第13話 待って、これってもしかして…

「なあ、そろそろお開きにしないか?」

瀬川は飲み物を飲み終わったようで、僕に話しかけてくる。


確かに時計を見ると、もう8時である。


「そうだな。そろそろ僕もアニメリアタイのために帰りたい。」

「んー。じゃ、ワタシもそろそろ帰るー。」


僕の言葉に墾田永年私財法も同意する。


今日は女子と話し過ぎて、緊張で疲れたな。


「あ、日向さん!ワタシと帰りましょー」

墾田永年私財法は小鳥遊に話しかける。


オタバレした割には、もういつも通りなところが凄いな。


「そっか、もうこんな時間かー。じゃ、田中君、日向ちゃん、墾田永年私財法さん、またね!」

桜は少し残念そうにしているが、時間が時間なので仕方ないだろう。


「…?なあ、墾田永年私財法。瀬川はどこ行った?」

「ん?もう帰ったけど?」

「早⁉︎」


てか、伝票どーすんだよ。払えよ。


「今日は田中の奢りだってー。」

「他の二人はいいとしても、お前は払え」


墾田永年私財法の頭にチョップを入れる。


「むー。ケチ。」

墾田永年私財法は頬を膨らましているが、だめなものはダメだと思う。


「あ、お会計は済ませといたから行こー。」


墾田永年私財法と僕が言い合っていると、外から小鳥遊が手を振っているのが見える。どうやら、桜も一緒みたいだ。


「え、あ、日向さんに奢ってもらうわけには!ワタシが払います!幾らですか⁉︎」

…僕と態度変わりすぎだろ。




「…ね、田中。なんでついてくるの?」

「佐藤花子さん、幼馴染って言葉の意味知ってます?」

「その名前で呼ばないで!」

もうこの返事も墾田永年私財法の口癖だよな。


桜は僕たちと違う方向のようで、小鳥遊と墾田永年私財法と変えることになった。


幼馴染なもので、家も隣だからな。帰り道が同じなんだから仕方ない。


「ねー、田中。暑い。アイス買って。」

「まー、暑いな。ほら、金やるから小鳥遊と僕の分も買ってきてくれ。」

「え、あ…。田中君ありがとう。」


さっきファミレスで奢って貰ったからな。

そのお返しにしてはいささか少ないが…。また今度飯でも奢ろう。


「じゃ、ちょっと待っててー!」


パタパタと墾田永年私財法はコンビニへかけて行く。


「ねー。田中君。」

僕が墾田永年私財法の背中を見ていると、小鳥遊が話しかけてくる。


「ん、なんだ?」

そう言えば、今女子と二人っきりと言うことか。イケメンだけど。


「いや、もしかして花子と付き合ってるのかなって思って。」

そう言うと、少し上目遣いで小鳥遊は僕を見てきた。


なんだか眼鏡の奥の瞳が潤んで見えて、不覚にもドキッとしてしまう。


「あいつはただの幼馴染だしな。付き合ってるとかじゃないよ。」


なんだか気まずくて、小鳥遊から目を逸らしてしまう。


ずっと男だと思ってたから気づかなかってけれど、こいつなかなかの美少女だしな…。


「そっか!よかったー。」

えへへーと小鳥遊は笑う。


「あ、当たり前だろ!そもそも僕みたいな冴えないオタクを好きになる女子なんていないって。」


その表情がかわいらしく、変なことを言ってしまう。


「…。意外と君の近くに、そんな女の子がいたりして、ね?」


悪戯に小鳥遊はニヤッと笑う。


ったく、なんなんだよ。意味ありげだな…。


「日向さーん!アイス買ってきましたよ!一緒に食べましょ!」

そんなところに、墾田永年私財法は走って邪魔に入ってきた。


「…墾田永年私財法、僕のは?」

「…あ、」


絶対に僕は墾田永年私財法のことを好きにはならない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る