第536話 鬼灯パパ

 彼女の先導で父親の元へ向かう際に、鬼灯二回、俺一回、ナンパと逆ナンに当たった。

 一緒に歩いてコレだ。声かけスポットを歩く時はリョウを連れてないと進行に普段の倍はかかる。これもイケメンのサガ故か。鬼灯に負けてるけど……


「普段はこんなに声をかけられる事は無いわ」

「そうなのか?」


 確かに……学校へ行き来する際も鬼灯は基本的に一人っぽいもんな。あ、多分――


「普段は制服着てるからじゃね? 相手が高校生ってなると声かけてる所は結構印象に残りやすいし」

「そうかしら?」


 鬼灯は首を傾げるが、制服とは自らが未成年である事を周囲にアピールしていると言っても良い。その為、声をかけづらいし何かあった時に人の印象に残りやすい。


「今は俺らは私服だろ? その点の外見的要因が無い分、声を掛けられやすいんだと思うぜ」

「そうかしら」


 俺は身だしなみは整えているが、鬼灯の私服はカーディガンにロングスカートと靴と言う地味な姿。しかし、元の素材がSSS以上なので服装の地味さを上回って光っている。

 一緒に出歩く時は人混みを避けた場所が良いな。デートする時の参考に覚えて置こう。


「それなら手でも繋いでみる?」


 と、まるで義務のような無機質な口調で鬼灯は手を差し出す。表情も変わり無し。恥じらいの欠片も無いな……


「カップルだと見られれば声を掛けられないと思うわ」

「……もう駅は離れたし、進むのを優先しようぜ」

「そう」


 俺の返答に鬼灯は手を引っ込めるとくるっと踵を返す。あ、やっぱり、繋げば良かったと若干後悔。

 無表情と笑顔以外に鬼灯の表情が見れたかも知れなかったからだ。






「ここよ」

「ここって……鬼灯ん家じゃん」


 鬼灯のナビの最中、何か見慣れた道だなぁ、と思っていると目的地ゴールは彼女の家だった。一昨日と昨日で二度送ったので地理は覚えていたのだ。


「言ってくれれば俺が足を運んだよ」

「七海君は今日はお客さんだから、迎えに行くのは当然よ」


 律儀と言うか、なんと言うか……効率重視なイメージが強くある鬼灯には少し意外な行動だ。


「それで、父親さんは今日は休み?」

「本来なら。でも仕事が入ったわ」

「在宅ワーク?」

「ある意味そうね。会えば解るわ」


 そう言って、ただいまー、と鬼灯は扉を開ける。俺も、失礼しまーす、と声を出しながらその後に続いて扉の内側へ。


「お帰り、ミライ」


 すると、コーヒーカップを持った中年男性が廊下を通る所だった。眼鏡をかけて白髪の混じる黒髪に無精髭が生えているものの、顔のパーツは美形な様を感じる。髪を黒に染めて髭を剃れば10代は若く見えるな。


「ただいまお父さん」

「お帰り。彼かな?」

「七海智人と言います」


 俺が名乗ると鬼灯の父親さんは、近寄って来て空いている手で握手を求めてくる。


鬼灯篤ほおずきあつしだ。よろしく、七海君」


 その手を俺は握り返す。

 彼の第一印象は……優しそうなお父さん。そして、俺も悪くないファーストコンタクトを決めれたと思う。


「娘から聞いてるよ。僕に会いに来たんだろう?」

「はい。この度は……娘さんとお付き合いをさせて頂きたいと思いまして」


 俺のその言葉に鬼灯さんは少し驚いた様だった。まるで、予想してなかった言葉をもらった様な雰囲気を――はっ! そう言えば俺は金髪のままだ! 完全にミスった! 髪を黒に染め戻して来るんだった!

 こんな髪染め野郎が、娘さんとお付き合いさせてください、なんて……許して貰えるハズがない! 挽回できるか!?


「ふむ。七海君、私には娘が二人居るのだが、どっちと交際を?」

「え? あ、その……ミライさんと……」

「では、君のご家族は外国人の血は入っているのかい?」


 やっぱり、髪色の事か……


「いえ……父も母も親戚も皆、純粋な日本人です……」

「その髪は家族の意向かな?」

「……いえ……俺が自主的に染めてます」


 下手に言い繕うのは逆効果。髪染め男でも誠実なんだと思ってもらう為に……ここは正直に行く!


「ふむ……残念ながら、その様に自分の姿を歪める人間と娘の交際を認められない!」


 ビシィ! とされる宣言に俺は膝から崩れ落ちて項垂れる。

 ぐほぉ!? や、やっぱり……コレは致命的だった……か……。これは……出直しか……


「お父さん……」

「ミライは少し黙っていなさい。しかし、私も外見で全てを決めるワケじゃない。そこで、私に証明してくれないかい?」


 その言葉は七海智人と言う人間の内面を証明するチャンスだ! 鬼灯さんを見上げると彼は俺の意思を確認する様に手を差し出していた。


「私の仕事を少し手伝ってくれないか? それで、君がどういう人間かを見極めさせて欲しい!」

「是非! やらせてください!」


 俺はその手を躊躇いなく即座に、がっしりと握る。

 そんな俺らの様子を見ていた鬼灯が額に手を当てて、やれやれ、といった感じだったのは少し気になった。

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