第10話 復讐 ~健~
時計は午前零時を回った。
二階堂
「やっとここまで来たよ。もうちょっとだからね」
写真に向かって声を出した。
「長かったよ、実際」
ヤツのせいで、
自転車で坂道を下ってただけだぜ? 小学生男子なら、誰でもやることだ。
それをヤツがふざけて飛び出しやがったせいだ! 言うに事欠いて「トラックにぶつかりそうだったから止めようとした」だと?
ふざけるな。現実にぶつかったアイツは生きてるじゃないか!
ヤツさえ余計なことをしなければ弟は生きてた!。
ヤツが飛び出しさえしなければ生きていたんだ!
ヤツのせいで頭を打ったんだ!
ヤツがいなければ、渉は生きてた!
葬儀の間も、終わってからも、健は叫び続けた。
「弟を殺した相手を訴えてよ!」
なんとかして両親を説得しようとした。しかし、ウチの両親は気が小ちゃい。
「あちらは善意で止めようとしてくださったんだよ。しかもご自身が重症を負われたんだ。それを責めてはいけないよ」
そんなバカげた理由で首を縦に振らなかった。
そんなの嘘に決まってるじゃん。ヤツは面白がって止めたんだよ。ふざけて弟を殺したんだ。
けれども、両親は真実から目を背けてる。昔から、家族はみんな気が弱い。頼まれたら断れないようなお人好しばかりだ。背だって両親共に低い。
自分だけが先祖返りしたように高身長で、気が強かった。
穏やかさだけが取り柄のような両親は健に「仕方ないんだよ」となだめに回った。
だから誓った。
兄として弟の仇を討ってやる。あの日、眠ったように、けれども永久に「お兄ちゃん」と言えなくなった渉に誓ったんだ。
「兄ちゃんは、絶対に、お前を殺した相手を許さないからな。そのためなら何だってやってやる」
弟の寝顔に誓ったのだ。
「自分の人生なんてどうでも良い。ヤツが絶望して、生きる望みをなくさせてやるのがオレの生きる目的だ。どんな卑怯な手段でも良い。法律? そんなのどうでもいい。ヤツがのうのうと生きているのが許せないんだからな」
復讐こそが自分の生きる理由だと信じたのだ。
「必ず、ヤツを
それだけが人生の目標になった。
とはいえ、最初は何をどうしたら達成できるのか、それがわからなかった。
そもそも、親はオレに相手の名前すら教えようとしなかったのだ。
幸い、相手が親と一緒に線香を上げにきた。
家に上げるのは死ぬほど嫌だったが、両親と話すのを横で聞いていたおかげで名前も中学もバッチリつかめた。
「なあ? アレは結果的にラッキーってことだったんだよな? きっと、天国からお前が教えてくれようとしたんだよな? 復讐してくれって。兄ちゃんは、ちゃんと答えるからな」
健は、そこに弟が居るかのように机の写真に語りかけている。鬼気迫る光景だ。
もしも、この光景を親が見ていれば、いや、誰かが見ていれば、健の正気を疑っていたはずだ。けれども、健が語りかけるのは、深夜、誰も見てない自分の部屋の中だけだったのだ。
「なあ、渉。兄ちゃんが中学時代に使った作戦は上手くいっただろ?」
ヤツを
大竹瞬は人殺しだ。
ヤツはふざけて事故を引き起こした。
罪のない小学生を、おふざけが過ぎて殺したひどいヤツだ。
人の命なんて何とも思ってないヤツだと。
あらゆる手段を使ってウワサを流し続けた。
ネットのウワサはデカい。中学には来られなくなったらしい。しかし、そんなんじゃ甘い。中学を卒業したらお終い?
ふん、渉は中学も、高校も行けなくなったんだぜ?
ヤツの未来を殺すんだ。さもないと、公平じゃないだろ。
「中学は潰した。次は何だ? ヤツはどうする?」
未来を掴もうとしたら次に何をしようとするか、オレはじっくりと考えたんだ。
そこで思いついたのが「高校」って存在だ。
ヤツが進学する高校をオレは苦労して掴んだ。都立の上位校だった。成績は良かったらしい。
なんてクソナマイキなヤツ。そんだけ頭の良いヤツが渉を殺したんだ。渉を殺しておいて、学校に来ないと思ったら、自分はセコセコ勉強してやがったのかよ。
絶対許さねぇ。
ハッキリ言って陸上以外に何もしてこなかったオレにとっては無謀な偏差値だった。だけど、なんとしてもヤツの高校生活を潰す。そのためには同じ高校に行かなくちゃ。
必死に勉強した。
その時、オレのすぐそばに天音がいたんだ。
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9話あたりから、いっきに話がほぐれておりますが、あと一話、たけるのモノローグです。
健の闇、天音の闇。お気付きいただけましたか?
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