魔法少女は全ステかつ最前でご覧くださいっ!
フー
第1話
魔法少女を
魔法少女に、なりたい。トゥインクルって叫びたい。
はじめて魔法少女を見たのは、妹のコスプレ姿。
次いで目に触れたときは、劇場だ。今やどこにでも
可愛かった。妹には才能を見出したし、いつかの魔法少女には憧れをもった。
いやホントに
だから
ただし、ノープロブレムな一本道ではない。
なにせ、魔法少女をめざす男子なのだから。
「づ、ぅあ……ぐぉお……?」
いまや将来のユメの動機となり、だが遠い記憶なだけに顔まではしっかり覚えていないあの魔法少女。
とても可愛く、見ているうちに元気をともすような存在感。あれは
そうまるで、遮光カーテンからわずかに
「————————朝! かっ! おはよう朝! 好きだぜ魔法少女っ!」
ジリリリッ、とした音階。これに阻まれて、
昨夜の入眠は深夜帯。
しかし鳴り止まぬアラームが寝ぼけ
「
焦がれるように
時刻七時のころだった。
「で、だ。……スリーピーな妹を起こすのも兄のさだめ。だぜ!」
ゆるく肩を回し、怠けを訴えてくる筋肉にカツをいれる。じんわりと熱が通ってきた。血管の隣にある管も、
一介の兄・能砥のひと仕事は、まず妹の開かずドアをノックすること。
「
八畳一間の室内にはとびらが二つある。かたやリノリウム廊下につながる出口、もう片方はとなり合う八畳の部屋につながるドアだ。
能砥は後者をノック。——やや遅ればせて、まごついた声音が返ってきた。
「
「そうか……。兄は何年越しかわからないが、妹の顔を見たいものだよ。だが無茶はぜったいに禁物だ、そして食事はしっかり作って置いておこう。
今日とても外出不可能をしめす妹。……能砥はすこし歯噛みして、ドアから離れる。
もっとも、強く踏み込むことはしない。ドアノブを施錠する気もない。
こればかりは妄想の域をでないが、
「————なんて、無粋なことは考えるな俺はお兄ちゃんだからな! もっと妹のためになるようなこと、考えねぇと」
思考をドッと励起させるようにあたまをシェイク。半螺旋をえがく階段をくだり、リビングダイニングにうつる。
両親はいない。海外勤務とのことで、めったに家には帰らない。
「さ、て……」
両親は自分たちの手が届かないことをひどく気にしているみたいだ。連絡をとれば開口一番に欲しいものを
ワイドフルグラフィックモニターは、その真骨頂。つないだ端子はかたっぱしからゲーム機器のものであり、これもまた能曽実がご所望した
能砥としては、テレビ中継される劇場の様子がとんでも画質で見られる分、ラッキーパンチもいいところだったのだが……
「やはり、……やはりイイな……っ、魔法少女ぉぉおおッッッ‼︎」
ほとんど朝の日課、魔法少女中継の鑑賞だ。ナンバー五のチャンネルに合わせてすぐ、
グランドピアノと複合電子音でかざられたドールの歌唱と、歌劇隊をバックに
立体性に
「魔法少女! 魔法少女一択に決まっている!」
あたかも現場で熱狂するように、能砥は液晶画面越しへ熱を伝える。
されど現実性を欠いた言葉だ。可愛さを
魔法少女七◯パーセント:ドール三◯パーセント、なるほどこの場は、魔法少女の優勢として進んでいるらしい。
「よぉし魔法少女! しっかし自分の売りを把握しきっているなこの娘……! やや幼さを残しながらもスマートに伸びた両足、そこを彩るパニエの短さはまさしく計算づくめ————第二次性徴期をふんだんに活かしたパフォーマンスだ!」
魔法少女のモーションすべてに可愛さを見出す、見出さなければならない。どれだけこじつけでも、無茶があっても、それが魔法少女志望の
可愛さとは、魔法少女のちからの源である。
「って、もう登校時間じゃあないか!」
無石能砥という男はつまり、魔法少女を愛するあまり魔法少女を目指す男。その証として、右手首にはキラリと輝くブレスレットが
魔法少女およびドール育成、ならびに関連技巧士の育成をモットーとする学園。中高一貫のそこへ、能砥は
——ちょうど、登校時だ。
すっかり夢中になっていた能砥は、時間に
劇場中継を
「といっても空を飛べばイイって話だ! ……いや民間の目を集めるから禁止事項だったな。まったく将来の魔法少女を、名の売れていない時期から
うがいがてらため息を溢す。まるで理解できないものを前にしたかのよう。
さて、飛翔禁止令。のこる手段は学園直結バス、あるいはギチギチの満員電車。
お笑い
「……おっと。そういえば空を飛ぶ魔法が禁止なんだもんな。厳密には大気をつかんで風を蹴り飛ばす〝
悪知恵ひとつ。
玄関ポーチにいそいそ出て、オートロックの閉まりを耳で確認。それから能砥は、バチバチと紫電をまといだす。
要は、〝風〟に該当する術を使わねばいいわけだ。五大属性のうち、せいぜい一つが封じられているだけ。のこる四つ——〝
「磁力使えばリニアモーターカーぐらい、かっ飛ばせる‼︎」
魔法少女志望らしからぬニヒルな笑み。
その口端が、文字通り稲妻じみた残像をのこして宙空へ。
「ビルなんて格好の
高層ビルのヘリポートを擦過。
タワーマンションの
高速道路のETCゲートに磁界をつくって
とんでもパルクールである。飛び移る方角をひとつに定めつつ、反発しないよう磁界のコントロールを
「フゥーッ、演算キツいけど速さはピカイチだな! そういえば花札用語だったなピカイチって言葉。ちょうど雷の速さで移動しているから、
強打。
鼻先が、金属を求めてしまうあまり衝突した。——否、能砥の演算範囲にたちふさがるメタル素材はなかった。そもそも話す余裕があるぐらいには、
しかるに、突然現れた金属物体にぶつかった、と。
「ぐぉぅぅうう……ぐッ、だが危険な
「ホントね。そのうえアマチュアなんだもの。せめてもの時間をある程度は守ること、民間にジャミングをもたらす行為はしないこと」
銀の髪が風にそよぎ、その合間をするりと通り抜けるたおやかな指。身長は能砥よりも高く、たしょうメリハリのついたボディは指定セーラーをちょっと凹凸気味にさせる。
だが
「だけど〝雷〟の属性で高速移動を試みるのはグッドね。柔軟発想は大事よ、プレゼントに柔軟剤をさしあげるわ」
ころり、と涼やかに締まった顔を
「こんなの貰ってもな……」
「あら、チリやホコリを電力で掻っ
「なぁッ……⁉︎ だけど、今から更衣室の洗濯機を使おうにも、距離と時間がだな!」
「隣の席でしょう、アナタ。講義中にくしゃみし続けるわよ、アナタに顔向けて」
「ヤな
せっかく急ぎ足で学園に来たものの、遅刻が確定しそうである。隣席の都合により。
「な、んだ?」
「昨日の自己紹介で、私の得手不得手は教えた筈よ。……まぁ、ちょっと応用性を
ぼうっと困惑気味に、少女の指の腹をみつめる能砥。
ともすれば、五大属性のいずれにも含まれない術式がうかぶ。
「綿・砂・アスベスト粉末・ダニ死骸————デリート」
少女が
たちまち埃っぽい制服は清潔さを取り戻す。
これには能砥も
「うおぉお……妄想癖つよい子だな、って昨日は思っていたが凄いな! 本当に特定したものを消去できるのか!」
「蹴るわよ。——まぁ、褒め言葉だけはすなおに受け取っておくわ」
だいぶ利便性のたかい解毒作用だ。が、その実情はれっきとした脅威である。
自らの知識の範囲内であれば、その対象をかき消すという魔法。
「それが魔法か……。たしかに、魔術とは段違いだ。羨ましい!」
「
物珍しさは未知とイコールでつながっている。その上、先達者がいない道のりだ。珍しさをもって生まれてしまった以上、イバラの道のりでしかない。
そしてもうひとつ。
オールマイティな魔術・魔法は基本的にない。だいたいが欠点を備えてしまう。この場合、少女が背負ったデメリットは、
「あぁ、そーいえば言ったわよね。私が知らないものは消去対象にならないわ。もちろん、アナタに
「な……っ⁉︎」
未知のものは消せない。これが〝デリート〟のかかえた不利益だ。
「要するにどう転んでも遅刻しろ、って話になるのか⁉︎ このおバカ野郎……
「んなぁッ! いちいち金沢弁の引き出しとか使いまわすなこの馬ァ鹿‼︎」
手酷い隣の席の横行。
隣の芝生は青い、と羨ましがったものの、なるほどこんな仕打ちを人に向けてしまうならば
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