TURN 2:ホビアニ本編開始篇

Draw 1:ホビアニ1話的な?


 ――TCG『CHAOS ONE』!

 ――略して『COバトル』!

 其れは、あらゆる世界が集う世界「カオス」を舞台に繰り広げられる熱き戦い!


 戦士達の共通点は一つ。

 混沌とした世界で、己こそが唯一無二だと!

 絶対にしてただ一つの頂点なのだと!

 其れを示すべく、カードを手に8の「ライフ」を削り戦う!


 人は彼らを「COファイター」と呼んだ――!



◆◆◆



「やぁ、唯一ゆいいちくん。奇遇だね」


 俺の名前は火緒主かおす 唯一ゆいいち。真っ赤な髪がトレードマークの、混沌中学1年生。

 家から出て学校へと向かう途中、声を掛けられて振り返る。

 もっとも、声の主が誰かなんて明らかだ。


水貝すがいか……」


 俺的「朝から見たくない顔」ランキング堂々の1位。殿堂入りさえ目前のコイツは、「水貝すがい 天一郎てんいちろう」。小学校1年生からずっと同じクラスになり続けている、青い髪の男子。

 ありとあらゆる事でぶつかり合ってきた奴で、いけ好かない野郎だ。

 理由?

 直ぐにわかるさ。コイツの次の言葉なんて決まってる。一言一句同じ言葉を、何度も何度も繰り返し続けてるからな。もう飽きるほど聞いている。

 その予想は的中。

 水貝は、太陽を反射する黒縁メガネの中央に右の人差し指を当て、僅かに持ち上げながら言った。


「ちっちっち。僕の事は「ナイ」と呼びたまえと何度も言っているだろうに。全く、これだから鳥頭は困る。この程度の事も覚えられないとは」

「覚えられねぇんじゃねぇよ! 知ったうえで拒否してんだよ! テメェのドコがナイスガイだ!」


 そして、俺も。いつもと変わらぬ返しをする。

 何度言われてもムカつくのだから仕方があるまい。


「美に対する審美眼を持たないとは哀れだね。よく見たまえ。僕ほどのナイス――」


 その瞬間、ドンッという大きな音と共に。

 老婆の、絹を裂くような悲鳴が響き渡った。


「きゃー! 引ったくり! 誰か捕まえて!」


 1人の白髪の婆さんが、走り去っていく全身黒ずくめの服と帽子&サングラス&マスクという明らかな不審者を指さして叫んでいる。

 走り去っていく黒男の手には大きなカバン。

 ざっと見た限り、婆さんは転んだりしていない。

 ならば!


「任せろ、婆さん! 待てや、コラァァァ!!」



◆◆◆



 ……クソっ!このままだと逃げ切られる!

 コイツ、手慣れてやがる! 逃走経路を熟知しているし、何より足が速い!

 俺は運動神経には滅茶苦茶自信を持っているが、それでもギリギリ。そして、逃げるのに慣れている分、向こうの方が有利。

 徐々に徐々に距離を離されていく。

 不味い不味い不味い……! あの角を曲がられたら、見失っちまうかもしれない……!

 黒ずくめの男が直角に曲がり、路地裏へと姿が消え……


「く、くそ……!放しやがれ……!」


 直後。

 その路地裏から黒ずくめの男が戻ってくる。

 両手を拘束された状態で。


「――引ったくり犯が逃走経路を確保してないわけないだろ? 全く。少しは頭を使いなよ。僕たちは“intelligent life”、知的生命体なんだよ?」


 男を拘束していたのは、先程まで会話していた水貝だった。



◆◆◆



「ありがとうねぇ。ありがとうねぇ。銀行から出て直ぐだったから、本当に助かったよ。ありがとうねぇ」


 その後。引ったくり犯は無事に警察に引き渡され、カバンは婆さんの手に戻った。

 俺と水貝は、婆さん本人やら警察の人やらに散々感謝されることに。

 嬉しい気持ちはあったが、その何倍も恥ずかしかった。なので、「学校に遅刻するから」と言って逃げるように立ち去る。

 日頃から「ナイスガイと呼べ」などと言っている水貝も、人並みの羞恥心は有しているらしい。俺が声を掛ければ、抵抗なく退散に従った。

 しかし。彼が大人しかったのはソコまで。賞賛する人々の輪を抜け出して暫くすると……


「あの場所から逃げるなら、あの路地裏を通ることは簡単に推測できるだろうに。なら、先回りして待ち構える事は十分に可能だろう? 少しは頭を使いなよ」


 いつも通りの腹立たしい野郎に戻りやがる。


「あぁん!? それは俺が追い続けたから成立した作戦だろうが!」

「ははっ。だとしても、君一人では間違いなく逃がしていた。そして、実際に捕まえたのは僕だ。なら、あれは僕の功績だろう?」

「百歩譲っても半々だろうが!」

「浅ましいね。僕の功績を50%も恵んで貰おうなんて」


 あー。分かった。そうか、そんなに対決が望みか。


「いいぜ! ならCOバトルで決着だ!」

「望むところだよ!」


 今日も遅刻だろうけど知った事か!


「何かで揉めたら『CHAOS ONE』で勝負!」

「常識だね!」



◆◆◆



「混沌の世界に燃え盛れ、俺の焔! 召喚、『種火たねび侍/翔火矢かけびや ヒダネ』!」

『応よ! 小さな火種が大きな破壊に繋がるのさ!』


 俺がカードを掲げれば、赤い髪の弓兵が現れる。

 グレード1の速攻モンスターであり、愛用している『ヒダネ』だ。


「相変わらずの侍デッキかい? 芸が無いね!」

「そういうお前だって、いつもと変わらない水涯すいがいデッキじゃねえか!」

「これが一番ナイスだからね!」


 ターンが移り変われば、水貝が眼鏡の中央に指を添える。

 そして。声高らかに告げた。 


「荒れ狂う水流さえ計算可能! ならば、如何なる混沌でも計算し尽くそう! 召喚、『最速計算/GUYGUYガイガイNICE GUYナイスガイ』 」


 眼鏡をかけ白衣を身に纏った男が現れる。水貝が愛用する『NICE GUY』の一体だ。

 勝負は過熱していく――!



◆◆◆



「――『焼夷大将軍/徳炎とくえん イエヤス』でダイレクトアタック! トドメだ!」

「うあああああ!!」


 グレード3の強力なカード『イエヤス』による刀の一閃。

 巨大な火柱に襲われた水貝は衝撃で吹き飛ばされた。これで彼のライフはゼロ。俺の勝利だ。


「どうだ! これで俺の方が強いって分かっただろ!」

「残念だったね。これで僕も君も999勝999敗。同点だよ。ほら、これが記録」


 水貝がスマホの画面を見せてくる。ソコには彼が俺との戦いを記録し続けたデータが表示されている。

 確かに言う通りだった。奇跡的な引き分け状態だ。


「なら、もう1度勝負だ! 記念すべき1000勝目でどっちが最強か決めようぜ!」

「……いや、今日は止めておこう」

「何でだよ。怖気づいたのか!?」

「違うよ。僕たちの決着には最適な場があるというだけさ」

「はぁ?」


 すると、彼がスマホの画面を切り替える。

 そこには。


「第1回、『西東京CHAOSトーナメント』。『CPX社 西東京支部』主催の超巨大大会だよ」



『――我こそが最強だと思う者。

 ――覚悟と共に来たれ。

 

 『西東京CHAOSトーナメント』


 ――栄光の初代王者の座は誰の手に。



 【大会詳細】

 ・特別な参加資格は不要。

 ・参加希望者は…………      』


「ここで。この最高の舞台で、僕たちの長い闘いに決着をつけようじゃないか」

「へへっ。水貝にしては最高の提案するじゃねぇか。面白れぇ! 今日だけはナイスガイって呼んでやる!」

「あ、ちなみに。参加するには参加希望者と戦って、星を10個集める必要があるよ。勝ったら相手の星を全てゲット。一度でも負けた者は「最強」を名乗ることは出来ないナイスなルールさ。僕は既に8個集めた」

「……おい、ちょっと待て。その締め切りって?」

「明日だよ。当然、参加できなかったら不戦勝で僕の勝利だ。西東京最強の名は僕が頂く」

「やっぱお前はクソ野郎だ!!」



◆◆◆



「ちょっと2人とも! またCOバトルしてて遅刻したんでしょ! 何度言ったら分かるのよ!」

「うるせぇなぁ、幾美いくみ……お前は俺たちの母ちゃんかよ」


 教室に入れば既に朝のHRは終わっていた。

 そして、栗色髪のショートボブ少女が怒鳴ってくる。

 彼女は、俺と水貝の共通の幼馴染「花ヶ前はながさき 幾美いくみ」だ。


「この馬鹿はともかく、僕は人助けというナイスな事をしていたんだよ花ヶ前くん」

「あぁ!? 俺もそれに関わってただろうが!」

「その件はCOバトルで決着しただろう? 見苦しい事はよしたまえ。君はただのサボり遅刻さ」

「それはオカシイだろ!」

「あぁ、もう! つべこべ煩い! 問答無用よ! 2人ともソコに正座しなさい! 今日という今日は許さないんだから!」


 大体、コレが俺たちの日常。

 俺と水貝がしょうも無い事で競って、COバトルして遅刻。幾美に怒られる。

 いつもと変わらないけれど、大切な日々だった。

 ……大切な日々だったんだ。

 


◆◆◆



 掃除当番やら日直やらで遅くなってしまった。

 さっさと街に繰り出そう。大会参加資格の星を集めなければならない。

 そう思い、椅子から立ち上がり、カバンを手にしようとして――


「大変よ! 唯一!」

「どうしたんだ、幾美。血相を変えて」

「水貝くんが大変なの! 闇デッキの使い手と戦って、それで……!」


 ――持ちかけたカバンを床に落としてしまう。

 バサバサと教科書の散らばる音が嫌に耳へ響いた。


「嘘だろ……。アイツが、負けた……?」


 俺は忘れていた。

 大切なモノは失ってから気付くという、よく知っていた筈の事を。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る