第30話
***
その頃、安生寺をあとにしたレンは来た道を逆にたどり、蓬莱堂へと向かっていた。
先程の璃兵衛のことを思い出すと蓬莱堂に戻るのは釈然としないが、レンの居場所はそこしかないのだから仕方ない。
(いや、元から俺の居場所などなかったか……)
自身に関することの、記憶も名前も、レンは持ち合わせていなかった。
レンという名前も璃兵衛がつけたものだ。
よくわからないものに名前や居場所を与えるなど、璃兵衛は変わっている。
レンを受け入れてしまうところもだが、それだけではない。
まるで川を流れながら生きているかのように見えて、実際のところはそうではなく、むしろ流れに逆らいながら、川底の深いところを見ているようなところもだ。
この国ではあの世に行くまでに川を渡るそうだが、本当に璃兵衛はその川を見たことがあるのではと考えてしまうのは、レンが川のそばを歩いているせいだろうか。
(まさかな……あれは、ただの噂話だ)
そんなことを考えていると、行く手がやけに騒がしいことに気づいた。
「……なにかあったのか?」
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