Draw 4:超強い玩具を無料で渡す正体不明の男……もしもしポリスメン?

◇◇◇


「イエヤスでダイレクトアタック! トドメだ!」

「うわあああああ!」


 ……これで10個目の星。CHAOSトーナメント出場決定だ。

 すると、後ろで観戦していた幾美が近づいてくる。その顔は決して明るくはない。

 理由なんて明らかだが。


「おめでとう、唯一。……ねぇ、水貝くんのお見舞いに行かない?」

「何度も言ってるだろ。行ってどうするんだよ。何を言えば良いってんだ」

「それは……そうかもだけど。でも! 友達でしょ!」

「友達だからこそ。……違うな。俺とアイツはライバルだからこそ。今は近づかないでくれってアイツの望みを俺は尊重する」


 少女とのCOバトルで大きなダメージを負った水貝は、近くの病院に入院している。

 検査入院程度で、数日後には退院できるらしいけど。

 ……俺にとっての水貝は。ドが付く程のナルシストで、いつだって自信に溢れていて、ムカつく笑みで挑発してくる……その裏で、誰にも見つからないように、誰よりも努力を積み重ねる男だ。

 俺は、水貝が陰でしている努力を知っている。尊敬もしている。だけど、ずっと見ない振りをしてきた。それがアイツの望みだからだ。アイツは他者に……特に俺に、「ナイスガイ」な自分だけを見て欲しいと思っている。

 なら、今回も同じ。俺はアイツの弱い部分を見たりしない。


「行きたいなら、幾美だけで行ってくれ。悪いな」

「唯一……」


 水貝は絶対に立ち上がってくる。前よりも更に強くなって。

 今の俺に出来ることは。CHAOSトーナメントに出場して、あの女を倒すことだけだ。


 この時の俺は。

 本気で、そんなことを考えていたのだ。

 悠長に。呑気に。何も知ろうとせずに――



◇◇◇



「――大変よ! 唯一! 水貝くんが病室から居なくなっちゃったの!」



◇◇◇



 降りしきる雨の中を駆けずり回る。

 傘もささず、当てもなく町中を。


「くそっ……! どこに行ったんだよ、水貝! 何を考えてるんだよ!」


 水貝が失踪した。

 病室には手紙が2つだけ残されていた。1つは水貝の家族に宛てた手紙。もう1つは俺への手紙だった。

 そこには、ただ簡潔に。「僕は強くなる。そのための場所を見つけたんだ。誰よりもナイスになって君の前に現れる」とだけ書いてあった。

 意味は分かる。ライバルとして、その意思を尊重したいとも思う。

 でも。

 毎日、アイツと下らない事で争って、COバトルして遅刻して、幾美に叱られて――そういう、当たり前の日常を俺は大事に思っていたのに。

 それはもう、戻って来ないのだろうか。


 ――大切なモノは。失ってから初めて、その本当の価値に気付く。

 ――父さんも、兄さんもそうだった。

 ――俺はまた……


「少年よ。何か悩んでいるようだな」


 そして。俺は出逢った。


「アンタ、誰だよ」

「俺かい? 俺は……そうだな、Mr.ハラキリとでも名乗ろうか」

「なんだ、そりゃ。死んでるじゃねぇか」

「はは、だからこそだよ」

「はぁ?」


 明らかな偽名の男。

 砂漠でも進むかのような分厚い布で全身を覆い。

 顔には、顔全体を少しの隙間もなく隠す黒い仮面が付いている。

 怪しさしか無い男だ。

 けれど、不思議と警戒感が湧かなかった。何故か、どこか懐かしい感じがしたのだ。


「少年よ。君の悩みが何かを俺は知らない。だが、それが何であろうとも。打ち壊し、超越し、切り拓く力を俺は知っている」


 そう言うと、男は懐から何かを取り出して差し出してきた。

 びっしりと隙間なく、漢字のような文字が書き込まれた白い布。包帯のようなソレがグルグルと巻かれた物体だ。

 ……まるで、呪文を刻んで封印しているようにも見える。


「これは……?」

「The ONEカード「カオス・ノブナガ」。君の道行を切り拓くカードさ」


 この日。俺は出逢ったのだ。

 俺のThe ONE。唯一無二の相棒に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る