四章 林間学校で急接近

わくわく、林間学校

「きて……おきなさい……起きなさいってば!」

「ふぇ……?」


 肩を強く揺さぶられて目が覚める。寝ぼけた目を擦り見ると……弘香ちゃんがいた。


「え、あ……弘香ちゃん!? 体調は大丈夫なのっ!?」

「ええ。おかげさまで」


 そう言う弘香ちゃんの手には体温計が。表示されているのは36.8度という数字。


「熱下がったんだねっ。良かった〜」

 

 顔も……うん。いつも通りのツンっとした冷静な美形だ。


「って、今何時!?」

「8時30分よ。随分と寝ていたのね」


 外が暗くなっていることに気づき、慌てて聞く。

 8時30分って、僕の家の夕ご飯終わってるよ……。ええ、僕何時間寝たんだろう……。少しだけのつもりだったのに。やはり少しだけというのは危険だなぁ。


「お母さんも寝ている旭晴を起こそうとしたみたいだけど、諦めたそうよ」

「諦めたってなに!? えっ、僕弘香ちゃんのお母さんが起こせないほど爆睡していたの!?」

「言い間違えたわ。あまりにも幸せそうに眠っているものだから起こさなかったそうよ」

「そうなんだ……」


 ん? 結局は同じ意味なんじゃ……。


「長居してごめんね。僕帰るよ」


 毛布を畳み立ち上がる。

 弘香ちゃんの部屋なので飛び越えれば自分の部屋に行けると思ったが……僕の部屋の鍵、開けてないや。

 ちゃんと弘香ちゃんのお母さんに挨拶してから帰ろう。


「色々とありがとうね。お陰でだいぶ良くなったわ」

「それなら良かった。明日は学校これそう?」

「朝、熱がなければね」

「そっか。じゃあ熱がないことを祈るよ。弘香ちゃんがいないと学校が寂しいしね」


 まあ弘香ちゃんは、クラスの人気者かつ高嶺の花ポジションだから、学校ではあまり話さないけど。

 でも、同じ空間にいないことは幼馴染として寂しいかな。


「そうね。私も貴方がいないと……少し退屈だわ」

「おお、弘香ちゃんも僕がいないと寂しいってことなんだ」

「少しだけよ」

「あ、うん……強調しなくても分かってるから」

「看病のことは、本当にありがとうね」

「あ、うん」


 ありがとう、って言葉も何度も言ってくれるな。今回の看病は弘香ちゃんには喜ばれたのかな。





 翌日。体調が回復した弘香ちゃんは学園に登校していた。今はクラスメイトに囲まれて話しかけてられている。

 

 今日も弘香ちゃんは人気者だ。


「西堂さん、元気になって良かったなぁ」

「ああ。タチが悪い熱じゃなかった」

「薬とよく寝たことが効いたんだろうね。ところで2人とも」

「「あ?」」

「……少し、離れてもらえないかな?」


 顔がくっつきそうな距離ぐらいで先ほどから話しかけられている。僕に男にくっつかれる趣味はない。

 おっぱいにくっつかれるのは本望。

 

「教室去ったと思ったら、幼馴染の西堂さんの看病ですか。ふーん」

「随分とご褒美プレイじゃないか」

「ご褒美じゃないよ。弘香ちゃん熱で苦しそうだったんだから、すごく心配したし」

「「あっ、すまん」」

「うん」


素直に謝ってくれる。根のいいところが出ているよ、2人とも。


「だが、それとこれとは別だ! 俺たちが眠っっっっっったい食後の授業を受けている時になんと羨ましいことを!!」

「ワシなんか、遅くまで部活だったんだぞ! 男としか過ごせてないんだぞ!」

「あ、うん……お疲れ様……」


 斗樹は机を軽く叩き、純矢は歯を食いしばっている。2人とも、弘香ちゃんの看病ができなくて悔しいのかな。

 でも弘香ちゃんにとっては2人はまだあまり会話も交わしたことがない、他人の範囲だし……弘香ちゃんに散々ボコボコにされて終わりそう。


「まあいつまでも悔しがっても仕方ない。俺も男だからな。で……看病している時に何かなかったのか?」

「何かとは?」


 わざわざ聞いてくるってことは普通のことじゃないのだろう。

 

 斗樹と純矢の距離がさらに縮まった。周りに聞かれたくないことなのだろう。 

 それにしても近い近い………息が吹きかかって気持ち悪いかも……。


「身体を拭いているときにおっぱいポロリとか」

「熱で弱っているから、甘えた声で添い寝希望とか」

「おかゆを、あーんとか」

「今日は最後まで傍にいてとか」

「「ご褒美プレイはどれですか!」」

「だからご褒美じゃないって」

「「ごめん……」」

「うん、いいけど……」


 看病した時に弘香ちゃんと何かあったか、かぁ……。それぞれの作業に集中していてそれほど覚えてない。あっ、でもおかゆは食べさせてよね。あとは……。


「ふんふん」

「ふすふす」


 思い出すのに時間が掛かるため、とりあえず斗樹と純矢に視線を戻すと、なんか変な鼻息と声を出して待ってるし……。

 これ、答えないと面倒臭そうだなぁ。


 キーンコーンカーンコーン


「おっ。チャイムだ」

 

 そこで丁度、1限目が始まるチャイムが鳴った。チャイムが鳴ったことにここまで感謝したことはない。


 一限目の教科の先生でもあり、担任の水林先生が入ってきたとこで、斗樹も純矢もしぶしぶ諦めたように僕の席から離れた。視線は話してくれないけど。


「はい、全員座ったな。1限目は俺の担当教科の時間だが……今日は授業の半分を使って林間学校の説明をする」


 ほう、林間学校。わくわくだね。


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