猫と往く、終末世界の歩き方! 〜壊れた日本で猫と一緒に、魔石を集めてスローライフを目指そうか!〜
ももるる。【樹法の勇者は煽り厨。】書籍化
お目覚め世紀末。
「にゃぁぁんっ! にゃぁッッ!」
ぺしぺしと、げしげしと、愛猫に叩かれて目を覚ます。
今日は仕事が休みなので、思いっきり寝て過ごす予定だったのだけども、他ならない我が家の猫ちゃん、フリルに起こされたなら目覚めるしかない。
しかし、今日のフリルは情熱的だな。甘えん坊ではあるけど、普段は大人しくて寡黙な子なのに、こんなに吠えるような声で鳴くなんて、今まで無かった事だ。
「ふりるぅ、どうしたぁ……?」
「……にゃぅあッ!」
「痛っづッ--!?」
まだ眠気が冷めやらぬ中で、ベッドに埋もれたままウゴウゴしてる俺は、ついにフリルから爪出しビンタを食らってしまう。
待て待てフリルちゃんや、それは
「痛いなぁ……、どうしたんだよフリル……」
「にゃあっ!」
流石に、引っ掻かれては起きざるを得ない。元々起きるつもりだったけど、即時の起床を促された俺は、上に乗る可愛いフリルを抱えてベッドから出るしかない。
今、なう。遅延するとまた頬っぺた引っ掻かれる。
「なんだってんだよ、もう……」
目を覚まし、掛け布団を跳ね除けて、フリルを抱っこしたままベッドに腰かける。
そこには、いつも通りの部屋があり、いつも通りの日常があり、自分の経済状況をありありと自身に伝えて来る。
要するに、「都内でワンルームが限界だよね☆」って事だ。うるせぇ馬鹿野郎。
十八歳で上京して二年目。彼女も無く、寂しさから飼い始めた猫は名前をフリルと言い、種類はソマリ。もう一年半もこの狭いワンルーム同居してる相棒で、フリルの生後半年から今までずっと、このワンルームで一緒に過ごして来た家族である。
「ほらフリル、どうしたの。何もないよ?」
フリルが結構な剣幕で怒っていたので、何事かと部屋を見渡しても、特に何も無いのだ。
覚醒して頭から眠気を払った後に、家が火事になってペットが主人を必死に起こした、なんてエピソードも偶に聞くので、もしや火災でも起きたのかと少し思ったのだ。
でも全くそんな事は無く、家賃四万円のワンルームは昨日と同じ様子であり、腰掛けたベッドも昨日と同じ、見えるキッチンも昨日と同じ、もしやトイレかバスルームで何かトラブルかと思って見に行けば、やはり昨日と同じで何も無い。
いつも通りの我が家である。
そうして、フリルを抱っこしたまま狭い室内を歩き回って色々確認した俺は、最後に窓のカーテンをシャッと開けて外を見た。
「ほーら、部屋の中には何も無いよ? フリルは何に怒ってたの? お外だってほら、昨日と………………」
アパート二階の窓枠に切り取られたリアルタイムの風景画には、燃える住宅や、烟る住宅や、壊され崩れる住宅。
そして怪我して血を流す人や、明らかに事切れた人間的なオブジェクトが転がるアスファルトに、信じられないレベルで凶暴化したペットや野生の動物が猛獣の如く人間を襲うイベントシーンが…………。
「--同じ、じゃぁ、ないっすね。うん、何この地獄絵図」
うん、ほら……、昨日と、……昨日と、まるで違う日常っすね?
ああ、そうだね。良く聞けば外から凄い音や悲鳴が聞こえるね。サイレンの音もひっきりなしだ。
「なんじゃこりゃぁぁぁああッッッ……!?」
いやいや、は? 待って欲しい何コレ。え、突然の世紀末過ぎない?
何が起きたら住んでる町のアチコチから火と煙が立ち上って、人々がコロコロ死んで阿鼻叫喚する地獄絵図が一晩で完成するの?
ど、どうすれば良い? 俺は今なにをするべきだ?
取り敢えず通報? いや、流石に通報は誰かしらしてるだろ。パトカーか救急車か知らないけどサイレンだってバンバン鳴ってるし。むしろ通報され過ぎて回線がパンクしてるまであるぞ。だって今もあっちこっちでバンバン人が死んでるもん!
じゃぁ、なんだ? 円周率でも数えるか? それより素数か? 羊でも数えて落ち着くか? いやいや落ち着くだけならフリルを撫で撫でしてれば癒されるし……。
「にゃぁあ!」
「あ痛ぃッ……」
俺が窓の外の光景に呆けて居ると、フリルが俺の手をカプっと噛んだ。痛みで緩んだ腕から逃げ出したフリルは、猫特有の完全着地で俺から離れ、そして部屋の一角に詰めてある私物をゴソゴソと漁ってから戻って来た。
その可愛いお口にはバックパックのショルダーベルトが咥えられていて、俺の所まで引きずって来た。まるで「ほら、さっさと支度しろ」と言われてる様だった。
「あ、そっ、そうだよな! まずは避難だよな! 必要な物を持って、安全な場所に避難!」
そう、まさにそれが正解な筈だ。フリルは賢い。俺より頼りになる。
確かに、外がこんな地獄になってるのにグースカ寝こけてるクソ飼い主が居たら、そりゃ引っ掻いて起こすわ。そして避難準備させるわ。フリルは何も間違ってないし、むしろ最適解しか出てない。
「ありがとうな、フリル!」
「にゃぁんっ」
お礼を言って、早速作業に取り掛かる俺に、フリルはまるで「えっへん」とでも言うように胸を張った。いやマジでナイスだよ。助かった。流石に俺の天使。エンジェルキャット。最高可愛い。愛してるぜフリル。
そうして、俺が結局まだテンパってる中、フリルが色々と持ち出すべき必須アイテムをさり気なく持って来てくれて、十分ほどで準備が完了した。多分、ペットと飼い主の関係が逆だからな。俺がペットでフリルが飼い主だからな。
まぁいい。取り敢えずスマホ、財布、タバコの三種の神器は持った。そして缶詰なんかの保存が効く食糧と、フリルのご飯も忘れずに。さらにペットボトル飲料、そして少しの着替えに、携帯充電器と、包丁。
「ほ、包丁……、そうだよな。外の地獄見たら、普通に武器要るよな」
外が見たまま、何やら動物が暴れ狂ってる人を襲ってる様子だ。なので、分かり易く武器が必要になる。そんな事にも頭が回ってなかった俺は、包丁を咥えて持って来てくれたフリルに感謝するしか無い。
それから、まだ起き抜けたままの状態だったので急いで着替えて、ついでに顔も洗ってスッキリする。そんな場合じゃないかも知れないが、さっきからテンパりすぎて、もういっぱいいっぱいなのだ。
一回顔でも洗ってシャッキリしないと、フリルに迷惑掛けすぎてしまうだろう。
「よし、準備完了。…………フリル、今はちょっと意味不明なくらいの緊急事態だし、ハーネスもリードも付けないし、ペットバッグにも入れないけど、お願いだから逸れないでね?」
普段ならこんな、言葉が通じない相手にお願いするなんて馬鹿のやる事だ。だが、今日のフリルは俺よりも賢いので、いけるんじゃ無いかと思ってる。
ペットバッグやケージバッグにフリルを入れて移動した場合、俺がポカして死んだ時はフリルも自動で道連れとなる。それは嫌なので、このまま行くのだ。
普通ならペットが逃げ出すだけだが、俺はフリルを信じてる。だって俺とフリルはラブラブだから!
「よし、取り敢えず近場にある学校や病院とか、とにかく避難所っぽい場所を目指すぞ」
「にゃぅんっ」
バックパックを背負い、包丁をタオルで包んでベルトに挟み、準備完了した俺は玄関を開けた。
「グルゥゥゥアアアアアィィィギュァァァアッッ……!」
そして後悔した。
「--なんだコイツぅぅうッ!?」
玄関を開けた瞬間、血走った目の犬が飛び出して来た。玄関前でスタンバってたのかってくらいのタイミングで、家の中に突撃して来た。
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