第7話
朝日と共に目覚める。なんて健常なんだろう。
洞窟に入り込んできた朝日だから正確には明け方ではないけど。割と布団に潜り込むこともあるけど。
まあいい。
今は朝だ。間違いない。だって九時だし。九時を昼とは言わない。これ常識。
テーブルの隅に置いた鳴らない目覚まし時計で時間を確認して起き上がる。
最初に行うのは洗顔。
宝箱という名の洗面所の出番だ。
水は地面に垂れ流しだけど、厳密には屋外なのでセーフ。今日も吐き出されたタオルで顔を拭う。ベッドの傍には外に行く用のスニーカーだけでなく、突っ掛け用のサンダルが置いてある。室内履きってやつだ。
寝ぼけ眼を半分ぐらい覚醒させたら朝食を取る。
「今日はパンな気分だから、クロワッサン。スクランブルエッグとレタスのサラダも。サラダにはカニカマを入れてください。ドレッシングはゴマで、牛乳とオレンジジュースも欲しいです。ストローは無しで、コップはガラスで。別皿にトマトを一個丸のまま、お願いします」
宝箱が神アイテム過ぎて自称神様に感謝したくなるぐらい便利。もう宝箱様でいいかな?
ペッ、と吐き出されて配置されていく朝食をぼんやりと眺める。有能かな? それとも僕が無能なのかな?
湯気を立てるスクランブルエッグには、スプーンやフォークなどのカトラリーだけでなく、使いやすい箸までもセット。至れり尽くせりが過ぎる。
クロワッサンを千切って口に放り込みながら牛乳で流し込む。美味しい。食べたことない味。
どうやら見聞きした物だけを吐き出せるというわけでもないらしい。変な剣とかね。
しかも宝箱は音声入力を超えた意識入力とでも言うべき仕様で、砂浜エリアにいながら洞窟内に沸かしたお風呂を吐き出させることも可能という優れもの。
砂浜エリアで入りたかったんだけど、それはそれ。
有効範囲は宝箱周辺に限定されるようだ。
持ち歩けば問題にはならない。
流石にデリバリーまでは無理ってだけ。
相変わらず消えてしまう条件の方は分かっていないけど、そっちも追々判明すると思う。
長い付き合いになるんだし。ならなかったら多分、早々に死んじゃうってだけだ。その時は諦めよう。
最後にトマトを齧って朝食を終える。これも瑞々しくて美味しい。絶対にスーパーのやつじゃない。
宝箱から吐き出されるものは何処から来ているんだろう? あの女神様に聞いとけば良かった。いや聞かなくて良かった? 出処問題で躊躇が生まれたたり?
まあいいや。
朝食を終えると島の見回りというか散歩をする。
お昼ご飯を美味しく食べるために。
強制されてないのに進んで運動するのは自分でも意外だった。緑が近いことも関係あるのかもしれない。
まずは岩場エリアを散策。
砂浜エリアと岩場エリアの散策は、割とつまらない。
何処までいっても水平線しか見えないから。無人島じゃなく無人星の可能性もある。とうとう星の支配者になってしまったか。感慨深いな。
端から端まで見回るわけではなく、崖エリアは放置して森エリアを横断する。
見掛けるのはデカい雀ばかり。数が増えたのは外敵がいないからだろう。そのうち駆逐してやる。
途中にある川エリアでポケットに入れていた餌を撒く。
もう魚釣りも餌撒きも同じことだという結論に達したので以下省略してる。
水面から必死に顔を出す魚も数が増えた。そのうち投網してやる。
そんな微妙に島の支配者を舐めきっている動物共を横切って砂浜に出る。
ここは本当に気持ちいい。ここだけで無人島にして良かったなって思う。
プライベートビーチだもんな。
砂浜エリアに掛かる海は遠浅で、そこそこの距離まで歩いていける。
砂もきめ細かくサラサラしてて気持ちいいし、結構な当たり。
しかし何故か魚が全くいない。
もしかした危険な魚が居て、女神様が排除しちゃったのでは? 今ではそう考えている。
小魚も迷い込んでこないので、よっぽどだと思う。
貝や珊瑚なんかも無い。
綺麗だけど圧倒的に死んだ海。
それが砂浜エリア。
生態系ほんとに大丈夫かな?
膝下まで海に浸かりながら穏やかな波を感じる。一人だからできる。もう一人いたら恥ずかしくて死ぬ。
僕の知ってる波のように強くも高くもない波なのは、南国だからなのか異世界だからなのかは分からない。
ここに来て結構経つけど、嵐になったことはない。だからなのかずっと穏やかな波と海だ。雨すら降らない。少しばかり島が沈む可能性すら考えていたのに。
割としっかりと条件を守ってるみたいだ、あのおっちょこちょいさんは。
「そろそろいいかな?」
お腹の減り具合で帰路に着く。砂浜に残る足跡が僕の島だと主張している。ちなみに靴のままだからグチョグチョ言ってる。
昼から夜までが自由時間。
一度も作ったことないプラモデルに挑戦してみようか考え中だ。
でも消えちゃう予感しかしない。
まあ、その時はその時ということで、やってみようかな?
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