第175話 大喧嘩!
「よしきた!」
「……はい?」
首を傾げるヘキオン。
「……え?」
鳩が豆鉄砲を食らったように唖然としている。
「なんか……あれ?なんで?」
「どした?」
「いやだって……えぇ……こ、これでいいんですか?これで?」
「いいだろ」
「そっかいいのか……そうだよ。いいんだよ。なんかもっといざこざがあるかと思ったんだけど……これでいいんだよね」
「あーでもいざこざはもうすぐ起きると思うぞ」
「……どういうこと?」
「とりあえず王都との話は一旦置いとくとしてや……」
ダンの後方が闘気で歪む。まるで幻惑。夢が崩壊しているような。とにかく異質な感じだ。
「久しぶりに会うたことやし、ぼちぼち地下資源の利権をどっちが取るかを決めようやないか」
「そやなぁ……うちも最近は体を動かしてへんかったさかいちょうどええわ」
「いつも引きこもっとるんやから変わらんやろ。自分のその皮下脂肪が目に見えて分かんねん」
「……表に出ろぶっ殺したる」
一触即発。いやまぁ既に爆発はしたのだが。さっきまでの雰囲気はどこえやら。周りの者が恐怖するほどの威圧を放ち始めた。
「え、え?なんか一瞬で険悪なムードになったんですけど!?」
「いつ見ても怖いなぁ……まぁいつものことやさかい気にしな。多分そろそろ喧嘩する思うし、外に出とくか」
ヘキオン以外は当たり前のように外に出る。これがいつもの光景なのだろう。
「い、いいんですか?止めなくても」
「逆に聞くけど、止められる思うか?」
「無理です」
「ならちゃっちゃと外に出よう」
外。バグリジェ郊外。普通に魔物が歩いているような場所。そんな所で2人とその他数人が立っていた。
――片方は妖精の女王。
――もう片方はドワーフの王。
2人の王が揃ったのなら、やることはただ一つ。この場でそれが分からないのはヘキオンのみであった。
「さーて。今日こそ叩き潰したる」
「そんなんを言うて何年経った?俺は二桁の年数に到達してからは数えてへんで」
「うちも覚えてへん」
指をポキポキならすヘレナ。対するダンは持っていたハンマーをビュンビュンと振り回している。
おおよそ普通の人間では持ち上げることすら不可能な重さのハンマー。それを鞭のように素早く動かしている。
「そろそろこの長い戦いも終わらせへんとね……さっきの皮下脂肪の発言は撤回さしたるさかい」
「前半は同感や。後半は事実やさかいなんも撤回はせえへんで」
ヘキオンの目の前。何も無い空間に水色の半透明な壁が生成された。
「
「……へ?」
急に発生した壁に驚く。壁はドーム状。ヘキオンやバクストン、その他の兵士数名を全員囲むようにして作られていた。
2人の戦いを見るのに支障はなさそう。だがこの壁が作られた理由を察する頭脳はヘキオンにはあった。
「……あのこれって」
「なんもしなけりゃ風圧で俺らは死ぬさかいな」
「風圧で!?なんか巻き込まれて……とかじゃなく!?」
「……そういうたらヘレナ様やらのレベルは知ってるんか?」
「え、し、知らないですけど……」
「ならちょいと教えたるわ」
準備運動も終わり。ヘレナとダンが構えをとった。
ヘレナは両手を真横に。背中から7色の球体が飛び出てきた。赤、青、緑、黄、茶、白、黒。色の違いが属性の違いと見ていいだろう。
ダンは単純。ハンマーを後ろに。力を溜めている。狙いは脳天一択。小細工はない。ただただ純粋なパワーをぶつけるようだ。
「――ヘレナ様のレベルは195。ダン様の方は189だ」
「え、高……いのかな?」
高い。今まで出会ってきた人の中でも上位のレベルではある。だが近くにカエデが居るせいで、そこまでの差を感じることができずにいた。
「全盛期を過ぎ去ってレベル下がってるとはいえ、ほんでもわしらとは次元のちゃう強さなのには変わりあらへん。ヘキオンもヘレナ様の戦い方やらを見て学んだらええのに」
「カエデさんみたいなこと言いますねぇ」
ここで1つ説明をしよう。
この世界の生物には常にレベル逆行効果というものが発生してある。これはその名の通り、レベルが下がり続ける効果である。
ゲームで言うと経験値が常に減っている状態。何もしなければレベルは下がっていくのである。
レベル逆行効果の効力は年齢によって変わっていく。人間でいうと、基本的に20代後半くらいがレベルが最も上がりやすい時期だ。
その後は緩やかにレベル逆行効果の効力が高くなっていく。それでも修行や戦いを続ければレベルは上がっていく。が、それも限界はある。
60代。ここからはどれだけ修行しても、死闘を重ねたとしても、レベルが上がることはなくなってしまう。
つまるところ現実の世界とはそこまで変わらないのだ。
「もうすぐ始まるぞ」
「なんか怖いなぁ……」
気分はジェットコースターが上がっている時のような。心臓がドキドキ。体の細胞が萎縮するような感覚。ヘキオンはワクワクしていた。
続く
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