柳金剛流①
「それじゃあこの用紙に必要事項を書いていただきやす。あ、わかんないとこは適当でかまいやせんよ。どうせ自己申告なんで」
闘技場の受付から戻ったタルバは一枚の紙を歩に差し出した。そこには名前や身長、体重などの簡単な記入欄が並んでいる。
「へぇ。コイツが闘士の登録用紙ね。しかし、随分適当なんだな」
「まあ、闘士に登録する輩のほとんどは異世界人でやすから。身分証明なんてできやせんよ」
「ま、それもそうか」
納得した様に頷くと、歩はわかる範囲で自らのプロフィールを書き込んでいく。その様子を眺めていたタルバが驚いた様な声をあげる。
「おや?旦那。まだ18歳だったんでやすか?」
「なんだよ?そんなに老けて見えんのか?」
「いやいや、そういうわけでは……。随分と堂々としてらっしゃるので」
「物は言いようだな。……って、ん?」
歩はペンを動かす手を止め、不思議そうに首を傾げた。
「そういやオッサン。俺の文字、わかんの?」
その言葉を聞いたタルバは一瞬だけ戸惑うと、すぐに合点がいったというような表情を浮かべる。
「ああ!旦那は知らないんでやしたね。こっちに来た人達はみんな、その
「ほーん。なんというかまあ、都合のいいことで」
「ハハハ。まあ、そう言わんでください。アッシに言わせりゃあ
ケラケラと笑うタルバを尻目に、歩は登録用紙の残りをさっさと埋めてしまった。そして、そのまま受付へと向かう。
「あの、これ。登録したいんスけど……」
受付の女性は登録用紙を受け取ると、それに軽く目を通す。そして、再び顔をあげるとにこりと微笑んだ。
「はい!承りました!テンドウ・アユム様ですね!」
「あ、はい」
「では、登録テストの日時についてですが……」
「え?ちょ、ちょっといいすか!?」
「はい?何でしょうか?」
「テストとかあるんすか?」
「はい。こちらの用意した試験官と立ち会っていただきます。もちろんある程度戦えることを証明していただければ、勝敗は関係ありません」
「は、はぁ」
戸惑う歩の後ろからタルバが声を掛ける。
「いやぁ申し訳ない。テストのこと言い忘れてたでやす」
「そんな大事なこと忘れんでくれよ」
「まあ、闘技場も観戦者ありきの商売でやすからね。見るに堪えない戦いを減らす為にも多少は振るいにかける必要があるんでやすよ。その点旦那は問題無いでやしょ?」
「それもそうだな。じゃ、さっさと済ましてくる」
くるりと歩は受付に向き直る。そんな彼に再び受付の女性は笑顔を浮かべた。
「あの、大丈夫でしょうか?」
「ああ、悪いね」
「いえ、では登録テストの日ですが、ご希望はあるでしょうか?」
そんな彼女の言葉に被せるように、歩は身を乗りだした。
「出来るだけ早く!何なら今すぐに!」
「……で、今からテストって訳でやすか?」
「おうよ!」
ジャージ姿でストレッチをする歩は、呆れ顔のタルバの質問に元気よく返事をした。
「おうよって………。そんなに急がなくても良かったんじゃないでやすか?」
「面倒事は早い方がいいだろ。じゃ、行ってくるわ」
一通りのストレッチを終えると、歩は指定された場所へと歩きだした。
「いやぁ、すんませんね。お待たせして」
闘技場内の施設の一つ。訓練所の一角に到着した歩はペコリと頭を下げた。そこにはすでに、腕組みをした半裸の男と、審判と思われる小綺麗な格好の男が立っていた。
「お前が天道歩か?……ふん、若いな」
「誉め言葉……ってニュアンスじゃあ無さそうだな」
半裸の男は腕組みを解くとゆっくりとファイティングポーズをとる。
「俺の名は
「ああ~。いい、いいよ。言わなくて」
「あん?」
上地の言葉を遮ると歩もファイティングポーズをとった。
「フェアじゃねえのは嫌いなんだ。俺なりのスポーツマンシップってやつさ」
「そうかよ。……審判!合図を頼む!」
「わかりました。それでは……試合、開始!」
審判の合図と共に上地が飛び出す。
(フェアな戦いを好む気概は認めよう。だが、これはスポーツではない!)
上地はその勢いのまま歩に向かって大振りな突きを繰り出した。
(俺の技能は
上地の攻撃に対し、歩のとった行動。それは正拳突きで迎え撃つことだった。
(かかった!)
正面からぶつかる拳と拳。訓練所全体に耳障りな金属音が響いた。その音と感触に上地は勝利を確信する。事実、今まで彼の攻撃を正面から受けて、骨折を免れた人間は一人もいなかった。……この瞬間までは。
「硬ぇな。それがアンタの技能か?」
「なっ!なんだと!?」
破壊したと確信した歩の拳が健在だったことに、上地は動揺した。歩はその一瞬の隙をついて、鋼鉄の手首を掴んだ。
「柳金剛流の鍛え方。ナメんじゃねえぞ!」
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