第90話 輸出税と、秘伝と、信条
貴族派は、ラメル商会の荷を奪う方策をとったようだが、護衛が強すぎて失敗。
そして、力技に出た。
ラメル商会にだけ輸出税を課したのだ。
「ということで、ラメル商会が輸出する荷は、全て商業ギルドにお任せします。盗賊国とは話がついているので、ご安心を」
俺は王都の商業ギルドの担当者にそう提案した。
「良い提案です。ですが、ラメル商会の利益に税金を掛けられたら、元のもくあみ。どうなさいます。いっそのこと、ラメル商会を商業ギルドにお売りになっては」
商業ギルドは抜け目がないな。
さて、商会の利益に税金を掛けられたらどうするかだが。
株式会社にして、教会と商業ギルドに株を売るというのも一つの手だが。
教会と商業ギルドが結託したら、主導権を握られる可能性もある。
裏切りも計算にいれとかないと。
こういう時の手は、商会を分割するだ。
部門ごとに分けて独立採算制をとる。
税金を掛けられたら、掛けられた商会は名前を変えて、新しく作り直す。
どんな事があってもラメル商会だけは残すが、独立採算制なので、ラメル商会には富が集まらない。
税金をいくら掛けても無駄なわけだ。
傘下の小さい商会はいくら名前を変えても問題ない。
ラメル商会の傘下の○○商会ですと名乗るのだから。
偽物対策はその都度だ。
だが、貴族が投資している商会を偽った場合、相当な罪になるし、賠償金も取れる。
「その場合の考えはあるよ」
「さようですか。お売りになる決心がついたら、いつでも声を掛けて下さい」
最近、エクレアと夫婦の時間が少ない。
今日は、エクレアとゆっくりしよう。
「体調は悪くないか。欲しい物があったら何でも言え」
「十分頂いてるけど、欲を言えば、二人の時間がもう少しほしいわね」
「済まんな。色々と忙しい」
「そういえば、ラメルさんもおめでただそうで」
微妙な話題だな。
でも話をしておかないと。
「ラメルの一家は貴族にはしない。商会をやってもらう。本家と分家になるわけだが、特別な理由がない限り、本家と分家の婚姻を禁ずる」
「どうして?」
「血が濃くなるのを防ぐという意味もあるが、俺の魔法の秘密は本家だけの相伝としたい。これを見てみろ」
extern void water(void);
void main(void)
{
water();
}
簡単なC言語で書かれた魔法の呪文を見せた。
「何語?」
「C言語だ」
「シー言語?」
「それの読み方を教える。最初はエクスターン。外部って意味で。次がボイド。無しって意味……」
エクレアに英語と記号の読み方と意味を教えた。
「【extern void water(void); void main(void){ water(); }】。はわわ」
C言語魔法を発動するエクレア。
2メートルを超える水球が出来上がった。
「誰か! タライとバケツと雑巾をありったけ持って来い!」
俺が叫ぶ。
「はい、ただいま」
バケツやタライを持ったメイド達が飛び込んできた。
だが、部屋はびしょ濡れになった。
「俺が悪かった。魔力量を指定する魔法にすべきだった」
「それにしても、物凄い効率の良さ。でも英語を覚えないといけないのよね」
「まあな。よく使う単語だけでも覚えれば良い。それに少しおかしくっても魔法は発動する」
「変なイントネーションでも、言葉が判るみたいなものですか」
「そのような解釈でいいだろう」
「これからも英語とC言語を教えて下さい」
「そのつもりだ。俺に何かあったら、子供にそれを教えられるのはエクレアしかいない」
「不吉な物言いですね」
「そうだな。両親二人から教わったら絆が強まる。こう言い直しておこう。C言語と英語の読み方は絶対に家族以外に話すなよ」
「ええ」
エクレアのスペルブックにC言語の魔法が加わった。
それが楽しいのか。
エクレアは何度も読み直しては、単語を呟いている。
エクレアとの絆が強まった気がするのは俺だけだろうか。
いいや、秘密を一つ打ち明けたんだ。
絆は確実に強まった。
エクレアにC言語のプログラムの組み方を教えるのはまだまだ先だな。
そして二人で子供にそれを伝えていく。
その日が待ち遠しい。
「なあに、笑って」
「子供に秘伝魔法を教えるのが楽しみだ」
「ギブアンドテイクとか言って、教えるのに子供からも、まさかお金を取るんじゃないでしょうね」」
それも良いかもな。
強大な力がただで手に入るなんて勘違いされたらいけない。
「取るぞ。エクレアからも取らないとな。単語1つ教える毎に銀貨1枚だ。これでも割安なんだぞ。子供からは金貨1枚取る予定だ」
「はいはい」
エクレアは笑って財布から銀貨を取り出した。
ギブアンドテイクの信条は曲げない。
どんな時でもだ。
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