再会の火山島

 カロリッカ火山島に到着するや、忍とルーディは我先にと甲板から飛び降りた。

 音もなく華麗な上陸を決めると、揺れない地面の感触を噛みしめるように二人で大きく深呼吸をする。しかし帰りも船に乗らねばならないと思い出し、揃って肩を落としたのだった。

 子供みたいにはしゃいだと思ったら打って変わってテンション急降下な二人は、冒険者や船のスタッフ、島にいた調査員など周囲の人間からますます不気味がられることとなった。


「帰りは泳ぐか? 方角は分かってるし」

「水着なんて持ってきてないわよ。裸で泳ぐつもり? 野蛮人ね」

「失礼だな。水着ぐらい、魚の皮から作れるぞ。縫製も得意なんだ、オレ」

「……器用なことね……」


 忍の思わぬ特技にルーディが絶句したところへ、船上で出会ったロベールが駆け寄ってきた。下船したので波除けのフードも外し、鮮やかな赤い髪と焦げ茶色の猫目をした、活発そうな素顔が露わになっていた。

 丸っこい小顔で目が大きいので、小柄な体格も相まってゼノビアと同年代に思える。しかし正式な冒険者になれるのは成人=15歳以上が最低条件なので、どんなに若くても忍と同い年だろう。


「二人共、もう具合は良いみたいですね」

「おう。けどいいのか? オレらと話してっと、相棒がまたヘソ曲げるぞ?」

「誰がヘソ曲がりだ、誰が」


 言ってるそばからへそ曲がり――もとい、ディランもやって来た。船上で再会した時よりも3割増しで不機嫌そうだ。

 ディランとロベールは、まだ結成して間もない……というか、今回が二人での初仕事らしい。どっちも他に入れてくれるパーティがいなくてソロで活動しようと考えていたところ、お互いにちょうど良い相手を見つけた……と、ロベールが雑談の中で話していた。


「ロベール、この男は関わるだけ危険だってさっきも忠告したよね。噛まれたら指の二〜三本じゃ済まないってさ」

「ちょっとディランさん? いくらなんでも失礼ですよ、そんなケダモノみたいに。ちゃんと意思の疎通できるじゃないですか」

「どうだかな。意味不明な理由で王女殿下を殺そうとしたって以前にそいつが話していたぞ。顔の火傷を勝手に消されたからとか、どうのとか」

「……本当なんですか?」


 振り向いて確認してくるロベールに、忍は大きく「おう!」と頷いた。すぐにルーディから「そんなことを自慢するな」と尻を抓られた。


「本当だろうとなかろうと、どっちにしても頭のイカれた危険人物には変わりないよ」

「あなたがそれを言えるのですか? お節介焼きのディラン・アルハート。人助けの体裁で他人の手柄を横取りする常習犯が」


 悪しざまに言われる本人がどこ吹く風と気にした素振りもなかった代わりに、ルーディがディランに言い返した。平素の無表情なままながら、不機嫌な冷たい視線がディランを射抜く。

 眉を釣り上げたディランは、忍の頭越しにまだ酔いが収まらなくて顔が青いルーディと対峙した。


「君は……ガートルード・ヘルシングだっけ? ふっ。生憎と、僕はもう他人にお節介を焼くのは辞めたのさ」

「賢明です。これで、あと少しで倒せた獲物を横取りされる新人冒険者も減りますね。ハイエナ行為が恥ずべき事だと、ご理解したようで」

「フン。僕は純粋な善意で行動していたんだ。けど、だからといって相手が必ず感謝するとは限らないと学んだ」

「浅ましい。感謝されたくて世話を焼いていたと?」

「無償で他人に尽くすのは趣味じゃない。僕は大衆に褒められたくて冒険者をやっているんだ。……でも、積極的に人助けしなくなってからの方が感謝されることが増えたんだよね……なんでだろう?」


 何でだろ、と首を傾げるディランだが、ロベール含めた全員にとってどうでもよい疑問だったので、誰一人として明確な答えを出すものはいなかった。


「あ」


 ふと気がつくと、港には自分達以外の冒険者がいなくなっていた。魔物が蔓延る火山まで向かうバスが、けたたましいエンジン音を立てて発進していった。


「バッキャロー!! 置いてくんじゃねー!!」

「くそっ!! 走るよ、ロベール!!」

「追いかけるんですか!? 無茶ですよ――きゃわっ!?」

「ではわたしが運びます。ちゃんと掴まってください、舌噛みますよ」


 忍、ディラン、ロベールを抱えたルーディは、遠ざかっていくバスを追って駆け出して行った。

 しかし途中からバスと競争するのに熱中しだした三人は、車を追い抜いて先に目的地へ到着。一位ルーディ、二位ディラン、少し遅れて三位に忍、ややあってバスが現地入りしたのだった。

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