第5話 私の妹は、両親にもとても可愛がられているんです

「……そんなに私の事が嫌いなら、いっそあの子を次期当主になさったらいかがですか?」


 思いの外強く殴られたようで赤く腫れた頬がズキズキと痛みだします。その痛みのせいか、それともこれまでの色々な事に疲れたのか……なんだか急にどうでもよくなってきました。


「お、お前……!伯爵家の長子でありながらその義務を放棄すると言うのか?!なんて恥知らずな!しかもかわいいあの子にあんな厳しい教育を今から受けさせろと?!


 お前の性根はどこまで腐っているんだ!」


「その、長子である私の婚約者をあの子は奪おうとしているのですよ?1年前にどれだけ大変で、どれだけ私が恥にさらされたかわかっていてお父様はそんなことをおっしゃるのですか?」


「婚約者が心変わりするのは、お前のせいだろう?!自分に魅力が無いのを棚に上げてそんなことを言っているから悪いんだ!」


「人の婚約者を奪う方がよっぽど恥知らずですわ」


「黙れ!この人でなしめ!お前はしばらく謹慎していろ!婚約者と会う事も許さんからな!!」


 そうしてドタドタと音を立てて去っていくお父様の後ろでは妹が「ざまぁみろ」と言わんばかりにニヤニヤと笑っていました。












 やっと静かになった部屋で思わずため息混じりに呟きます。


「謹慎ですか……」


 やはりお父様の中では妹は絶対正義のようです。姉妹の間で婚約者の略奪騒ぎがあったなんて恥でしかなく、その火消しにどれだけ大変だったかなんて妹の言葉のみを鵜呑みにするあの方々にはやはりわからないのでしょう。だってお母様にも「恥ずかしい姉を持った妹が可哀想」だと叱られましたもの。


「そろそろ潮時かもしれませんね」


 先程のお父様と妹の態度に私は決意を新たにしました。あの妹がどれだけ私を馬鹿にしているかはわかっていたつもりですが、馬鹿にし過ぎて節穴なのは確かですわね。あの子がやらかしている事を私が知らないと、バレてないと思っているからこそあんな態度なのでしょうから。


 ふと、窓の外をみれば庭の大木からハラリと枯れ葉が落ちました。もう秋も終わり、だいぶ肌寒い時期になってきましたね。



 あぁ、そう言えばもうすぐクリスマスパーティーでした。妹がそのクリスマスパーティーで婚約者様が私ではなく妹を選ぶと、自信満々のクリスマスパーティーです。


 なにせ、婚約者様が主催なさるクリスマスパーティーですもの。目立つ事とちやほやされることが大好きな妹が目をつけるはずですわね……。



 お父様と妹は私を屋敷から出さなければ婚約者様へ告げ口される事もないと思っているようですが、例えば伯爵家から「私が会いたくないと言っている」なんて連絡をしようものならすぐに婚約者様が動く手筈となっています。だって、私がそんな事を言うはずありませんもの。


「私も準備をしなければいけませんね」


 全てを終わらせる準備を。




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