第6話 私の妹は、そんなにドレスが欲しいようです
私が謹慎を命じられ婚約者様に会えないまま何日か過ぎた頃、私宛に荷物が届きました。いえ、届いたはずでした。確かに私宛の荷物ですのに、なぜか私の手元には届かず妹がそれを手にしていたのです。
送り主はもちろん婚約者様ですわ。
「……その荷物は、私宛ですわよ?」
「いいえ、お姉様。これはわたしの物よ!」
綺麗な包装紙とリボンに彩られたその贈り物をしっかりと抱きかかえた妹は、なぜか得意げな笑みを浮かべています。
「これはわたしへのプレゼントなの!もうすぐクリスマスパーティーなんだから、少し考えればわかる事だわ!この箱の中身はクリスマスパーティーのドレスでしょう?これはね、お姉様にではなくわたしへのプレゼントなの!間違えないでちょうだい」
「いいえ。確かにその中身はドレスですが、それは私が婚約者様から頂いたものですよ」
「だからわたしへのプレゼントなんだってば!きっとお姉様の婚約者様はわたしへのお手紙の返事の返事が無いことに心配なされて、強行手段にでられたんだわ!お姉様宛だとカモフラージュすればこのドレスがわたしの手元にちゃんと届くとお考えになられたのよ!
大丈夫よ、お姉様にはわたしのお古のドレスをあげるわ。んふふ、これでわたしの方が選ばれた存在だとみんなわかるわね!」
そう言って自分の古くなったドレスを私に投げつけ、その荷物を持っていってしまいました。得意気にかっさらって行きましたが、中身の確認もせずにいいのでしょうか?
いえ、本当にあの中身はドレスですわ。そして妹の言う通り私の婚約者様があの子のためにわざわざ準備したドレスです。なぜ妹宛ではなく私宛に送ってもらったかと言うと、そうすれば妹は必ず奪っていき、絶対にそのドレスを着てクリスマスパーティーに参加するだろうと確信があったからですけれど。
実はその中身はあなたが投げつけたドレスよりさらに古いドレスなんですけどね。まぁ、ある意味アンティークドレスですから一周回って斬新かもしれませんが。
「相変わらず、騒がしい子ですわ」
こっそり様子を伺えば、妹は婚約者様からドレスをプレゼントして貰えたと両親に得意気に自慢しておりました。両親までも「やはりあんな姉より、この子の方が選ばれたな」「だってこの子は可愛いもの!」となんとも楽しそうです。
そんな傍から見れば幸せそうな家族団欒の姿ですが、それは砂の山に築かれた城だとこの3人が知るのはもう少し後になるでしょう。
こうして私は部屋に戻り、鞄に必要な物を纏めました。と言ってもまともなドレスや装飾品はありません。全て妹に奪われてしまいましたから。ですから私が持ち出すのは、この伯爵領に関する書類です。
お父様は忘れているようですね。私が後継者としてどれだけ伯爵領を切り盛りしていていて、今やほとんどの仕事を私がしていることを。伯爵領内で働く平民たちの支持が誰にあるのかも。
クリスマスパーティーの日に、全てが終わります。楽しみですわね?
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