新事実
第44話
気づくとシバは寝ていた。こんなにすっきりと目が覚めるのはなかなか無い。左肩には温もり。湊音だ。頭を乗せてる。手も繋がれて……。
「うわぁ!」
膝掛けが足元に落ちていた。それに気づいた後に何か視線を感じて手を思い切り振り払ってシバは立ち上がって湊音は座席に倒れ込んでウゲッという声と共に目が覚めた。
その視線の先には宮野。
「お、おまえ……見たか?」
「見たとかどうとかの前にもう行きますよ。もう名古屋に着きました」
「えっ、ま、ま、マジか?」
湊音もそれを聞いて慌てて起き出して眼鏡をかけ直して膝掛けを持ってあわあわしているが寝ぼけているようである。
「忘れ物はないか! はよ行くぞ!」
「他のみんなは?」
「もう外にいます! 大きな荷物は先に運んでますから早く!!!」
シバは宮野にグッジョブ! と思いながらも貴重品、チケットを持って3人は慌てて新幹線の外に出た。
人の多い中、生徒たちが慌てて出てきた3人を囲む。
「はぁ……間に合った」
湊音は寝ぼけてたのかまだ何が何だかのようだったがシバが頬を軽く叩く。シバはそれよりも膝掛けが足元に落ち、繋がれた手を宮野に見られてしまったかと思うと恥ずかしい限りである。宮野を見るが何も言わない。そんな彼にこっそり耳打ちする。
「……お、お前。あれはな、その黙っとけよ」
「何ですか」
「とぼけんじゃないよ、見ただろ……」
「何を」
「あぁぁ……湊音と、湊音先生と手を繋いでたことだよ」
「……あぁ」
宮野は思い出したかのように頷く。
「別に、それが?」
「それが? じゃないだろ」
「いや、もうみんな承知ですから」
シバは部員たちの顔を見る。
「もうわかってますから、お二人の関係は」
「なっ……」
湊音はン? って顔をする。
「でも湊音先生にとっては浮気になるんですかねぇ……僕らは2人のことはとやかく何も言いません」
「あははは……」
すると宮野がニコッと笑った。シバはその不敵な笑みをどこかで見た気がする。そうだ、彼の兄も同じような顔をしていた。
その表情の時は何かシバの何かを握った時の顔だ。
「……もう夜ご飯の時間だなぁーって思いましてね」
「えっ、その……」
部員たちの方を見ると彼らも不敵な笑みを浮かべた。
「わかったぁああああ!!!! 名古屋で晩御飯奢る!!!!」
「ヤッタァ!」
シバは参った。
流石に夜も遅かったので名古屋駅構内で美味しそうな駅弁を1人ずつ配って帰ることになった。
地元の駅に着くとジュリが待っていた。
「お帰りなさい、みんな」
「ジュリ……」
生徒たちもジュリに挨拶してそれから散り散りに帰っていった。
「どうだった、お二人とも。お疲れ様。こんなに手にマメを作って。痛そうだわぁ」
「これくらいどうたってことないです。とても有意義な三日間になりました。この度はありがとうございました」
湊音は深々と頭を下げた。しかしジュリはじっと2人を見ている。シバが冷や汗が出る。
「2人も色々と有意義に過ごせたんじゃない?」
「……そ、そのお」
「首元にキスマーク!」
シバも湊音も慌て首元を見る。
「ふふふ」
ジュリは笑う。してやられたりである。
「まぁ詳しい話はその弁当を食べながら……ねっ」
「え、弁当……二個しか」
「二個……ねぇ」
目線の先には駅の売店。名古屋で買ったはずの同じ高級弁当がなぜかここでも売っている。
「え……」
ジュリも不敵な笑みを浮かべる。シバと湊音は見つめあって苦笑いするのであった。
「まぁあとそのお弁当がさらに美味しくなるお話もしてあげるから……湊音先生もシバくんの部屋に来なさい」
「あ、僕もですか」
「あなたも帰るつもりだった!?」
湊音はジュリの視線にたじろぐ。
「はい、理事長……。でもその、美味しくなる話って何ですか」
「そ、そうだよ。その美味しくなる話ってさ、なんだ?」
ジュリはカバンから何かを取り出す為ゴソゴソし出した。
「それは……」
「覚えてる? このイヤリング」
シバが以前自分のベッドの下に落ちていたものである。
「てかビニール袋に入れて警察かよ」
「こんないいもの無くしたらやばいでしょ」
湊音はそれをじっと見ている。そして手に取った。
「湊音、どうした」
「そのさ、これ……」
口籠もっている湊音。
「……湊音先生ならこの持ち主わかるでしょ」
ジュリが湊音に近づくと頷いた。
「……彩子先生のだよ」
「え?」
湊音は頷いた。
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