第2話 門番の仕事と、鍛練と、覚醒の兆し

「はい、次。足税銅貨10枚」


 俺は街の門で足税を徴収している。

 税を徴収する係は門番のエリートだ。

 エリートと言っても泥棒をしないという意味だけだ。

 税をちょろまかす門番は後を絶たない。

 監査が入るとすぐに分かる。

 入った人間の数と上がった税金を照らし合わせればいいだけだ。

 だから、徴収係は信用される奴しか出来ない。

 俺は馬鹿貴族を殴った話が着任の時に伝わって、その日から徴収係だ。


「あの、持ってません」


 またか。

 こういう輩はたまに来る。


「鎌を貸してやるから街の外で草を刈って来い。銅貨10枚分の飼料になれば通してやる」

「はい」


 馬とか牛とか飼っている奴はいるから、飼料は何時でも需要がある。


「お前、優しいのか、厳しいのか、分からないな」

「俺はギブアンドテイクに従っているだけだ」

「交代だ。ラッカー、鍛練の日だそうだ」

「了解しました」


 俺は王宮の脇にある修練場に顔を出した。

 近衛騎士には定期的に鍛錬が義務付けられている。


「よし、揃ったな。始めろ」


 模擬戦をする。

 俺と対峙した奴は魔法を撃って来た。

 避けるが追尾してくる。

 魔法で迎撃したいが、呪いで封じられている。

 出来るのは逃げ回る事だけだ。


 逃げるが、魔法に追いつかれ、背中から火球を食らった。


「やめ。ラッカー、だらしないぞ。罰として20周だ。全力で走って来い」

「はい」


 走るのは別に良い。

 魔法が使えない以上、頼れるのは体力だけだ。

 俺は王宮の周りを走った。


「遅いぞ。次は剣術だ」


 疲れているが、休ませてくれとは言えない。

 ふらふらしながら対戦相手と対峙する。


「始め!」


 疲れているので滅多打ちにされた。

 最低限の力で防御するすべを習わないといけないな。

 冒険者は言っていた。

 万全の時でない方が多いと。

 その訓練だと思えばやってやれる。


「ラッカー、一度も勝てなかったな。罰として腹筋と腕立てだ」

「はい」


 腹筋を始める。


「ふふっ、腹をなぐってやれ」


 お前はアーモ伯爵。

 そういう事かよ。


 腹筋の最中に腹を殴られた。

 ボクサーの鍛錬だと思えばなんて事はない。


 腕立てを始める。


「乗ってやれ」


 またしてもアーモ伯爵が指示を出す。

 腕立ての最中に同僚一人が俺に乗った。


 重い。


「どうした。上がらないぞ。近衛騎士はこんな物なのか」


 アーモ伯爵が煽る。


「水を掛けてやれ。少しはシャキッとするだろう」


 そう隊長が言う。

 水は嬉しいな。

 火照った体が冷える。


 臭い水を掛けられた。

 くそっ、汚水を汲んできやがったな。


「どぶ鼠がいるぞ。臭いな」


 アーモ伯爵が言う。


「わはははっ」

「死にそうな顔してやがる」

「臭い、臭い」

「はははっ、睨んでるぞ」

「潰しちまえ」


 同僚達が囃し立てる。


 結局、腕立ては一回も上がらなかった。

 俺の中のキブアンドテイクは釣り合っている。

 近衛騎士の給料は高いからな。

 だが、俺のプライドを加味すると、ギブが圧倒的に少ない。

 ツケにしておいてやるよ。

 後でみてろよ。


 鍛練は週に1回のペースでやって来る。

 3ヶ月経つ頃には鍛練も辛くなくなった。

 ツケは貯まっていく一方だが。


 そして、瞬く間に10年が過ぎた。

 週一の鍛錬は相変わらずだが、もう慣れた。

 近衛騎士の合格を喜んでくれた両親ももういない。

 エクレアとは月1回のペースで会っている。

 門番の仕事も相変わらずだ。

 今日も立っている。


「足税銅貨10枚ね」

「持ってません」


「そうか、色々なコースがあるがどれにする。恥ずかしいが、楽なコース。根気があれば、何とかなるコース。力がいるコースがある」

「楽なのでお願いします」


「そうなると下着を脱いでもらわないといけない。勘違いするなよ。下着を売るだけだからな。変態が買う。銀貨ぐらい稼げるぞ」

「そっ、そんなの出来ません」


「じゃ草刈りだな」

「やった事ないんですけど」


「そうなると岩を運んでもらわないといけない」

「無理です」


「となるとお勧めはしないが、門番のマッサージだな。ケツを触られるぐらい覚悟しろよ」

「やります」


 俺は足税徴収率100%の男と言われている。

 情で目こぼしはしない。

 仕事で金は稼いでもらう。

 それがギブアンドテイクだからな。


 みすぼらしい老人がやって来た。


「入りたいのじゃが、持ち合わせがないでのう。その代わりにこの本でどうじゃ」


 表紙を見て驚いた。

 日本語とアルファベットで『魔王タイトの魔法手引書 Ver2.5』と書かれている。

 欲しい。


 これが俺の想像通りなら、銅貨10枚では釣り合わん。

 金貨100万枚以上の価値がある。


「じいさん、金貨1枚と金貨100万枚の借用書を書くから、持って行け」

「ほっほっほ。そんなに凄い物とはのう。今まで売らんで良かったわい」


 金貨と借用書を渡した。

 そして手引書を開いて驚く。

 書かれていたのは。


「C言語じゃないか! プログラムが魔法の呪文なんてありかよ! そんなの普通しないだろ! そりぁ、外国語でも何でも呪文になるけど。異世界の言葉でもオッケーなのか。そんなの転生した時に教えろよ!」

「お前、なにを興奮してるんだ?」

「世話になったな。俺は近々門番を辞めるかも知れん」

「そうか、聞いてるぞ。虐められているんだってな。10年も虐められりゃ、誰も責めないさ」


 俺は莫大なギブをじいさんから得た。

 借用書の金は絶対に払う。

 どんな事をしてもだ。

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