第38話 告白の返事


 夕方に家に帰ったおれたちは、三人で和気あいあいと夕飯の準備をした。


 夕飯を済ませて、お風呂に入ったあとは、少しトランプをしたりして遊んだ。




「お兄ちゃん、ななえさん、わたし先寝るね。おやすみ」


 みなみはそう言って席を立った。


「えっ、ああ、おやすみ」


 まだ遅い時間ではなかったので少し意外だった。いつもならまだまだ起きてる時間だ。


 おれもみなみにつられて、なんとなく席を立った。すると、


「お兄ちゃんとななえさんは、まだゆっくりしてて! わたしは眠いから寝るね」


 みなみは、立ち上がろうとするおれを静止しながら、そう言って部屋を出て行った。


 リビングに残ったおれとななえは互いに顔を見合わせた。


「ななえ、おれたちもそろそろ寝るか? 明日は日曜日だけど夜ふかしはあんまりよくないからな」


「みなみちゃんやさしい、気使ってくれたのかなぁ」


 ほぼ二人の会話は同時に発せられた。なのでおれは思わず聞き返した。


「えっ、なんだって?」


「んーん、なんでもないよ」


 おれとななえは、その後30分ほどあれこれと話してから眠ることにした。


「じゃあ、おやすみ」

「うん、おやすみ、ゆうだい」


 昨日と同じく、ななえは2階のみなみのベッドを使って、おれはリビングのソファでだ。




 深夜、ふと目を覚ましたおれは、リビングで寝ていることに驚いた。


 そうか、ななえが泊まりに来てたんだ。二日目の夜だがいつもと違う寝床にまだ慣れない。


 なんだか家にみなみ以外の人間がいるのは変な感じだった。


 寝付けなかったため、夜風にあたろうと思い外へ出ることにした。極力物音を立てないように慎重に玄関を出る。




 玄関を出ると外が妙に明るいことに気がついて空を見上げた。


 なるほど、今夜は満月だった。


 その時、玄関の扉が開く音がして振り返った。


 そこにはななえがいた。少しクビをすくめながらこっそりと玄関を出てくる。


「ななえ、どうした?」


「眠れなくてリビングに行こうとしたら、玄関を出るゆうだいが見えたから……」


「そうか、ななえもか」


「何してたの?」


「別に何も。そうだ。今夜は満月だぞ」


「あ、ホントだ。きれいー」


「満月って綺麗だよな」


 ななえがおれの顔をじっと見ているのがわかった。


「ゆうだい、少し歩かない?」


「ん、いいよ。川のほう行こうか」


 おれたちは少し歩いたところにある河川敷まで行って散歩することにした。




 二人で堤防まで上がり、川を眺めた。風は少し冷たかった。


「寒い?」


「大丈夫だよ……ありがと」


 ななえはそう言って少し笑った。


「……」

「……」


「ねえ、ゆうだい」


「ん、なに?」


 ななえの声色が変わるのがわかった。


「ずっとね。待ってるんだよ」


「ん」


「……もう! 告白の返事、だよ?」


「ああ……」


「もう! ああ、ってなに?」


「ごめんごめん。そうだな、ちゃんと言うよ」


「……う、うん」


 おれが返事をするのを意外に思ったのか、ななえは驚いた表情をして押し黙った。


 そして、おれは軽く咳払いをしてから口を開いた。


「ななえ──」


 その時、少し冷たい風がおれの声をかき消すようにふきつけた。


 まだ夏にはほど遠い、肌寒い夜のことだった。

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