雫27号…出生①

小さい頃から

鉛筆やクレヨン等の筆記用具が

とても好きで、危ないからと

中々、持たせて貰えず

不満が爆発しては、

泣き叫び、

手当り次第投げていた記憶が

ありありと蘇る


言葉を上手く使えないで

癇癪を起こす幼児期


割と早めの「めざめ」が

僕の中で始まった。


何かしら、

書く道具が欲しかった。

何でもいい

何色でもいい

硬くても

柔らかくても


とにかく、

何か描きたかった


まだ、器用ではなく

手が自由に動かず、

滑って

床に押し付けてしまったり

大好きな赤のクレヨンを

兄に取り上げられ


箱に入った大切な宝物の

クレヨンを壁にぶち当てたり


大暴れして、

母さんを困らせた。


使い方が

分からないんじゃなくて

上手く

使えなかったんだ

手が小さくて

思った通りに

動いてくれないんだ。


僕は絵さえ描いていれば

落ち着いていられた


幼稚園のお友達は、

積み木やパズルや

おままごとで、遊んでたけど


僕は大好きな赤のクレヨンで、

色んなものを描くんだ

時々、黄色や緑も

仲間に入れてあげた


お腹が痛くて、

泣いてる時もクレヨンを

持てば、痛くなくなったし

お熱も引いた


間違って

咥えることもなくなった


なんだか、描こうという

気持ちと手足がまだ、

団結してないんだよね


大きくなるに従って

道具は色鉛筆になり

絵筆になり

紙は、スケッチブックから

キャンパスになり


そうしてる間に

友達は、ゲームや

野外に出るコはサッカーや

野球になっていた。


僕は、

変わらず

絵筆を手放せなくなっていた

描くものと言えば、

静物画が殆どで

それも一部分だけ

整理ダンスの取っ手


勉強机の左の角に

貼り付けられ、剥がれかけた

アンパンマンシール


すり減った赤いクレヨン


壁に取り付いているプラグ


父さんの髭剃りの刃


母さんの真珠のネックレスの金具

ヘアードライヤーの

吹き出し部分


何に、

追い立てられているのか

何を

求めていたのか…


その頃は、描きたいものを

描かなきゃいけないものを

探し求めていた。


僕にとって

絵は切っても

切り離せないものになった。


父は、

商社勤務のサラリーマン

とても物静かな人で

人当たりも悪くはないが


ぐいぐい

出世コースに乗る人ではなかった

このまま

静かに定年を迎え、

家のローンを払い終えて

退職金と年金で、静かに

好きな釣りに出掛けたり、

たまにゴルフに行ったり

するのだろう。


僕は一応、進学校に入り

成績は上位でもなく

落第スレスレでもなく

中間あたりをふらふらと

さ迷っていて、


絵の道に進みたいけど

輝かしい受賞歴が

ある訳でもなく、

描く絵の殆どは

普通に

すごいねって言われる位の

絵、でしかなかった。

凄いって意味が不明だ。


ただただ、

精密機械の様な正確さで、

物体の部分だけを描いた

絵は、

人には理解されず

また、理解してもらおう

という気もなく


当然ながら、

美術の先生からは

不評だったし、

コンクールに出そうと言う

話しもなかった。


ただ、

一人の先生を除いては…



何故か

全体を描くのは苦手だった。


どこへ行けば、このモヤモヤした

気持ちが晴れるのか

どうして、全体ではなく

部分に拘りがあるのか


いずれは

身の丈にあった大学へ進み


自分も又、会社勤めになるのか

と、思いを巡らせていた。


高校2年生になった頃

静かな父が

進路の話題を口にした。


絵の道に進みたいのか?

絵画の世界に絞り込まず

デザインやイラストと、

視野を広げれば、色んなモノが

見えてくるんじゃないのか…


そう考えない事もなかった



パズルの様にバラバラな衝動

何かが、噛み合わない

それが何か分からない

分からないままに

ただただ

クレヨンを色鉛筆を絵筆を

握りしめるだけで、

精一杯のもがきだった。


あの先生に指摘されるまでは

気が付きもしなかった…










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