【醜男と魔女と御使い】 2月21日より。

【醜男と魔女と御使い】


 昔々、ケリドウェンと言う魔女が居ました。

 魔法の大釜で魔力と知恵、知識を得られる薬を作る事が出来た魔女には、美しい娘と醜い息子が居ました。


 息子の顔はどんな魔法でも変える事は出来ません、自分にとっては可愛い子供であるアヴァグドゥを可哀想に思った魔女は。

 せめて知恵を授けようと、大釜で秘薬を作る為に材料を集めました。


 息子アヴァグドゥの為を思い、早速作り始めます。

 薬が完成するまでには、1年と1日掛かります。


 魔女は急いで薬を調合し終えると、煮立たせ始めました。

 アヴァグドゥが来年から独り立ちしなくてはいけないので、急いで作っているのです。

 しかも、煮詰め始めた釜の中は絶えず混ぜ続けないと完成しません。


 ですが、その秘薬の噂を聞きつけた黒い翼の御使いが魔女を探しに城へ来てしまいました。


 この大事な薬を他人に渡したり、邪魔をさせるワケにはいきません。

 なのでグウィオンとモルダに釜を任せ、薬を持ってるかの様に装い御使いから逃げ回る事にしました。


 盲目のモルダが火の管理をし、グウィオンが釜を混ぜます。


 そうして1年経った日。

 絶え間なく釜を混ぜていたグウィオンですが、魔女の美しい娘が様子を見に来たので手元が狂い、指に3滴の熱い薬が飛び跳ねて思わず舐めてしまいます。


 その瞬間に未完成の釜の中身は全て毒となり、怪しい煙が立ち込めます。


 薬のお陰なのか、全てを悟ったグウィオンは逃げ出しました。


 そして丁度、薬の確認に帰って来た魔女ケリドウェンの目の前で城が爆発し、釜が割れた音が聞こえました。


 爆発に驚いたグウィオンは、新しく得た魔法の力で野兎に変身し逃げますが、ケリドウェンは猟犬へと変身しグウィオンの後を追います。


 猟犬ケリドウェンの速さに今にも追い付かれそうになるグウィオン、鹿に変身してなお追い付かれそうになったので、魚に変身し川へと飛び込みます。

 ケリドウェンはカワウソへと変身し、魚になったグウィオンを追います。


 またもや捕まりそうになったグウィオンは鳥へ変身しました、ケリドウェンは鷹となり追い詰めます。


 そしていよいよ追い付かれそうになったグウィオンは小麦畑を見付けると、1粒の小麦へと変身しました。


 ですがケリドウェンは黒い雌鶏へと姿を変え、グウィオンである麦を食べてしまいました。


 そうして復讐を果たし城へ戻り全てを元通りにした所に、今度はあの悪い御使いが再び城へとやって来ます。


 娘は殺され、ケリドウェンは逃げ遅れ、お腹の子供が御使いの手に残されました。


 御使いは美しい赤子を殺すのは忍びないと思い、皮袋に包み海へと流します。


 そして皮袋に包まれたグウィオンの生まれ変わりである赤子は、川で鮭を釣ろうとしていたエルフィンに釣り上げられました。


「輝く額だ!」


 美しい赤子を目にしたエルフィンが叫び、そのままタリエシンと名付けた。


 すると赤子は話し始めます。


 美しい人エルフィン、300匹の鮭より役立ちます。

 気高く優しいエルフィン、か弱く小さい私をどうか…


 なぜ赤子が喋れるのかとエルフィンが聞くと、赤子のタリエシンは答えました。


 小舟の様に暗い袋に包まれ、果てなき海を彷徨っていました。

 今にも死んでしまうと思った時、お告げを受けました、天の主が自由をくれたと。


 エルフィンもコレは天啓だと思い、タリエシンを大切に育てました。



 その頃、ケリドウェンによって隠された唯一の生き残り、息子アヴァグドゥは弟を探しに、海から川へと船を走らせていました。

 そして鮭と共に川を登り、タリエシンの噂を耳にします。


 そうしてやっと、弟の居るエルフィンの家へと辿り着くと、事情を話し始めました。


「皮袋に包まれた赤子を知らないか?僕の家族、母さんの忘れ形見なんだ」


 醜い姿のアヴァグドゥとタリエシンが兄弟に思えなかったエルフィンですが、ポロポロと泣くアヴァグドゥに同情し、タリエシンに会わせる事にしました。


 3才になっていたタリエシンは、アヴァグドゥの姉よりも誰よりも美しい子供に成長していました。


 そしてタリエシンはアヴァグドゥの事を一目見て全てを理解すると、兄弟では無いと拒絶しました。


 絶望するアヴァグドゥ、母ケリドウェン同様にタリエシンを食べてしまいました。

 するとどうでしょう、身体が縮み、美しい3才のタリエシンへと変身したのです。


 そうしてアヴァグドゥはタリエシンとなり、詩人として王宮で暮らしましたとさ。


 おしまい。


※既存の改変です。

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