第12話 如月さんとカラオケで……
「やっぱりそうだよね?」
如月さんは、初めてプレゼントをもらった子供のような、無邪気で嬉しそうな顔をしていた。
「『美波かなた』は田中みなみ、四宮くんの妹だったんだね!」
「しーっ、声がでかいって!」
「あ、ごめんごめん」
「すげえな……よくわかったな。名探偵かよ……」
「この前見たら声もそっくりだったしさー」
彼女は無邪気に喜んでいる。
「一応身バレしないように、みなみも友達とかには内緒でやってるんだよ……」
「へー、そうなんだ。でもいーじゃん、配信楽しそうだし」
「ああ、本人は楽しんでやってると思うよ。でもバレたらいろいろ大変そうだしさ、なにか周りに言われたりして……」
「わかるわかる。アタシだってそうだもん」
Rinstaglamのフォロワー数20万の如月さんも、何かと苦労しているのかもしれない。
「ねえ、四宮くん?」
如月さんは、何か企んでいる小悪魔のような笑みを浮かべてくる。
「このことは秘密にしとくからさ、アタシのお願い聞いてくれない?」
「お願い?」
「そう、アタシにゲーム教えてほしいの! 今流行りのエポってやつ、四宮くんすっごくうまいんでしょ?」
「え、マジ? なんでエポのことを……」
エポとはおれが得意のApoxLegendというゲームだった。
「美波かなたの過去の放送見たよ。この前の配信でエポやってたの四宮くんでしょ?」
なんてこった。そこまで見抜かれてるとは思わなかった。
「うっそでしょ……洞察力、ハンパないね……」
「あの配信ちょっとおかしかったしねー、中身が四宮くんなのバレなくてよかったね。アタシはわかっちゃったけどねー」
まじかよ。声も限りなく似せてたのに、リアルを知ってたらわかるものなのか……。
「それで、なんでエポをやりたいの?」
「アタシね、ゲーム配信やろうと思ってるんだ〜」
「え、マジ?」
「うん、アタシね。【LIBERTY CITY】ってライバー事務所に入ってるんだ。それで今度番組枠もらって配信することになってさ。何やろうか悩んでたの」
「リバティシティ? 事務所って、なんかすごいね」
「そうでもないよ。SNSでちょっと有名になれば誰でも入れるし。アタシはリンスタのDMでスカウトされたんだ〜」
「ほぇー。そ、それでなんでゲーム?」
「んーっと、『JKおうち時間』っていう番組やることになってるんだけどー、家からリモート配信だからさ。家でできることならなんでもいいんだ。それでゲームが最適かなーって」
「そっかー、なんかすごいね。仕事として配信やるんだ」
「別に大したことないよ。家で好きなことやってればいいんだもん」
「ゲーム得意なの?」
「まあまあ、できるよ。でもエポはやったことないからさー。四宮くん、秘密バラされたくなかったら、教えてくれるよね!」
こうして、おれはしぶしぶ如月さんにエポを教えることになった。
Rinstaglamで活動してるインフルエンサーもゲームとかやるんだな。意外だった。
おれはさっそく、打ち合わせと称して如月さんにカラオケに連れてこられた。
「へー、エポってスマホでもパソコンでもできるの?」
「いろんなゲーム機でできるよ。でも配信するならパソコンがいいかなー」
「そりゃあね、そういうのって自腹で買うの?」
「物によるかなー。てかパソコンくらいは持ってるよー」
そんな話をしながら、カラオケルームに二人で入った。別に歌うわけではない。おれは彼女に、エポのことをイチから教えるためにきたのだ。
まさかこんな形で、妹のみなみ以外の女の子とカラオケにくることになるとは思ってもみなかった。
狭いカラオケルームの中には、女の子の臭いが溢れていた。みなみ以外の女の子の。
「よぉし、ここなら誰にもジャマされないし、見られないね」
如月さんはそう言ってソファに腰を下ろした。
彼女の制服のスカートの丈は、平均的な女子よりも短めだ。なのでソファに座ると、太ももがけっこうあらわになる。
おれは彼女の太ももをチラ見しながら、どこに座ろうか悩んでいた。
「何してるの? 座らないの」
彼女はそう言って、自分の隣の場所をポンポンッと叩いている。
「と、となりいいの?」
「何言ってんの。教室でもとなり同士じゃん」
「いや、それはまた別の」
「ねーねー、やっぱコントローラーも買ったほうがいいかな?」
ゲームの話だ。どうやら彼女はけっこうガチでやるつもりらしい。
事務所に所属し仕事として配信をやるのだから、しっかりと準備して行うのは当たり前なのだろう。
美少女JK、おうち時間にエポ配信か。悪くないだろう。
「視聴者層ってどういうところ狙ってるの?」
「んー、ゲーム配信だから男性ターゲットかなあ、10代から20代?」
「もう少し上の男性も狙えそうだけどね。40代くらいまで」
「へえ、四宮くん、さすがにそのあたりの感覚は鋭いね」
おれは、妹のVtuberのサポートをしているから、マーケティングの話は得意だ。
妹の場合は企業Vではないため、そこまでリスナー分析などは行わないが、だいたいどの年代、どんな嗜好の人にウケているかは意識する。
「如月さんはかわいいから、男性ウケはすごいと思うよ」
「んな! ちょちょ! いきなり何! 褒めても何も出ないよ?」
「え、何が。ホントのことでしょ、だって」
おれがまっすぐに見つめると、如月さんは目を逸らしてキョドりだす。
「そ、そんな、まあ、わかってることだけどぉ、面と向かって言われたらハズいじゃん……」
恥ずかしがって顔を真っ赤にしている彼女はすごく可愛かった。
「今日少しだけやってみる? スマホでもできるし」
「いいの? でもアタシのスマホまだアプリダウンロードしてないや」
「おれの使いなよ。ちょっとだけでもやってみよ」
「な、なんか四宮くん、ゲームのことになると積極的だね」
「まあ、やるからにはガチで教えるから。ゲームのことになると、おれは少しうるさいよ」
彼女に半ば強制的にやらされることになったとはいえ、おれはゲームのことでは妥協できないのだった。
「はーい、よろしくお願いします」
こうしてこの日は、如月さんにスマホでエポを少しだけ体験してもらって、また後日教えることにして解散した。
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