第41話 弟妹 ~健~
そんな……
ウソだろ?
真実はウチにいる、あの女だけが知っている。だけど、もう半ば真実が読めてしまった。
そして、天音がそれをとっくに知っていたことも気付いた。
じゃあ、なんで、黙ってヤらせたんだよ! 兄妹でヤッていいのかよ!
天音のせいだ。黙っていないで教えればよかっただろ? 妹だって知ってればオレだって無理やりヤるようなマネはしなかった。
いつから知っていたんだよ!
今日の献血で顔色を変えて止めていたのも、それがあったからだろう。
間違いなく天音は知っていた。
だからこそ、オレの父親は確定したというわけだ。
オレは半分だけとは言え血のつながった妹とヤッてしまったんだ。二回? いや、入れなきゃ良いってモンでもないか。近親相姦? なんてこった。
考えてみれば、エッチ系に対して慣れて来るはずなのに、逆にどんどん態度が硬くなったもんな。
去年までは「ハーフ&ハーフ」で因縁をつけて、例の動画や撮りためた写真を公開するぞっ、大竹のこと、わかってるな? と脅せば、なんとか「処理」するのは飲んだ。
セックスまでするには、さらに無理矢理が必要だったけど、それ以外なら、とにかくなんとかなってたんだ。
ところが2月頃からだ。それでもダメになった。しかたがないので、どうしても「処理」させたくなったら腹を殴って脅さなきゃならなかった。オレだって女を殴るのは嫌だよ? それに、あの拒否っぷりだとシラけるじゃん。
だから、決めたこと。
「ヤツと学校で5分喋っていたら口で、10分喋ってたらセックスだ」
「ヤツと一言でも喋ったら一回キス」
というハーフ&ハーフも作るハメになった。それでさらに天音のガードが堅くなったんだよな。
インターハイ直前の時も部室までヤツと歩いてたのを見た。これはチャンスだって見ていたら途中で走って抜けてきやがった。
惜しいことをしたと思ったけど、つまり、そういうことだったのか。
やっべー
恐らく天音は父親から聞かされてたんだ。もっと早く言えよ。
だってわかるわけないじゃん。そもそも、あの女と天音の父親とが不倫してただなんて、そんなこと想像出来るか?
どっちかというとあの女は地味だし、大人しいタイプだ。マジメで夫一筋。高校の卒業アルバムを見たことがあるけど、男と遊ぶことなんて考えられないようなタイプにしか見えない。
それが隣の家のオッサンと寝てただと?
しかも孕まされた結果がオレ。
いったいなぜなんだ?
オレは体中を疑問符にしながら学校を飛び出した。天音は顔色を白くして追いかけてきたけど途中から付いてこなくなった。恐らく掛ける言葉がなかったのか、それともオレに責められるのがわかっていたからだろう。
まあ、今さら天音を責めるとか、そんなのどうでもいい。
オレは家の前でA型の親父が帰ってくるのを待ち構えた。あの女がいる家に一人で入りたくなかったからだ。
親父が帰って来るなり一緒にリビングに入って、あのオンナの顔を見ながらぶちまけたんだ。
「オレは父さんの子どもじゃないってよ!」
「健、いったい何だ、帰る早々、わけの分からないことを」
「今日献血車が来た。オレの血液型はBだった。天音の父親と同じBだったんだぜ!」
その瞬間、オヤジの顔が真っ白になったのは恐らく思い当たることがあったからだろう。普通だったら、話を確認しようとするだろ? あるいは何が何でも否定するはず。
オレ自身が、一番、否定してほしかった。オヤジに「実はオレはB型だぞ」と笑いながら言って欲しかったんだと思う。
だけど、親父の顔にあったのは驚愕でも疑問でもなく「やっぱり」という怒りだった。ひょっとしたら、オレが生まれる前に、オヤジとあの女との間に何かがあったのかもしれない。
あの女は、オレの言葉を聞くと何も言わずに泣き崩れた。
家中の時が止まった。
あの大人しい父親が、その日は暴れた。暴力なんて言葉をこれっぽちも持っているはずがないと思った男が、長年妻だった女をグーで殴りつけていた。
「出てけ!」
そんな言葉が聞こえたと思う。
オレは「いい気味だ」としか思えなかった。生物学的な親であるあの女よりも、同じ男としてオヤジに完全に味方していた。
その後、あの女がどうしたのかはわからない。
けれども部屋で荒れ狂ったオレが、翌日、気が付いたらベッドで寝ていたこと。そして、長い長い時間が経った後、オヤジが来たこと。
「お前はオレの息子だからな」
そう言って抱きしめてくれたことだけがハッキリとしている。
抱き締められながら、聞くに聞けないことがあった。
「それなら渉は誰の子なんだよ」
恐ろしい疑問だ。
家族でオレだけが高身長。しかし、オレの背が伸びたのは中学からだ。
オレと渉は似てなかった。だけど似てない兄弟なんて珍しくもない。
子どもの頃から、オレと天音は足が速かった。そして渉の足が遅いのは目を覆わんばかりだった。
自転車で坂道を猛スピードで下ることに夢中になったのは、足の速いお兄ちゃんにコンプレックスがあったからだろう。そんなことを渉の担任が漏らしたことがある。
オレと渉。オレと天音。そして渉と天音……
「弟」の渉の仇を討つために天音をコマとして使った。
この1年で「妹」の心は確実に壊れた。心が痛まないといったらウソになる。
心を鬼にしたのは「弟」の復讐のため。ヤツの彼女である天音を壊すのは仕方がなかったんだ。
でも、弟の復讐のために妹の心を壊したことになる。
オレは妹とヤッてしまった。天音はオレと兄妹だって知っていたんだよな?
兄に犯されながら、天音はいったい何を考えたんだろう?
オレはいったい何をしてしまったんだ。
オレの復讐は、いったい何だったんだ。
オヤジは天音の母親に何も言わなかったらしい。いかにもオレの親父らしいって感じだ。
だって天音の母親に責任なんてないことはわかりきっているから、オヤジは責める口調になることを恐れたんだと思う。
あとは親父の中の問題だ。
だけど、オレは違う。
弟のために妹を壊した。知ってるとか知らないとか言う問題じゃない。
天音という妹を壊したのはオレだ。
オレはどうしたら良いんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます