第15話 車の変態者

 私は小学校の三年生になっていた。


変わらず同じアパートにいて和夫の引っ越しの話は消えていた。


意識は半径200mまで飛ばせた。


トスポとシップの家来は時々見かけるが、トスポとシップとマイナの気配はこの町にはなかった。


私は一人で登校するようになり、ある時に巣窟の前を通ると弟が外にいて「琢魔ちゃん」とまた声を掛けられた。


私は振り向き弟の顔をちらっと見て、返事もしないで歩いていった。


「可愛い子だな、将来、上玉になるな」ともう一人の男の声が聞こえた。


弟は人に嫌われる自分の職業が分かっていたので拓魔に無視されてもさして気にも止めなかった。


学校で先生から話があった。最近、通学路で送ってくれると生徒に声をかけている不審な車が出没している。絶対乗らないようにと、また欲が取れそうだ。


下校時間になったので私は○○ちゃんと帰った。


巣窟に近づくと○○ちゃんは巣窟の前は嫌だと言ったのでそこで別れた。


巣窟を過ぎた頃。車が徐行して私の横を通り過ぎた。


やはり強い欲を感じた。運転手がサイドミラーで私を見ていた。


アパートの階段に着いた時、先程の車が階段を過ぎた当たりに止まっている

のが見えた。


「だだいま!」


「おかえりなさい」母はパートの時間を私の為に午後二時までにして貰っていた。


「琢魔ちゃん、ケーキを冷蔵庫に入れてあるから」


「わー 嬉しい」私はランドセルを置き、冷蔵庫からケーキを出しテーブルの上

に置いた。

私の宿主はこんなに甘い物が何故好きか分からない? 神酒を浴びるほど飲みたい。


私がケーキを食べていると母が「最近、不審な車が小学生の女の子を狙っている話があるから、琢魔ちゃんも気を付けて」


「うん、分かった。今日は何?」


「ハンバーグよ」


「やったー でポテトもある?」


「あるよ、琢魔ちゃんの好物だから」


「イエーイ、ポテト、ポテト、ポテト」芋も好きだったのか?


次の日の下校時も同じだった。


ただ欲が大きくなっていて今日がその日だと感じた。


アパートの階段の大分手前にその車は止まっていた。


私が車に近づくと助手席の窓が開き、男が声を掛けて来た。


「すみません、○○に行きたいが、場所わかる?」と郊外にある大型商業施設の場所を聞いてきた。


「分かります」


「この辺の地理分からないので案内してくれる? 場所分かったら、ここにまた連れてくるから」


私はまんまと罠に嵌った振りをして助手席に乗りシートベルトを締めた。


男の欲が膨らんでいるのが分かる。


男は30代後半で頭の毛は薄く頭頂部は禿げていた。

黒い眼鏡の痩せた顔をしていた。


やはり違う道を走り山の中に入って行った。


宿主には強烈な刺激になるので、意識を宿主から私に切り替えた。


車は山道より細い舗装されていない脇道に入って止まった。


平気な顔をしているのは不味いので怯えている顔をした。


男は私にシートベルトを外すように話した。


私はベルトを外して、ドアハンドルを引いたがロックが掛かっていた。


男はシートの背もたれを後ろ一杯に倒し、体をこちらに廻し近づいてきた。上気した顔でおもむろに下のファスナーを開け変な物を出して来た。


そして「触ってごらん」とギラギラした目をして言って来た。


私はそんな汚い物を触ると魔気が下がると思い「いやー !」と叫んだ。それで益々男の欲は膨らんで来た。


そして私の手を握ってそこへ持って行こうとしたので、欲を抜いた。


(いいぞ! 大きい欲が取れた。あれ? こいつ手を離さない! もう一度取ってやる! えいっ! まだ離さない、不味い触りそうだ、不味い触りそうだ、あっ、触ってしまった! 私の魔気能力が暫く効かない、時間を止める事が出来ない!)


「えいっ」と戦闘形体になり後部座席に屈んだまま降りた。


ドンと音がして男がこちらを見た。酷く驚いているようだった。


黒い鎧に黒いマントの美少女、マントが宙に浮いている速さで男の首に手刀を入れた。


気を失ったので男の意識に入った。トスポがいる、遠隔操作で欲を送っていた。どうりで欲が切れなかった訳だ。


「もう少しだったのに残念だ、オルゴン」


「トスポ、如何しても私の宿主の命が欲しいか?」


「貴方が纏っている欲を捨て、素だけになって闇の国に入れば狙うのは止めよう」


「闇の国は遠慮する、それならゼノンに門に嵌めて貰う。そうなればライオキシンは永遠に魔の国から出られないだろう」


「それは困る!」


「なら仮設の門を開けるとか、他の魔王の素を門から抜くとかを考えろ! 私を敵扱いするな!」


トスポは気配を消した。しかし危なかった、あれ以上触り続けたら私の魔気が押え込まれ変身できずに、宿主は悪戯され、口封じに殺されて私は素だけになっていた可能性があった。


「シャー、シャーはいるか?」


「はい、此処にいます。オルゴン様」と大きな箱を持った3m位の男が現れた。


「私はやっとお前を呼べるまでの魔気が溜まった。この男は私を見てしまった。どう処分したらよいか?」


「大丈夫でしょう。この男は可愛い女子高生を見たと思うだけでしょう。このまま裸にして縛り道に転がして置きましょう」


「じゃー 転送してくれ」


私は宿主に戻り箱に入りアパートの階段近くに転送してもらった。


シャーは助言する運び屋の魔人だった。


不審な車はこの町に出没しなくなったが、また欲が膨らめば同じことを起こすだろう。心の元凶を無くすことが最善で、つまり抹殺することだ。何時の間にか魔王らしからぬ事を考えてしまった。

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