第527話 なんで自分から地雷原へ!?
塾で出た問題の話をしながら、鬼灯と商店街へ向かう。
だって最新の話題がそれしかねぇんだもん。俺のスタンスは取りあえず乗りそうな話題をふって、そこから広げられそうなワードを相手の口から聞き出すのだ。
しかし鬼灯は、そうね、とか、あれはもっと簡単な解き方があるわ、とか、ノートに詳しくまとめてるわ、とか言って、しゃがむとノートを取り出し始めたので俺は、今度でいい、と足を進む事を優先させた。
「そう」
相変わらずなAI解答。しかし、鬼灯の両親はこんな娘の様子を変えようとは思わないのか?
「なぁ、鬼灯」
「なに?」
「その淡白な感じ、家では何も言われねぇの?」
笑顔は作れるのはわかるが、あれは自覚してのモノかは不明だ。
「言われないわ。父も私らしくて良いそうよ」
昔からそうなのか……
「母親は?」
「母は――」
と、即返答がデフォの鬼灯にしては珍しく言葉を詰まらせた。
そう言えば、お姉さんである詩織さんも意図的に連絡を断ってるらしいし、家族関係はタブーな話題か……
「今のは忘れてくれ」
「……そう」
少し感情のある“そう”。やっぱりやぶ蛇か。
「ユニコーン」
すると、いつの間にか商店街のテリトリーに侵入していたらしくユニコ君が、やぁ、と目の前に現れた。どうやら鬼灯の雰囲気を察してじゃれに来たらしい。
「大丈夫よ。ありがとう」
「ユニユニニ! コーン!」
「え? なんだって?」
何言ってるのか全くわかんねぇ。すると、ユニコ君は鬼灯に風船を一つ差し出した。
「持ってれば良いの?」
ユニコ君は、ユニィ、と頷く。鬼灯は紐を持ち、ふわふわと浮かぶ風船を見上げる。
「ユニッ!」
と、ユニコ君が溜める動作からビッ! と風船を指差すと、パンッ! と割れて中からゲーセンで使える一回無料券がヒラリと鬼灯の頭に落ちてきた。
その様に見ていたギャラリーは拍手するが、鬼灯の表情は全く動かないモノだから俺からすればシュールな光景だ。
それにしてもコイツ……ただのマスコットじゃねぇな。
「ユニユニ」
ちゃんとエスコートしろよ、と言いたげに俺の肩を、ポン、と叩く。
ユニコ君は残りの風船を子供達にねだられて連行される様に去って行った。
いつも人気なユニコ君。相変わらずの珍獣っぷりだな。
「七海君。一回無料らしいわ」
「よかったな」
「ええ」
頭に乗った無料券を表情を変えずにじっと見る鬼灯。何を考えているのか全くわからん。
「行きましょう」
「お、おう」
しかし、足取りは先程よりも軽く見える。一回タダになったのか嬉しいのか? うーむ、もう少し比較する雰囲気が欲しい所。
「あっ! 来た!」
「七海君! 待ってたよ!」
「か、彼女さんも!」
俺と鬼灯はゲーセンに入ると奥の格ゲーコーナーへ足を運ぶ。少し場違いな美少女でもある鬼灯はゲー友に囲まれるとだいぶ浮くが、俺が側に居るので少しは相殺してるだろう。
「なんだ? なんか慌ただしいな」
「そうなんだ! ちょっと聞いて――」
「弱すぎる!」
周りのゲーム音に負けじと響いたのは、格闘ゲーム『ストリートレジェンド』の筐体からだ。昨日、鬼灯がガイアと出会ったゲームである。
「……何だアレ?」
俺はその筐体に座る男を見て、最初に出た感想がソレだった。
一昔前の学ラン帽子に、肩から弾けた様に鍛えられた二頭筋を晒すブレザー。そして、下駄。昭和の番長みたいな風体をした大柄な男がストレジェ(ストリートレジェンドの略)をプレイしている。
「今日、ストレジェのアプデがあってさ!」
「昼からプレイ出来るようになったんだけど……あの人がずっと占領してるんだ!」
「店員とかは何も言わないのか? 後ユニコ君は?」
「いや、そう言う占領じゃないんだ」
男の筐体には62連勝の数字。マジか。本人が戦った方が強そうなガタイしてるのに、器用なヤツだな。
「所詮は世界を知らぬ者どもか。さっさと嫁を連れて来い!」
「意味不明な事言ってるけど、あの意図は?」
「い、いや……俺たちも知らないよ」
何にせよ間違いなくトラブルの元。と言うか、もうトラブルになってやがる。
「七海君。今日は帰りましょう」
「無難な選択だな」
「ええ!? 帰っちゃうの!?」
ゲー友の言いたい事はわかる。鬼灯のガイアはプレイ初日にもかかわらず、恐ろしい程に急成長を遂げて、比肩する者は商店街で皆無となった。
無論、ゲー友達も全国大会に出たヤツもいるくらいに強いが、それでも鬼灯のガイアは戦いながら成長しているのだ。
「笑止千万! 弱肉強食! 一騎当千!」
番長は楽しそうに、何とかしようと代わる代わる挑戦するゲー友達をハルトでボコッている。
見た感じ、鬼灯のガイアなら勝てない相手じゃない。でも、それ以上に……関われば変なトラブルになるのは目に見えてる。
「お前達も今日は帰った方が良いぞ」
「アプデがあったばかりだから! 攻略サイトを更新しないといけないんだ!」
「あの男にずっと居座られて、困ってるんだ!」
「か、彼女さんのガイアなら勝てるハズ!」
正直、見てみたい気もする。しかし、女子を連れて、あからさまなトラブルに突っ込むのはタブーなのだ。
「色即是空! 物見遊山! 五里霧中!」
ほら、もう状況と全然関係ない四字熟語を叫び出してるし。
「その四字熟語、使い方がおかしいわ」
「ぬぅ!?」
ちょっと目を離した隙に鬼灯は番長に歩み寄り、ヤツの叫ぶ四字熟語の使い方を指摘していた。
鬼灯ぃ!? なんで自分から地雷原へ!?
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