第10話 バスタオルの下は……


 おれは、しばらく妹のみなみのスマホを見ようか葛藤していた。


 そして、みなみのスマホに手を伸ばしたその時、みなみが浴室から慌てて出てきた。体にはバスタオルを巻いている。


 ほぼ裸の状態のみなみを見て、おれは慌てて目を逸らした。


「みなみ、なんだその格好!」


「あ、やっぱスマホ置きっぱだった! お兄ちゃん、見てないよね?」


 みなみは、そう言いながらペタペタと歩いてテーブルのスマホを手に取った。


「見てねーよ」


 みなみの方を見ないように、目を逸らしたまま会話をする。


「ホントにぃ〜、別に見られてマズイことはないんだけどね〜」


「いやいや、見ないって。兄妹でもプライバシーがあるんだから」


「わたしにプライバシーなんて……ないよ? ほら」


 みなみがそう言うと、何かが床にバサッと落ちる音がした。それはみなみの体を包んでいたバスタオルのような音で──。


「えっ」



 ──おれは、思わずみなみの方を見た。



「や〜い! 引っかかったー! ちゃーんと付けてたのでした〜!」


 体に巻いていたバスタオルを落としたみなみは……全裸、ではなくパンツとブラを身につけていた。


「え、いや……おい!」


 駄目だこいつ……早くなんとかしないと……。


 近頃のJCの貞操観念はどうなっているんだ。いやうちが特殊なのか?


 パンツとブラを身につけ、ケラケラ笑うみなみを見て、おれは言葉を失っていた。


 いくら、裸ではないとはいえ、それなりに発育の進んでいる女の体を見て興奮しないわけがなかった。胸の膨らみの成長は日頃から感じていたが、下半身を見ることはめったにないのだ。


 久しぶりに見たみなみの下半身は、腰は細いがお尻と太ももにはほどよく肉がついていて、いい感じに成長していた。


「あれれ〜、お兄ちゃん。どうしたの? どこ見てるの〜? まさか妹の下着姿にコーフンしちゃってる?♡」


「からかってんじゃねー! 早く風呂場に戻れ!」


 下着姿の妹から目を逸らしながら、おれは必死にあらがっていた。


 ペタペタと、裸足でおれの傍まで歩いてきたみなみは耳元でこう囁いた。


「お風呂、いっしょに入ろっか?♡」


 吐息が耳に触れる。その言葉を聞いた瞬間、おれは理性を失った。


 ガタンっと、おれは勢いよく立ち上がる。



「きゃー! こわ〜い! 冗談だよ〜ん!」



 みなみはそう言って、足早に浴室に逃げていった。



 ──どうしたんだろう。おれは何をしようとしてたんだ。



 もし、今みなみが逃げなかったら、おれとみなみはどうなっていたんだろう。


 おれはズボンの前を、富士山のように膨らませながら、そんなことを考えていた。


 危うく家族間のコンプライアンスに引っかかるところだった。


 


「よろよろ〜♪、おはこんばんちゃ〜、『美波かなた』の雑談配信だよ〜♪」


 その後、おれはみなみのライブ配信に付き合っていた。『美波かなた』はだいたい、週3回ほど配信するようにしている。



『おはこんばんちゃ〜』

『おはこんばんちゃ〜』

『今日は雑談? エポ配信はしないの〜?』



 さっそく視聴者に、先日のエポ配信のことをイジられている。


「今日は、雑談で〜。エポはね〜、まだ下手くそだからもうちょっと上手くなってからかな〜」



『いや、普通に上手かったけど?』

『全然、動けてた。めっちゃセンスある』

『今日兄貴は〜?』



 うお! のっけからイジられまくっている。


 どうしてくれるの! といった表情で、みなみがおれの顔を睨んできた。


 すまん、みなみ。だが打ち合わせ通りおれのことを聞かれてもスルーだぞ。


「お兄ちゃんはいな〜い。それよりみんな昨日の『鬼滅の花嫁』見た〜?」


 話題は『鬼滅の花嫁』に移っていった。おれは安心して配信画面から目を離し、スマホをいじりだした。


 ニュースサイトをチェックしていると、Rinstaglamの広告が飛び込んでくる。今までは無視していたが、如月さんのことを思い出して、少し見てみることにした。


  Rinstaglamのアプリはダウンロードせずに、Webブラウザから開いてみる。


 検索で『如月』と打つと、サジェストで『如月ななえ』と出てきた。検索で上位に出てくるってことはけっこう人気なのだろうか。


 ページを開くと、如月さんの顔写真のアイコン、そして自己紹介の画面が出てきた。


 如月さんは、本名でインフルエンサーとして活動しているようだ。


 【LIBERTY CITY】所属、モデル、と書いてある。事務所的なものに所属してるようだ。


 フォロワー数20.4万人と書いてある。まじか!


 その下には、キラキラとした女の子やスイーツが写っているたくさんの画像がアップされている。



 眩しい、眩しすぎる。おれとは無縁の世界だ。



 おれはすぐにブラバした。みなみが配信を行っている傍で、他の女のRinstaglamを見ていることに、少し後ろめたさを感じたからだ。




「ちょっと歌っちゃおっかなー♪ おけ? おけ?」


 みなみが歌を唄うようだ。歌配信はウケがいい。界隈で人気の曲をいち早く取り込めば人気も出る。



『おけまるー!』

『いいね、待ってましたー』

『何唄うの? 鬼嫁?』



「そだねー! 鬼嫁のキャラソン、じゃなくてOPオープニング歌っちゃいまーす!」


 みなみが、おれに目で合図してくる。するとおれは手際よく、予備のスマホから音源を流す。


「あ、あ、あー。テステス。今日はノドの調子がいいかもー♪」


 みなみはノリノリで『鬼滅の花嫁』の主題歌の『ほのお』を唄っていく。



卍郎 『かわいい×10』

Yuriラブ 『いい声してる〜』

朝神ライト 『☆彡☆彡☆彡☆彡』

りりりん 『8888888』

いくら丼 『8888888』

타누키 『☆彡☆彡☆彡888888』



 盛り上げるためのコメントが次々と流れていく。


「かわいいスタンプ、ありがとー! うれしー、☆彡もいっぱい、ホントありがとー!」


 みなみが、両手の指で♡マークを作る。


 すると、画面の中の『美波かなた』のアバターも両手で♡マークを作る。


 アバターのかわいい仕草を楽しむことが、配信の醍醐味だ。


 世界でただ一人おれだけは、『美波かなた』の仕草と、中身である妹のみなみ自身の仕草をダブルで楽しめる。


 この配信部屋は唯一無二の特等席だった。






──────────────────────


あとがき


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