第2話

 ステーキセットをもう一枚頼んでもらい、ぺろっと平らげたシバは瀧本にすぐ学校へ連絡してもらいすぐ教員寮も開けてもらったとのこと。こんなにすんなりといくのなら早めに決意すればよかったと思うシバだがとりあえずお腹を満たす。


 ご飯も3杯お代わりし、お腹いっぱいのシバはファミレスで解散した瀧本から渡されたメモを頼りに歩いて大きなキャリーケースをひいて向かう。そのキャリーケースの中身がシバの全荷物である。


 聞くところによると家具家電も前に住んでいた職員が使っていたのを使ってもよく、布団も今夜の分はレンタルしたものを用意してくれるという太っ腹。


「保健室のせんせと、可愛い生徒ぉー。住所通りだと……ここなんだよなぁー」


 やはり普通の条件では動かないシバ。下心を上手くチラつかせる、瀧本の戦略にまんまと釣られ。だが、住所通り辿り着いたシバはやられた! と頭を抱えた。


「うわ、ここ……男子校じゃないか」

 そう、ここは男子校である。が、昨年より一部クラスに女子生徒も入るようになり共学になっていくそうだ。そのため高校名も変わっていた。


「くそっ……でもとりあえず近くにコンビニあるし、泊まるところはあるし。生徒は大半が男で、あとは保健室の先生……」


 と、玄関の前で待っていた紺のスーツの人がこちらを見ていた。髪の毛は長くて化粧もしているが体格に首の太さ、喉仏を見ると男性である。シバよりも若そうに見える。


「あら、あなたが瀧本さんのご紹介で……今さっき電話きてすぐ入居させろっていうから慌てて掃除しましたのよ」


 声は男性の高音、言葉遣いも女性だがやはり男性だとシバはわかった。


「はい、冬月です」

「桜木学園高校養護教諭兼当学園理事長の桜木ジュリと申します」


 とシバに名刺を渡すジュリ理事長の爪はブラウンで綺麗に整っている。


「ジュリ……養護教諭って保健室のせんせ……」

「ええ、今は養護教諭だけど保健室の先生、がわかりやすいわよね。あ、ちなみに見てもわかるかもしれないけど体は変えていないけど体は男性だけど心は女性。性転換手術してないけどね」


 シバは瀧本にやられたと思った。確かに見た目からしたら女性にも見えるかもしれないし、彼自身女性を名乗っているから瀧本がいう保健室の先生は女であると言うのは間違いない。


「ちなみに私は心は女性だけど恋愛対象は女性、性対象も女性です。ちなみに妻子もいます。子供も2人」

「ふ、複雑……」

「そう思いますよね、でも世の中いろんな性があるのです。あなたはまだ知らない……」

「いや、知らないって言う訳ではないんですけどね」

「あら、そうなの」

「……そんなことよりも、剣道場を見せて欲しいんですけども」

「あぁ、そうだったわね。瀧本さんからは聞いてはいるわよ」

「瀧本さんとはどういう関係で……」

「飲み友の紹介。瀧本さんは刑事さんだし、うちの学園でも色々とお世話になってるの」


 ほぉっとシバは答える。校舎の中はもう生徒はいないようだ。

 先ほど見た生徒の制服からしてここの生徒だとわかったが下校した生徒たちだったのか、と。


「今日は授業も早めに終わって順次下校してます。先生方も一部の方のみ残ってます。顧問の槻山つきやまも今職員室で仕事していますが連絡しましょうか」

「あぁ……お願いします、あ、でもお仕事優先でいいですって」


 ジュリ理事長はスマホを取り出して顧問に電話をする。


 シバは校舎をまじまじと見る。話には聞いたことはあったのだがもともと男子校で進学校。部下にも何人かこの高校の出身者もいた。警察の中でも剣道部出身だというものもいて、彼らの腕前は確かだったと思い出す。


 学校の名前と男子校であることは知っていたが住所は知らなかったからまんまと瀧本にしてやったりだったと苦い顔をするシバ。しかも理事長が女性が恋愛対象者の女装をしている男性ともあって少しがっかりもしているが今日すぐに宿があるだけでもありがたく思わないといけないのである。


「て、瀧本……瀧本さんから聞いてはいるってどの辺りを聞いてはいるんですか。俺の経歴?」


 ジュリ理事長は先を歩いていたが振り返って笑った。かなり高めのヒールを履いた理事長は振り返った。きっとこのヒールを脱ぐとシバよりも背が低いのであろう。


 だんだん距離が近くなり、シバの耳元で囁いた。


「有能で剣道日本一の刑事さんだけど女好きの野犬だから気をつけろって」


 ジュリ理事長の首元からはあまり匂い、香水であろう。シバは瀧本から理事長にそう吹き込まれたかと苦笑いした。


「あ、ちょっと保健室寄ってっていいかしら。槻山先生が今の仕事終わらせるまで一時間半欲しいって言うからコーヒーでもいかが?」

 不敵な笑みでシバを見る。シバは頷いた。







 数分後の保健室。ベッドを囲うカーテンの中から吐息と喘ぎ声が聞こえる。シバと理事長の声である。理事長はさっき以上に甲高い声でシバを求めているようだ。


 軋むベッドの音。かなり優勢なのは理事長の方だ、あまりにも大胆で激しい理事長を見るとシバは驚いた。


「さっき性対象は女だけだって……妻子もいる……って」


 理事長はシバの上に乗っかっている。


「……とんだ野良犬だから気をつけろって言われたから隠してたけど、やっぱり隠し通せないわ。私は女も好きだけど男も好き、いや男の方がすっごく好きぃ……最高、野良犬……しば犬!!!!!」

「しば犬だけは言われたかないわ!」

「あぁっ!!!!」


 理事長は果ててシバの身体の上で倒れ込んだ。2人とも息絶え絶えである。


「シバさんは私みたいな人でもいいのね……」

「私みたいなのって……なんだよ。理事長から誘って来たくせに」

「てか経験あるの? 抵抗なく受け入れてくれたけど」

「まぁな、でも1人だけしかいない。男とは……おっと、理事長は女か」


 理事長は首を横に振る。


「ジュリでいいわ。まぁ私も身体は男ですし、世帯持ちですけど……私はシバさんの2人目の男ってことで……嬉しいですわ。タイプだし、今までいろんな女性があなたを求めてきた理由がわかる」

「そんなの知ったこっちゃないよ。このことが原因で離婚して家追い払われちまったんだからな」


 ふふふと理事長……ジュリは笑った。余韻に浸るジュリを自分の左腕に頭を乗せさせてシバは天井を見上げる。


 そう、シバが唯一抱いてきた男性は1人いるのだ。その男のことを思い出した。少しジュリにも似ているのだがそれ以上に好きな身体だったと。


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