第605話 わしは知らん!
「ほぅ……フェニックスよ。お主のチョイスは中々じゃな! カバディとは、わしも初体験じゃ!」
オレはサマーちゃんと共に体育館へと足を運んでいた。目指す先はカバディ部。無論、カバディをやるためである。
「初日の体育館は外からのゲストがやって来て使うことは出来んかった様じゃが、二日目は室内運動系が主に使っとるみたいじゃのぅ」
「初日はゲストが来たんだ。て言うか、サマーちゃんは何でそれ知ってるの?」
「ショウコがイベントで舞ったのじゃ。さっきも話したが、新しい演目のお試し舞台だったそうじゃな」
「へー」
今思えば、ショウコさんの演舞は個人的に見せてもらったけど、公式のモノは見たことが無い。動画で見る限りは音楽も乗せて舞う様なので、是非とも一度は観客目線で席に着きたいモノだ。
「まぁ、ショウコの話しはよい。今はカバディじゃ!」
「ははは。オッケー」
年相応にサマーちゃんがワクワクしているのが伝わる。ハロウィンズの事情は複雑そうだし、こう言う経験は殆んど無いのかもしれない。気兼ねなく手探りで何かを始める時って心踊るのは誰だって同じだ。
「お、あそこだ」
オレはサマーちゃんを連れて体育館の隅にコートを用意しているカバディ部の出し物へ顔を出す。
「戻ったよー」
リンカは旧校舎で本郷と別れた後、ストレートに『猫耳メイド喫茶』に戻ってきた。
なんだか、少しだけ晴れやかな雰囲気が漂っており、団結力が上がった様子を感じる。何があったんだろう?
「あれ? 水間さん。ヒカリは?」
「お帰りなさい! 鮫島さん! ちょっとトラブルがあって、谷高さんは事情聴取に呼ばれてるのよ!」
「ええ……何があったの?」
「語りましょう……世にも奇妙な、神父と谷高さんと大古場校長先生の撃退劇を!」
「……神父?」
水間は見ていた事を全て話した。
二メートルを越える神父が現れ、次に迷惑系の男達が現れ、神父が男達の骨を外し戻し、校長先生が現れ、皆が帰れコールをして、寺井先生に連行された事を。
「まるで夢のように信じられないでしょうけど!」
「うん。全く信じられないけど……ヒカリが居ないところを見ると真実なんでしょ?」
真相は親友が帰ってきてから聞けば良い。それよりも、
「そう言えばさ、成人男性のお客さん来た? 今、言った迷惑の二人以外で」
「来たわ! 谷高さんのお母さんと一緒だったわよ!」
もう来ていた。それにエイさんと一緒だったのなら、ヒカリも立ち会ったのだろう。
「なんか、谷高さんのお母さんに比べると特徴がまるで無かったわ! 気がついたら居なくなってたもの! 置かれたお金が木の葉に変わったら完璧だったわね!」
彼は狸が化けた人間と思われる程に存在感が無いのかぁ。
そう言えば、あたしやヒカリがナンパされた時も、その他大勢の中に居たら、彼が声を上げるまで気づかない事が多かったけ。
「ヒカリが居ない間、あたしが入るよ」
「助かるわ! さっきの撃退劇が話題になってなんか人が増えてるのよ! あー、忙し! 忙し!」
今は次のシフトの人が来るまで店を手伝わないと。
交代の時間になったら彼を探しに行こう。どうしても見つからない時はLINEをして合流すれば良いし。
「楽しんでくれてるといいな、文化祭」
リンカはこの学校のどこかで楽しそうにしている彼の様を想像して不思議と嬉しくなった。
「たのもー!」
「おや、いらっしゃませー」
サマーちゃんの元気な挨拶にコートの隅にあるパイプ椅子に座っていた男子生徒は読んでいる本を閉じて立ち上がった。
「カバディ体験の方ですか?」
「勿論じゃ!」
「貴方も?」
「オレもだよ」
オレらがそう言うと男子生徒は微笑む。
「カバディ部、三年生の
「サマー・ラインホルトじゃ!」
「鳳健吾でーす」
「サマーさんに鳳さんですね」
眼鏡をかけた男子生徒――草苅君は細くなく太くもない体格と言った所。雰囲気も親しみ易い。
「ようこそ、カバディ部へ。ウチはトータル三回の合計ポイントで景品が決まる仕組みなので是非、高価な景品を狙って行ってくださいね」
草苅君はメニュー評価を渡して来る。どれどれ、とサマーちゃんが見てオレも覗き込む。
3ポイント……飲み物、お菓子(単品)
5ポイント……ぬいぐるみ、キーホルダー
7ポイント……文化祭無料券5枚
9ポイント……PS5、Switch
「え? 9ポイントの景品ヤバくない? 落差が凄い……」
「それは撒き餌です。後々、宣伝してもらえれば」
「えらく、強気な撒き餌じゃのぅ」
店に売りに行くだけで値段的には万は簡単には越えるモノを並べるとは……取られない自信があるのか。
「流石に経験者の方にはハンデをつけさせてもらいますけど、基本的にはパーフェクトを取らないと9ポイントには行きませんから」
「ほほぅ……」
おっと、サマーちゃんが不適に笑った。簡単には出来ない、と言う草苅君の言葉はIQ200を越える彼女に火を着けるには十分だったようだ。
「お二方は、ルールは?」
「わしは知らん!」
「かじり程度には」
「でしたら、まずルールから説明しますね」
と、草苅君はカバディの基本的なルールの説明から始めた。
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