第28話 終ノ空!
――少し前。
下着姿のヘキオンとクエッテが焚き火を囲んで座っている。
「見た目通り美味しいね。脂が凄く乗ってる」
木の棒に刺されたユッコを頬張るヘキオン。噛むとスクッという音とともに脂の乗った白い身がヘキオンの口の中へと入っていく。
中で脂は溶けて浸透する。噛めば噛むほど脂が出てきて旨みが口の中へと広がっていく。飲み込むと喉の奥まで旨みを感じることができた。
小骨が少し気になるが、それはだいたいの魚に言えることだろう。口に残った骨をプッと吹き捨てる。
「今の時期が1番美味しい。ちょうど産卵期だから卵も食べられるぞ」
ヘキオンの前に出されたのは葉っぱに乗せられた黄色い粒。まるでイクラのような見た目と形。太陽に照らされてキラキラと輝く様はまるで宝石のようだ。
ゴクリの唾を飲み込むヘキオン。見るからに美味しそうなその卵に手を伸ばした。
ひとつつまんで口に放り込む。プチッという音とともに中に入ってきた甘酸っぱい汁が口の中で唾液と混ざりあった。
白飯が欲しくなるほどの濃い味。しかしそれでいてどこか優しい美味しさ。ステーキでもないのにジュワーっと言う音が聞こえたかと錯覚するほどの旨みがヘキオンの口の中を襲った。
飲み込むと喉の奥まで染み込む美味さ。美味しさ。あまりの美味しさに顔がトロンと溶けている。
「……美味しぃ……」
「喜んでくれたら嬉しい。私は村で食べれるし、魚を取ってきたのはヘキオンだからいっぱい食べていいよ」
「ほんとに!?」
眼をキラキラさせる。まるで子犬のように目の前の魚にがっついた。
「んん?どうしたの?」
「――え?」
もぐもぐと食べるヘキオン。クエッテは娘を見る母親のようにヘキオンをじっと見つめていた。
「なんでもない。……なんかヘキオン見てたら安心する」
「そう?なんか恥ずかしいね」
ヘキオンが顔を赤らめる。
「……本当にウッドエルフとダークエルフが一緒に暮らせたらいいのに」
「カエデさんならできるよ。カエデさんちょっと荒いけどいい人だし。それに凄く強い!」
「――なんかヘキオンのこと心配になる。人を簡単に信じすぎだよ」
「そうかなぁ」
食べ終わった木の棒を横に置き、ゴロンと寝転ぶヘキオン。魚は全て平らげたようだった。
「――あれ?」
疑問の声を漏らす。
「どうしたの?」
「空……見てみてよ」
クエッテが空を見上げた。
先程まで綺麗な水色をしていた空には、黒い雲がびっしりと詰まっていた。雨が降る様子はないが不安感を煽るような色だ。
ついさっきまでは明るかった。いつの間にかだ。いつの間にか空が雲に覆われていた。
「……いつの間に」
「なんか不安だね」
2人がのらりくらりと立ち上がる。考えてる事は一緒なようだ。
「――村に行こう」
「うん」
クエッテは力強く頷いた。
タイツ以外を着たヘキオン。綺麗な生脚がさらけ出されているが、特に気にしてはいない。カエデが見たら死にそうだ。
「な、なんか……タイツないと恥ずかしい」
「我慢して。それともグチュグチュのタイツ履く?」
「……我慢するぅ」
ダークエルフの村。特に異変はなかった。最初に来た時と変わらずそこに佇んでいる。
「――特に何も無いね」
ホッとした様子で胸を撫で下ろす。
「――おや、お嬢ちゃんたち」
横から老婆の声が聞こえてきた。同タイミングで横を見る2人。
ボロっちい木の机に椅子。真ん中には水晶が置かれてある。まぁどこにでもいるような占い師みたいなやつだ。
そんな今にも死にそうな老婆が2人に話しかけてくる。
「2人とも未来を見てやろ。もちろんタダじゃよ」
「え?……どうしよクエッテ」
「まぁ……見てもらってもいいんじゃない?暇だし」
ボソボソと話す2人。見てわかるくらいには怪しいが、興味深いのもまた事実。
「じゃあ見て貰えますか?」
「ほう人間か。いいぞいいぞ。水晶に触れてみろ」
ちょっと震えながら水晶に触れた。同時に水晶が青白い光を放つ。
「――ほうほうほうほう。ほーーーう」
「なんか腹立つ言い方」
ジト目で占い師を見つめる。
「なるほど。見えました」
「……どうなんですか?」
疑りながらも聞いてみるヘキオン。
「――お嬢ちゃんは幸せになるね。波乱万丈な人生にはなる。それに大きいことを成し遂げはするけど、お嬢ちゃんは報酬や対価を得ることは無い。でも幸せになるね」
「まぁ幸せになるからいいか……」
ヘキオンが言いかけた途端、占い師の老婆の顔が鋭くなった。怖いものを見るような、悲しい結末の映画を見たような顔だ。
「ただ気おつけなさい。あなたにツレがいるでしょ?」
「はい」
「その人は悲惨な末路が待っている。……いや幸せとも言うべきかな」
「――え?カエデさんが?……ど、どんな死に方を……」
「それは――」
続く
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