41章

第696話 あたし達の事を話しに行くぞ

 ジジィを見送り終え、オレはアパートの階段を上がる。

 腕の手術はヨミばぁがやってくれるとばっ様から聞いてるし、失敗する事は無いだろう。


「ジジィの事は相変わらず心配いらないっと」


 死ぬ死ぬ詐欺を地で行くジジィだ。地獄の方もお断りを入れてるのだろう。

 それよりも、オレはオレでやる事は日々多くなっている。中でも一番最初にやらなければならない事は――


「お爺さん、帰っちゃったのか?」


 アパートの階段を上がるとリンカが下りてくる所と鉢合わせた。見送りに参列するつもりだったらしい。


「まぁね。用事が済んだらさっさと引き上げる人だから」

「……失礼な態度になっちゃったかな……」

「気にしなくていいよ。ああ言う気質の人間だからさ」


 ジジィは見送りとか、何かを祝うとかの行事で派手に騒ぐ事は好まない。身内の誕生日にプレゼントと顔を持ってくるくらいである。(その後は黙々とケーキを食べるか、即帰る)


「そっか。じゃあ……お母さんにあたし達の事を話しに行くぞ」


 リンカが少し緊張する様に言う。

 今、一番にやらないといけない事は、オレとリンカの関係をセナさんに伝える事だ。


 まぁでも、セナさんとは良好な関係だし健全な関係を考えてると伝えれば特に問題は無いだろう。単なる、通過儀礼だよ。通過儀礼。






「なのに……何でこんな事になるのかなぁ……」

「…………」


 オレはファミレス『ノータイム』でリンカと隣り合って座り、正面に面接官の様に座るママさんチームの三人と向かい合っていた。


 あの後、部屋に入ってリンカとの交際を、伝えて正式に認めてもらう旨を話そうとしたらセナさんが、ストップ! と手を翳した。

 そしてどこかへ連絡すると、夕飯は~食材が無いから~ファミレスに行きましょ~、とわざわざタクシーを呼んで三人で移動。うふふ~、と絶対にこっちの意図を察している様子にオレとリンカは取りあえず指示に従って、隣町にある『ノータイム』と言うファミレスへ入った。

 なんと、そこでは偶然ながら、ママさんチームの二家が存在していたのである。


「なんか、急にセナから連絡が来たから、喫煙ブースを開けたけど。なんか面白い発表でもあるの?」


 と、ニマニマしながらカレンさんが言う。

 彼女はこの店の店長だろう。前にそんな事を言ってたし。恐らくこの店にオレとリンカを連れたセナさんの様子に何が起こるのか何処と無く察したご様子。


「ケンゴ! 数時間ぶりだな! イエローの件……忘れたとは言わせんぞ!」

「あ、はい……」


 エイさんは、オレの強制送還の事を根に持っていた。アレは正しい使い方だっと思うけどなぁ。


「はいは~い。皆さんご静聴~。今から、リンちゃんと~ケンゴ君から~重大な発表があるみたいなの~」

「お? そうなの? なんだろなー(ニマニマ)」

「重大発表だとぉ? 私のファミリータイムを邪魔して尚、価値のある発表なんだろうな!?」


 何だろう、この圧迫面接感……

 今までママさんチームとは基本個別、多くても二人同時が主だった。しかし……三人揃うと明らかな戦力的な様を感じる。


 リンカちゃんと付き合う事になりました!


 って、セナさんに言って、あら~そうなの~ようやく~? って反応で少しからかわれて終わりな様を想定してたのに……一気にハードルが上がったよ。

 リンカとは互いに理解した上で付き合う事にしたのだが、こうなると何だか言い出しづらい。セナさんは何を考えているんですかー?

 リンカもママさんチームの圧に少し萎縮してるし。悪いことは何もしてないんだけどなぁ。


「はーい、ご要望のオレンジジュース、緑茶、ソーダ、カルピス、烏龍茶でーす」


 ドリンクバーから、ヒカリちゃんが各々の要望通りの飲み物をお盆に乗せて持ってきてくれた。数時間前まで猫耳でメイドをやっていただけあって、同に入っている。


「あ、ヒカ――」

「ごゆっくりどうぞ、お客様♪」


 リンカがヒカリちゃんに場へ入って貰おうとしたが彼女は、いずれこうなったわよ。諦めなさい、と微笑んで少し離れた席に父親の哲章さんと座る。

 そうなんだよ……哲章さん(警視)が居るんだよなぁ……

 その席には寮から帰ってきていたのか、カレンさんの息子であるダイキも座っていた。ママさんチームの身内は全員集合案件である。






「ねぇ、ヒカリちゃん。これってどういう状況? なんで、ケン兄ちゃんとリンカちゃんが?」


 久しぶりに寮から家に帰ったダイキは素振りしていた所を谷高家に声をかけられて共に『ノータイム』へ食事に来ていた。(帰ってから会えると思っていたカレンは滅茶苦茶喜んだ)


「見てればわかるわよ」

「判断が難しいな……。ヒカリ、ケンゴ君とリンカ君が想定した通りの告白をした場合、パパはどうすれば良いと思う?」


 哲章はこの会談の主旨を即座に察して、次に自分がどんな行動を取れば良いのか悩んでいた。


「普通に知り合いとして祝ってあげればいいんじゃない? ようやく、皆が望んだ形に収まったんだからさ」


 セナが何故、この席を用意したのか。その意図を読み取れる者は現状は本人しか解らなかった。






「…………やれやれ。思ったよりも近いみたいだねぇ」


 少し離れた席で、喫煙ブースの様子を見る彼は成り行きを見守っていた。

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