下ろすタイプのテナントが望ましかった。


 そして両脇の壁が厚いと尚良。正面のシャッターだけ気を付ければ良いのは防衛上凄く楽だ。


 最後に、バックヤードが充実してたら最高だ。トイレが有り、ダクトも通って火が使えたなら、もう何一つ言うことは無い。


「そんな夢のようなテナントを見付けました。こちらでございます」


 元はケーキ屋だったらしいテナントであり、粉々に砕かれたショーウィンドウが痛々しいが、俺の希望をかなり高いレベルで満たしてる場所だった。


 バックヤードがケーキを焼くための厨房になっているので、そもそも火が使える設計だ。そしてスタッフ用のトイレも有り、閉店時はシャッターを下ろすタイプの店舗である。


 しかも、ケーキ屋なのでショーウィンドウ以外はスッキリとした店内なので、必要以上に物を動かす必要が無く、最初からマツバで乗り込めるのが非常に大きい。


「しかも、シャッターとは別にバックヤードも扉閉めて鍵かけられるから、物資の保管についてはセキュリティ最高レベルだろ」


「なぁうっ!」


 幸い、バックヤードの中で死んでたスタッフさんが鍵を持ってたので、拝借する。


 代わりに外まで運んで、フリルのパイロキネシスで燃やして簡単に弔った。


 いやいや、これが限界だって。マトモに弔うってなったら時間かかり過ぎる。死体が腐る前に燃やして処理しただけでも温情だろ。


「さて、じゃぁあそこをシッカリと拠点化して行くか」


「にゃ!」


 俺とフリルは、これから上野で魔物狩りをする為の拠点を作る為に、役割を分担した。


 俺は取り敢えず、手始めに駅ビルの中を物色する。


 途中で出会う魔物はやはり犬が多く、駅ビルの中にも大量に入り込んでた。いや、むしろ外にいる大型の肉食獣から逃げた結果が駅ビルの中なのかも知れない。大型獣はビルの外なのか中なのか、どっちに居るんだろうな?


 そんな魔物をブチ殺しながら進み、物資を集める。


 対してフリルは何をしてるかと言うと、拠点化予定のテナントに居座って、バックヤードに降ろした物資のガーディアンをやってる。つまりお留守番だ。


 俺は荷台を空にしたマツバで無理やり駅ビル内を移動して、意外と残ってる資材を集めてはマツバに積む。流石に上の階とかは難しいが、そっちは普通に徒歩で向かって往復すれば良いだろう。


「…………ん。……………………いや、まぁ良いか」


 途中、エコーロケーションで明らかな生存者の反応を拾ったが、無視する。


 テナントをガチガチに封鎖してるし、中に物資も有りそうだし、特に助ける必要性を感じなかった。


 その物資を奪う為になら襲うのも有りかと思うが、今のところはそんな蛮族プレイは予定にない。そして、エコーロケーションで読み取った感じでは立て篭ってるのは大人が三人だ。大人なら自己責任で自助努力して下さいとしか言えない。


「まぁ、対価があれば考えるけども」


 とにかく、あれは無視だ。


 今は様々な物資を集めて、仮拠点の防御力を上げたい。俺とフリルがどっちも留守にした状態で、拠点に残した物資の安全が欲しい。


 警戒してるのは、どっちかって言うと人間だ。魔物だったら襲うべき獲物が居る時に襲って来るだろうし、その時はエコーロケーションで先に気付けそうだし、そしたらハッ倒して魔石を奪えば良い。


 けど、留守中に俺たちの物資を人間にパクられるのは嫌だ。コソコソしてる奴を探し出してぶっ殺すのも手間だし、その頃には奪われた物資は確実に目減りしてるはずだ。そんなの嫌過ぎるから、最初から奪われないようにするべきだ。 


「んー、まぁこれくらいで良いか?」


 頑丈そうな木材。接着剤。テープ。鉄板。色々と集めた。必要ならテナントの中の什器や商材をブチ壊してでも欲しい資材を集めた。


 これらをまず、降ろしたシャッターに張り付けて防御力を上げようって目論見だ。そもそも拠点の中に入れなければ盗みようが無いのだし。


 ただ、シャッターに追加装甲を貼り付けると開閉に問題が発生する。締め切ってそうなれば自分も入れないし、ある程度の隙間を開けてもマツバが乗り込めないと利便性が落ちる。


「……うーん、どっかからそれっぽいゲートでもパクって来るか?」


 丈夫そうな四角い置物をシャッター下に置いて、マツバを中に入れる為の高さを確保する。その置物まではシャッターを降ろして、追加装甲で強化。その後に、俺とフリルが出入り出来るように工夫をしながらシャッター下の空間にガチガチのバリケードを作る。


 うん、これくらいしか思い付かないな。


「よし、それで行こう。バリケード用の資材も探して集めようか。……はぁ、こうなるって分かってたらホームセンターでもっとちゃんと色々買ったのになぁ」


 ホームセンターなら鍵とか鉄パイプとか、接続金具とか色々豊富に取り揃えられてた。それらを組み合わせてシッカリとバリケードを作れれば、仮拠点のセキュリティもかなり良い物が出来たはずなのだ。


「流石にこの周辺にあるホームセンターなんて知らないし、マツバ買った所まで戻るなら片道三日だから往復六日かかるし、その頃には上野周辺の大物が強化されると思うと普通にヤバいし、上野狩り尽くしたら移動するつもりだからあんまり手間をかけ過ぎるのも微妙だし……」


 だから、まぁ、この辺りを徹底的に漁って、色々と探すしか無いのだ。


「…………まぁ、良いか。暫くはフリルに留守番を頼みつつ、一日か二日くらいは拠点のアップデートに使おう」


 近場に生存者が居たのは確認しちゃってるし、セキュリティに手を抜いて物資盗まれたら最悪だ。


 でもだからって、「物資盗まれるの怖いから」って理由で先制して殺すのはいくらなんでも蛮族が過ぎるだろう。


 野生化しつつある俺でも、流石にまだそのくらいのモラルは有るよ。


「二日で終わるかなぁ……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る