雫23号…恋と愛❷

まだ、若かった

俺、自分の事で精一杯で

思い遣る気持ちが、

足りなかった。


なんか毎日が

ボロボロだったよ。


もう何もやる気に

なれなかったし、

手につかなかった。



進学で田舎から出て来た

俺は、バイトのハシゴで

今時、こんな苦学生いるのかよ


って位、夜遅くまで

働いてた。

そんな時、終電車で

君と出会ったね


全く、

周りなんか見えてなくて

電子書籍に見入ってたよね


終電車は

疲れ果てたサラリーマンの

おじちゃん達でいっぱいで


飛び込んで乗車して来た

女の子達の甘い汗の匂いと

止まらないおしゃべりと

酔っ払い達の酒臭い車内に


君の座ってる場所だけが、

なんだか清浄で

異空間だった。


何の本を読んでいるのか

ブルーのイヤホンからは、

何が聞こえているのか


とても知りたかったし

Kindleのページをめくる

その細くて、長くて

透き通るように白い指が


とても綺麗だった。


その白い指が、

あまりに細かったので

瞬きした後、二度見したよ


自分の指を握りしめて

改めて、

自分の手を見やってた

ごっつい手だな…と

なんだか

恥ずかしくなったのを

覚えている。


その後、

君の着ている

サマーセーターが

俺のリュックの外れかけた

スタッズに

引っかからなければ…


話すことは決してなかったね

女の子と話すの

なんか苦手だったし

ましてや、電車で出会った子に

声をかけるなんて


俺には、

相当の勇気がいることだから。


俺の降りる一つ手前の

駅で降りる君は、

俺のリュックに引っかかり

どうしても停車中に取れずに…

俺まで君の駅で降りる羽目に


ずっと笑えたね

実は、あの日電車で

一目惚れだったと白状した時

君は

ほんとにまっすぐ俺を見て

ありがとうって


なんか

すごく素直で、優しいんだな

って、思った。


君に会えて

君の優しさで

色んな物や景色まで

変わって見えたよ


いつも静かで、

怒ることなんてなくて

おっちょこちょいで

目はド近眼で、

なんでも美味しい美味しい

って、

俺が作る目玉焼きすら

美味しいって食べてくれたね


バイト続きで、会えない時も

静かに本を読んで

ずっと待っててくれた。


恋が愛に変わる時


君は静かに

そんな時まで、静かに

一通の手紙を残して

去ってしまったんだよ


あまりのショックで

探す事さえ、

思いつかなかった


荒れて

荒れ果てて

心も部屋も、生活も


自分だけが

幸せだと思い込んでいた


とんだ道化師だよね


バイトも首になり

大学も単位が足りず

留年となり、

そんな余裕はないから

中途退学を選んだ

親には、頼めなかった。


退学した事も、数年は

隠してた。


数ヶ月後、何とか居酒屋で

バイトを始め、

少しずつ、傷も癒えて

新しい恋人もできた。


バイト先も、

そのまま社員雇用にと誘われ、

誘われるまま、社員になり


気が付けば、

店長として働く様になっていた。


そして

少しずつ

君の顔を思い出せなくなっていた。







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