第20話 挫折
三年の清闘連女長は事態を重く見て、琢魔を河原に呼びだした。
私は大きい凶暴度が期待できると思い河原に向かったが、シカーナから急な呼び出しがあった。
暫くの間なら宿主も強いから大丈夫と拓魔から抜けた。
「オルゴン様、緊急事態です」
「如何した?」
「ゼノンが調査隊をこの地域に送りこみました」
「私はそんなに成長していないのに感づかれたか?」
「いいえ、トスポ達とブラックキシンのライフが合計四万を超えて、ゼノンの魔気センサーに反応したからです」
「それで私に如何しようと?」
「出来るだけ魔気を取る事と時間を止める事をしないで欲しいのですが?」
「それをしたら私の成長は一時止まってしまう」
「でもゼノンに捕まり素にされるより良いです。それに調査隊は私の事も把握しており、私とオルゴン様が接触すると宿主が分かってしまう。だからこの場所に来て貰ったのです」
「この場所は?」
「セイニチのシールドが張ってある場所で神には見えないと思います。それと調査隊は変身して来ますが余り天上界にいる時と変わらないので直ぐ分かります。その正体が分かれば自由に魔気を出せます」
「分かった、ライオキシンのライフが四万を超えたか? 出てくるのも時間の問題か?私も早く成体にならなければ対抗できない」と言っている内にシカーナは気配を消した。せっかちな性格の彼女らしかった。
河原では清闘連女長と琢魔が一対一で向き合っていた。
女長も身長160cmので空手の有段者だった。
「えいっ」と女長の突きが来たので、両手でその手を掴み引こうとした時、左から上段の蹴りが飛んできた。
琢魔は手を離し左手の腕で受けたが衝撃が激しく体が揺れた。
そして間を開けず右よりの上段が飛んできた。
これも右手で受けたが鍛えていない体には厳しかった。
激痛に戦闘意欲を失った。お腹と顎を正面で蹴られその場に倒れた。
女長はそれ以上に攻撃して来なかった。
「余り調子に乗るな」と言い捨ててその場を離れた。
私は急いで河原に戻り琢魔を捜した。
あっ、不味いぞ、倒れている、早く入ろう。
(悔しい、悔しい、始めて負けた。私が何故こんな目に会うの?)
やっと立ち上がった。
両腕とお腹が痛い、顎は辛うじて手で受けて、後ろに倒れなかったがお腹を蹴られ蹲って前に倒れてしまった。
空手の有段者相手に、私があげた能力の初心者用の合気道では敵うはずなかった。
不味い状況だ、泥で汚れた制服姿で、両腕をだらりと下げ涙を止めどなく流し琢魔は歩いた。
家に帰るなり制服と下着を脱ぎ捨て、浴室のシャワーを浴びた。
まだ涙がとめどなく出てくる。始めての挫折だった。
「如何したの? 琢魔ちゃん、制服が泥だらけで何があったの?」母の声が聞こえている。
(可哀そうに私が離れたからこの子はこんな目に合ってしまった)
(オルゴン様らしくありません。如何したのですか? この子とも何れ離れるときが来るのです。この子にとっては挫折を知ることも必要です)
(シカーナか? でもこのままではこの子は潰れてしまう、どうすれば?)
(魔気は使えませんが、この子の能力を少しずつ上げることは大丈夫でしょう。調査隊の正体が分かったら連絡します)
次の日、拓魔は学校を休み、母親と整形外科に行った。
両腕は打撲で全治2週間、お腹の打撲は一週間と診断された。
外科の先生から暴力か苛めかと疑われたので学校名を知らせると無言になった。
医者にとってはこの学校の暴力による怪我の診療は日常茶飯事だった。
母は琢魔に打撲の理由を聞いた。
琢魔は先輩に呼びだされ喧嘩になったと説明した。
母は学校に相談に行くと騒いだので、苛めではなく喧嘩で学校には知らせないようにと頼んだ。母は仕方なく学校に2週間の休学届を出した。
琢魔の学校の各学年は5クラスあり、清闘連の5人は2年の各クラスから一人ずつ選ばれていた。
その頭が3年の清闘連女長で、女子生徒の組織だった。
男子は各クラス5人いて3年の清闘連男長には25人の手下がいた。
男子の清闘連も入学式の次の日にクラスに来たが、目立った男子生徒がいなく騒動は起きなかった。
暫くして、隣にいた姉妹の姉が通っている私立の中学校に女子生徒が2名転校してきた。3年のクラスに一人ずつ入った。
金髪と銀髪で制服は短いスカートで生徒達に衝撃が走った。
名門で優秀な生徒が集まった進学校では前代未聞の出来事だった。
実はこの2名を学校に編入させたのは女性校長の方針だった。
年々、新入生が減るため校則を一部変更した。スカートの丈と髪の毛の色は自由とし、2名を実験で編入させた。
理事たちから反対もあったが、2年程様子を見て変化がないようなら元に戻すことで同意させた。
やはり進学が主体の学校で髪の毛を染め、スカートが短い生徒はクラスに数人増えただけだった。
琢魔の家から500m程の処にコンビニがあった。
そのコンビニは道路側に駐車場があり、その奥の建物の横が若者のたまり場に成っていた。琢魔の中学校の生徒や高校生がたむろしていた。
琢魔の打撲は回復が早かったが、精神的にはまだ落ち込んでいた。
一度そのコンビニに行った時に屯していた生徒に負け犬と言われて逃げるように帰って来た事があった。
それ以来また同じような目に合うと思い学校に行く事を躊躇していた。
私は感づかれない範囲で一日に1・1倍ずつ能力を上げた。
2週間前で動作能力は3倍になった。
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