1月22日

 たっぷり眠りシャワーを浴びた後、タケちゃんとミーシャを残し少し早めのランチ。

 魔王や神獣も連れて、ビュッフェへと向かった。


《ご案内致します》


 窓際の大きなテーブル席に案内された。


「カールラとクーロンは私が面倒見てますから、先ずは2人で取りに行って下さい」

「ありがと魔王」


 真っ先に向かうは中華粥。

 片付ける直前の、残っていた海鮮中華粥を全てくれとお願いした。

 大きな丼に入れて貰い、程よく冷めていたので席に付いて直ぐ一気に飲み干す。

 続け様にショナが果物とスープを持って来てくれた。


 イチゴ美味しい。


「あー生き返るー」

「桜木さん、次は何が良いですか?」


「大丈夫、落ち着いた、自分で取ってくる」


 中華粥と同じく朝食用の残り少ない海老腸粉を全て取り終えると、厨房のお姉さんと目が合い話し掛けられた。

 恥ずかしい。


《ねぇねぇ》

「はいはい」


《お姉さん、エビ好き?》

「うん、好き、凄く好き」


《後でエビ入った粽、出来るよ、直ぐおいで》

「おーありがとー」


 腸粉を置いた後、急いで中華コーナーへ戻る。

 改めて見ると食堂広い、そして今日は中華コーナー遠い。


《コッチよ!》

「おー!良い匂い!」


《もう直ぐ雲吞も出るよ》

「お!いる!」


 粽と焼売達を持ってテーブルへ戻った、コレだけでも圧巻。

 タケちゃん早く起きるといいなぁ。


 そうして粽を1つ食べ、雲吞を取りに行き、ランチ用に追加された蒸し餃子達をチェック。

 途中で見つけたエンチラーダとバッファローステーキはショナに頼んだ。


 他にもココの名物であるシーフード。

 エビ、爪の大きいカニ、カキにザリガニとシーフードを1皿、チリソースやレモンにタルタル等のソースを1皿。

 海遠いのに新鮮そう、不思議。


 席に戻るとローストビーフにミートボール、マッシュポテトが乗った皿が増えていた。


「お?これは?」

「クーロンがはなちゃんに取って来たんです」


「ありがとう、クーロン」

『えへへ』


《わたしも持って来たー》

「パエリアとムニエルですよ」

「ありがとう」


 ザリガニやカニは剥き易くカットされスムーズに食べれた、エビは小さ過ぎずプリプリで美味しい。

 シーフードも程ほどに、出来立てのローストビーフを冷める前に頂く。


「赤身で美味しいねー」

《わたしもたべるー》

『ぼくザリガニたべたーい』


「はいじゃあ取ってきますから、ゆっくり食べるんですよ」

「ありがとう魔王」


「野菜を盛るなら今のうちですよ」

「そうですねショナ君、行ってきますね」


《シュラスコでーす!ビーフやチキンは如何?》


『《「ビーフ!」》』


 ローストビーフとはまた違った肉肉しい歯ごたえと旨み、焦げ目の芳ばしさが特に良い。

 箸休めのエビを程々に、ブイヤベースとクラムチャウダー、大好きな歯応えのあるパンを少し。

 ピザにニョッキにパスタを持った。


 キーラムパイにピスタチオアイスとエッグタルト、チョコレート少しを最後に、ホールを後にする。


 美味かった、ウキウキでエレベーターに乗り込む。

 服ダボダボは正義。


「魔王食べないのに、ありがとうね」

「いえいえ、食べ足りましたか?」


「うん」


 すまん、嘘だ。

 皮膚の物理限界が来ただけ、伸びたら幾らでも食えそう。




「お帰りなさいませ」


 部屋に戻ってもタケちゃんはまだ眠っていた。


 手の中に有る卵は青白い、サイズは鶏卵サイズ。

 麒麟が生まれるのか、鳳凰か、玄武か、青龍か。

 まぁ、元気なら何でも良いやね。


「ただいま。お待たせ、改めて宜しくミーシャ。何か食べる?お握りとかどう?」

「はい、頂きます」


 ミーシャはセミロングの金髪巻き毛、青い瞳、褐色の肌、実に瑞々しく美しい。

 似た背丈なのにスタイルが全然違うのよ。

 なんだ?そこまで遺伝子違うのか?


「何か?」

「ミーシャは綺麗な色だなと思って、金で青でクリクリしてて可愛い」


「あ、ぅえと」


《照れるか、チビエルフのミーシャや》

「ドリアードこそ、随分小さいですね」


《敢えてじゃよ、ウブいミーシャには分らんかぁ》


「色魔ドリアード」

《きぇー!》


「仲良いねぇ」

「仲が良いんですかねぇ」


「ショナ、柏木さんに呼び止められたのって?何か問題?」


「えぇ…と、明後日までには交代しろと言われまして」

「ずっと一緒だったもんね、そりゃ休まないと、人間だもの」


「想定より遥かに休めてるんで大丈夫なんですけどね、労働基準とかが邪魔をして」

「あー、じゃあ仕方ない。プライベートは大事だ」


「だからと言って、この状態で交代もどうかと思うんですが」

「んな事を言い出したらキリがない」

「はい、桜木様の言う通りです」

《分が悪いのうショナ坊や》


「本当に大丈夫なんですけどね…」


《そんなにハナりゅぅぐ、しゅなぶぅ、ゆむぃ》

《ショナやれー!》

『もっとだー!』

「ざまみろですねドリアード」


「こら、煽らないの2匹。ショナ、とりあえずタケちゃんの事もあるし省庁に行こう」


 誂うドリアードに初めて抗ったショナと、そこで初めて従者に仲間意識を持ってくれたらしいミーシャ、抵抗された荒ぶるドリアード、カールラ、クーロン。


 そして目覚めぬまま魔王に抱き抱えられたタケちゃんと共に、全員で省庁へ。




 入って直ぐに柏木さん、救急カートに白衣の人。


「はようございます桜木様、ソチラが?」


「うん、李 武光君。点滴も預かってるんですが」

「はい、少しお待ちを」


 救急カートの後ろで控えていた白衣の人がバイタルチェックし、点滴を刺した。

 流石、手際が良い。


『大丈夫そうです、魔力低下の安全装置が掛かって眠ってるだけですね。一応、水分補給の為に点滴をしました。津井灘君、点滴の交換をお願いしますよ』

「はい」

「ありがとうございます先生」


『いえ、桜木様もしっかり養生して下さいね、まだまだ魔力が足りて無さそうですよ。では』

「はい、どもでーす」


「あまりご無理なさらずに、今日はゆっくりされて下さい、ジジイからのお願いです」

「でも、ゆっくりって」


「お近くですと…ココの、ハバスの滝と言う場所が魔素が濃いそうですので、行かれてみては?」

「うい、タケちゃんにも良いだろうし行ってみます」


「はい、行ってらっしゃいませ」




 クーロンがタケちゃんを抱えつつ、タブレットに送られた座標近くへ魔王に転移させて貰った。

 その魔王曰く、ドンピシャの場所は結界で守られているのか、転移出来ないそうだ。


 赤土の山肌と真っ青な空、細長い道には細々とした木々が生えている。


「まだかのう」

《もうちょっとじゃろ、水の気配がするぞ》


 ドリアードの言う通り、少し進むと滝の音が聞こえてきた。


 そして水の匂いと、木の燃える匂い。


 道の終わりの開けた場所に、複数のテントと水色の滝が現れた。


 人は1人だけ、火の番をしていたお爺さんに話し掛ける。


「お邪魔します、お伺いしても?」

『何だ』


「魔素が濃い場所で人を1人休ませたいのですが、何処か良い場所を知りませんか?」

『ココだ、座れ、ソッチはソコだ』


「はい、ありがとうございます。桜木花子と申します」

『ん、小さいのは神獣だな、水浴びに行くと良い』


『《あーい!》』

『ん、人に今の水は冷たい、お前はコレだ』


 ほのかな味と香りのするハーブティーを戴いたので、鮭の薫製とベリージャムをショナに出して貰った。


「ありがとうございます、もし他の物が良ければ」

『これで良い、今日は良い日だ』


「そうですね、暖かいですね」


 お腹に響く様な滝の音、風で木が擦れる音、焚き火の弾ける音。


 水の匂い、土の匂い、火の匂い。


 良い天気で日向はとても暖かい、たまに冷たい風がそっと吹いて、それがまたとても気持ちいい。






 夢も見ない程に深く眠った、目覚めはとてもスッキリ。

 起き上がると、空も山も赤く染まっていた。


「おはようございます桜木さん、気分はどうですか?」

「良く寝てスッキリ。すみませんお爺さん、長居してしまって」


『良い、いつでもココへ来い』

「はい、ありがとうございます」


『良く備えよ、小さき者たちよ』


 テントへ消える直前、聞き間違いかと思う程に小さく、だけどしっかりした口調でハッキリ聞こえた。




 あの言葉のせいなのか、不安なのか。

 ホテルへ戻っても落ち着かない。


 調べなきゃ、何かしなきゃ。

 ずっと感じていた追われる様な感覚が、他者によって言語化された様な気がする。


『あの神獣が現れるのは珍しい』


『良く備えよ』


 その言葉が、どうしても頭から離れない。


 夕飯を食べても、お風呂に入っても。


 もっと早く、何かをしなくてはいけない様な焦燥感。


 でも、それでもまた自分の体調が足を引っ張る、病気では無いにしても。

 眠くてダルくて、食べてばかりで、気を使われて。


 アッチで何も成して無い、何が得意と言われても特に無い。

 好きな事が有るだけ。

 料理や手芸、手を動かすのが好きなだけで、何も人並み以上な事は、何も無い。


 何も知らない、だから調べなきゃ、神々や精霊の事を。


 でも一体、どこから?

 神様も精霊も数多と居るのに。


「桜木さん、ずっと目を擦ってますよ。少し寝ませんか?根を詰めすぎては体に毒ですよ」

「うーん、あとちょっと。寝てても良いよ、カールラもクーロンも」

『《一緒にねたい》』


《うぬの体は万全では無いのじゃ、焦るでない、本当に体に障るぞ》

「お昼寝沢山したし」

「まぁまぁ、ぐずってるはなちゃにはナイトプールなんてどうでしょう?ほら」

「確かに、良さそうですけど」


《じゃの、月光浴は良いぞ》

『《ご主人、行こ?》』


「泳げない」


「それは心配しないで大丈夫ですから、兎に角行ってみて下さいよ桜木さん。ミーシャさんも行きたいですよね?️」


「桜木様、嫌になったら直ぐ帰って来て、提案者の魔王とショナに文句を言いましょう」

「はい、文句を探しに行ってきて下さい」

「ですね、行ってらっしゃい桜木さん」




 ガラスのドームで囲まれた室内プールは、前回来た時とは違いほんの少し肌寒い。


 照明は最小限の灯りだけが足元を照らし、風や水、自然の音だけが響いている。


《いらっしゃいませ、足元にお気を付け下さい。今夜の天体ショーは今月の流星群のダイジェストが見られるんですよ、特別メニューも御座いますので是非…さ、お席はコチラで如何でしょうか》


「ありがとう」


《では、いつでもお呼びください》


 特別メニューには星型のマシュマロが飾られたホットチョコレート、星型のカラフルなピンチョス、流星群をイメージした金粉入りのカクテル等があった。


『《このホットチョコのむ》』

「私も飲みたいです」

「じゃあ4人分頼もう」


 円形の大きなソファーに座り注文し、備え付けのブランケットを膝に掛けて星空を見上げる。


 ガラスの存在を忘れる程の透明なドーム越しに、満天の星空が煌々と輝く。


 暫くして届いたホットチョコレートは、熱々トロトロで濃厚。

 自分のは甘さ控えめにして良かった、丁度良い甘さ、僅かな苦味が後を引く。


(美味しいです)

((うん、おいしい))

(ねー、寒かったら言ってね、まだブランケットあるから)


((あい))

(はい)


 両脇に抱えているカールラとクーロンが、さっきから空気を読んでちゃんと小声で喋っていて可愛い、いとおかし。


((ご主人お空すき?)

(うん)


((ぴかぴか))

(ねー)


 暫く夜空を眺めているとアナウンスが響き、天体ショーが始まった。

 ガラスに映る映像で星と星を線で繋げ星座を紹介していく、優しく低い声が星座の名前を読み上げていった。




 《間もなくヒュパティア流星群が始まります、ごゆっくりご鑑賞下さい》


 星々が現れてはゆっくりと動き始める、そして降る星の数が徐々に増え。

 最後には全ての流星の残像で終わった、今年は特に多かったそう。


 完全に撃沈したカールラとクーロンを抱え、部屋に戻り布団へ入った。


 もう、開き直ってとことん寝てやろう。

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