第41話
剣道部合宿1日目から大波乱を迎えたわけだが夜八時にもかかわらず老朽化したバンガローのあらゆるところで虫が大発生したことがこの日の一番の大波乱になってしまったわけで。
いつも竹刀を振り回す剣士たちでさえも流石に虫の大群にはショックでパニックを起こす生徒たちが多かった。
そんなこんなで一行は今はとある旅館にいる。そこは……。
「最初っからここに泊まってもらった方がよかったかしらー」
顧問、生徒合わせて約40人ほど。彼らを受け入れてくれるホテルなんぞないとは思ってはいたシバたちだったが、目の前にいる女将姿の美樹を見て一同は驚いている。
「うちの生徒たちは知ってたけど私はね、ここの旅館に嫁いだのよ」
「旅館っつーても超大きな旅館じゃねぇか」
「みたいね、剣道の練習以外は女将業、あとは妻として、母として日々奮闘してるのよ」
シバはこの日の夕方に人妻であり子供の母でありこの大きな旅館の女将を抱いてしまったのか複雑な気持ちだ。生徒たちは先ほどのショックを忘れて広くて綺麗な旅館に感激している。
「宿泊費の方は研修所の管理人と交渉しますわ。なんとか部屋を開けて男女分けて40人、宴会場も利用して布団も手配できたしホッとしたわー」
「本当ありがとうございます。もう10時ですし風呂もみんな入ったのであとはゆっくり休ませることができます」
「研修所から遠いのが難点だけどさぁーまぁ2人ともゆっくりしてちょうだい。まだあと一泊あるし」
「ありがとうございます、明日もよろしくお願いします」
湊音は頭を深々に下げてから生徒たちに部屋にいくよう指示をした。それを見計らって美樹はシバに
「明日もみっちりしごいてあげるわー、ねぇ……シバ」
と言う。ごくりと生唾を飲み込む。しかし案内する仲居の中に小柄の男性がいてその人がここの旅館の社長であり美樹の夫だとわかると自分とは対照的な男を選んだものだと思ってしまった。
「主人とはここ最近ご無沙汰だったの。子供が生まれてから……産後レスってやつ? だからひさしぶりにセックスした相手があなたでよかったわ」
と耳元で囁く美樹。
「……でももうしばらくできなくなっちゃった」
「え?」
「シバとセックスしたら女性ホルモンがなんたらで生理来ちゃったみたいだから。ふふ」
「……まじか」
「でも明日も剣道でその分みっちりしごくわよーふふふー」
美樹は笑ったがシバは苦笑いするしかなかった。確かに昔関係もあり、剣道の腕前も対等でいい先輩でもあるがもう人妻である彼女に関しては未練たらたら残すことはないかと。
また自分と肉体関係を持った人が他の人と関係を持ち結婚する。ある意味辛いものでもある。
その分湊音は同性の恋人はいるが結婚はできないだろう。だから安心して一緒にいられる。……シバは何を求めているんだろうか、湊音に。女だったら他にもいる。なのになぜ湊音に。
「シバ、行くぞ。行ってさっさと寝るぞ」
湊音が従業員の女性と共に戻ってきた。
「あぁ……確か部屋一緒だったな」
「ん、そうだったな」
「流石にヘトヘトでさ……もう寝たいや」
「俺も。あんな虫の大群見たら萎えた」
「何が萎えたんだよ」
従業員に聞かれないように会話を交わす。2人はまだ部屋につかないのか、と思いながらも歩いていく。
そして通されたのは……。
「女将から特別なお客様とお聞きしまして。あ、まぁ実のところお部屋が空いてなくって」
奥に露天風呂があり、景色が広がっている。部屋も広くベッドはダブルベッド。
「いわゆるスイートルームっていうところで……まぁ大体はカップルが多いんですけどねぇ、ほほほ。夜も遅いので、はい」
従業員の女性はふふふと笑いながら去っていく。シバと湊音2人きり。部屋を見てそれから互いを見る。
「ははははは」
「ははははは」
笑いが自然戸溢れる。
もちろんこの夜は……。
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