第7話

 血走ったギョロ目が近づいてくる。血のように真っ赤な唇が彰人の首筋に寄る。


「や、やめろ・・・・・・。やめろッ」


 彼女の髪が首にまといつき彰人の顔の上をずるずると這いずっている。

 彰人の後頭部に優しく添えた手が万力のように彼の頭を引き寄せて、きのこ女は彼の喉元にキスをした。



 それは甘くかぐわしく。


「あっ・・・・・・あぁ、はぁ」


 首から皮が裂ける音がする。

 激痛と恐怖が彰人を絡め取っていった。麻痺した心が恐怖を越えた先に一瞬の快楽を感じた。


 彰人の呻き声は菌糸に覆われ白い繭に包まれて闇に溶けていった。






 数日後。

 彰人の住んでいたアパートに回転する赤色灯が野次馬を集めていた。


「腐乱死体だって?」

「変死体だってよ」

「部屋中きのこだらけだったって」

「なにそれ」


 白い布が被せられ担架で運ばれていく死体らしき物は、でこぼことして人らしい形をとどめてはいなかった。



 事情聴取を終えた男が離れたところから彰人だった物を見ていた。


「1日1回換気しろって喚起してやったのに」


 ぼそりと呟く中年男の耳に女の歓喜する声が聞こえていた。







■■■ 完 ■■■

■■■ 忌 ■■■



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