第4章 アナライザーの本質 -1-

 それはまだ私が「愚」と云う貴い徳に弄ばれて、今のように自分を理解って居ない時分であった。私には、私が何者なのか理解らなかった。既に応援部に身を置いて2年の月日が経とうとしていた。常に応援とは何かを考え、応援部が何故在るのかを考え、吹奏楽団の意味を追って、私がここで生きる意義がどこにあるのか、狂ったように探した。必死になってそれを探せば探す程、見つかるのは己の愚かしさと、突きつけられるのは自身のスペック不足という現実だった。それでもがむしゃらに一生懸命活動に取り組めば何かが視える筈であると、根拠のない希望を片手にここまでやってきた。やってきてしまった。今、私の目の前には何もない何かが広がっている。もう後には退けない、限界で最果ての地。この景色に呑み込まれて、そして私は入部して初めて、酷使してきた足を、その歩みを止めた。どうしたら良いのか分からなくなって、あの日、貴志と一方通行の戦争において不戦敗を喫した日、吹奏楽団の練習を終えたその足で、私は電車に乗った。どこに行くのかも、誰に会うのかも、何をするかも決めずに、ただこの自分の心に巣食う得体の知れない感情に言われるがまま、私は戦場を後にした。片道分の燃料だけを携えて、「無能」という名の人間の容れ物に拘束された私は、1年と248日ぶりに、思考することを止めた。

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