第五話 困難は分かち合うもの。焦ってはいけません(In the face of difficulties, everyone should share wisdom.)

 その部屋に6人が入ったのは、ほぼ同時だっただろう。互いが互いを観察している。そんな雰囲気があった。

 そりゃそうだろう、こんな得体の知れない場所に来て、いきなり邂逅したんだから。それに、ほかの人たちもここがデスゲームの会場だと知らされているんだろうか。あの奇怪な女に追われた者もいるかもしれない。


 しかし、俺は仮にも海兵隊の将軍だ。そんな俺が尻尾を巻いて逃げてきたなんて知られるわけにはいかない。

 俺は息が上がっているのを気づかれないよう、静かに息をする。そして、5人の様子を観察した。


「俺は伝吉ってんだ。見ての通り、耄碌したジジイよ。

 ここの異様さにはもうみんな気づいているか? 殺し合いをするとか何とか、言っていたよな。どういうことだ? わかるやつ、いるか?」


 最初に話し始めたのは老人だ。歩くのにも苦労しているようで、いかにもヨボヨボである。それでも年長者として発言したのだろう。

 この老人は女の死体を見つけており、足元が血にまみれている。老人の話からは殺人鬼がこの中にいるかもしれないと推察できた。そうなると、我々は殺人犯を見つけ出さないといけない。


「誰かが殺されたって……。じゃあ、これって本当にデスゲームなんですか?」


 その後に声を発したのは若い女性。彼女はデスゲームという言葉を知っており、怯えているようだ。


「ふん、バカバカしい。そんなもの法治国家である日本で許されるわけないでしょ。本当にやってたら、すぐしょっぴかれて終わりですよ」


 次は茶髪の若い男で、一見すると意気盛んなようだが、やはりどこか怯えが見えた。


「おじいちゃん、血が付いてるよ。そのままで来たの?」


 老人が血にまみれているのを指摘したのは、けばけばしい女性だ。この女はどうも状況に怯えていないらしい。


 俺も発言しよう。何も恐れてはいないし、逃げてもいない。海兵隊の将校らしいところを見せてやらなくては。


「What is Japan person? What is a death game? It does not exist in my homeland, in Italy, nor in the United States.

(日本人は何なんだ!? デスゲームとはバカバカしいことだ。我が祖国、イタリアにも、もちろんアメリカにも、そんな愚かな風習はありはしない)」


 この後に発言したのは、背の高い男性だ。妙に説得力のある声質をしており、落ち着いた印象だった。


「我々が考えるべきことは、この状況をいかに解決に導くかだ。我々はこれから運命共同体となるだろう。そのために、まずは自己紹介といかないか」


 やがて、自己紹介が始まる。

 老人は尾野寺伝吉おのでらでんきちという元ヤクザらしい。なんでも、かつてデスゲームに参加しており、ここからの脱出手段も知っているとか。

 しかし、殺人現場の唯一の目撃者にも関わらず、その証言は薄い。もしや俺が追われたあとに、女が殺されたのかもと思うが、伝吉の話は要領を得なかった。

 イライラして、つい伝吉に突っかかる。


「Denkichi,your story is funny. It's all old stories. Don't you remember what you saw and heard just now?

(伝吉、あなたの話は変だ。昔話ばかり多くて、先ほどの話をほとんどしないじゃないか)」


 次に話したのは、降屋麗子ふれやれいこという女性で、イラストレーターらしい。彼女も結局は自分語りに終始していた。

 その後は舞手井透瓏まいていとおるという弁護士だが、これは本当に聞くに堪えなかった。犯罪者を集めた島で大立ち回りし、帰ってくると戦争に巻き込まれて死んでしまったらしい。あまりにも荒唐無稽だ。

 だというのに、その後に話した露木新つゆきあらたという女性は、あろうことか、その話を肯定し始めた。なんでも、すでにほとんどの人が核戦争で死に絶えており、死後の世界にいるのだとか。


 あまりに、どうしようもない方向に話が進んでいく。殺人犯を見つけ出すという目的はどこに行ったんだ。

 しかし、俺が逃げ惑っていることを知っている者はいないらしい。安堵する。これで、俺の海兵隊としての、イタリア貴族としてのプライドは保たれた。

 意気揚々と発言する。


「Miss Tsuyuki, you don't have to talk anymore. No more useless talk. Listen to me first.

(露木さん、あなたの話はもう結構だ。まずは私の話に耳を傾けなさい)」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る