第3話

 リリエルはよく泣いた。

 要領が悪い、要するに鈍臭いから余計に泣く機会は多かった。転んでは泣き、いじめられては泣き、母に怒られては泣いた。

 その母が死んだ時は特に酷かった。一日中涙を流して嗚咽するものだから、リリエルのそばから離れることができなかった。おかげでルルニアは母の死を悲しむ間も、自分達の先行きに不安を覚える間もなかった。

 至聖神殿の下働きになってからも、賎民はいじめの対象だ。厳しい修行の日々、憂さを晴らすのにすぐ泣くリリエルは絶好の玩具だ。ルルニアは妹を守るためにも強くあらねばならなかった。

 女神ミアに選ばれてリリエルが聖女になってからは、人前で泣くことはなくなったが、心無い言葉や侮蔑の態度を取られる度に彼女は傷ついた。自室に閉じ籠っては、声を殺して泣いていた。

 その度にルルニアはリリエルを慰め、励ました。妹の涙を拭うのはルルニアの役目だった。

 しかし、もう双子の片割れはいない。いくら妹が泣いてもその涙を拭うことはできない。邪教徒によって攫われ、黄泉の女神マレに捧げる生贄になったから。

 これは一体どういうことなのか。

 女神ミアの祭壇が何者かに破壊された——どうして?

 秘密裏に行う祭壇再建の儀式の日を、邪教徒達は知っていた——どうして?

 襲撃に遭ったにも関わらず、至聖神殿から誰も助けに来ない——どうして?

 問い掛けに答えるものはなく、救いの手は差し伸べられない。裏切られ、見捨てられたのだと思い知るには十分だった。信じ仕えていた女神ミアでさえも素知らぬ顔で、まるで何もなかったかのようにあまねく世を祝福する。

 だから、これは復讐だった。

 裏切った者どもへ、陥れた者どもへ、笑いながら踏み躙った者どもへ、そして全てを知りつつ何もしない全知無能の神へ。

 ルルニア一人のものではない。ルルニアとリリエル——神に見放された二人の復讐だった。

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