第517話 この欲張りさんめ
縁側でアヤと共に眠ってしまったオレは、大和に顔を舐められて目を覚ました。
もうだいぶ夜は冷える時期なのにやたら暖かいのは、かけられた毛布と三匹が側に寄ってくれていたからだ。
多分、散歩の催促に顔を舐めたのだろう。里にいた頃は朝の散歩はオレの役回りだったから。
身体を起こすと毛布の隙間から入り込む冷えた空気にアヤも目を覚ます。
「……おはようございます」
「おはよ」
しばらく、ほわほわしていたアヤは、トントントンと聞こえて来る、ばっ様が朝食を用意する音に即時覚醒する。
「寝坊をしてしまいました! 申し訳ありません、お兄様! 毛布の片付けをお願い致します!」
「おっけー」
アヤは、ババッと起きて、ススッとタスキで袖を結び上げて、後ろの髪を簡単にポニテにまとめる。
「お三方、後程、朝食をお持ち致します!」
その言葉に三匹は返事をするように吠えた。アヤもすっかり里の一員だのぅ。
オレは毛布を持って一度母屋へ上がり、タンスへ直すと、一つのカレンダーが目に入る。年末につけられた赤丸は、ばっ様がつけてくれたのだろう。
「……あぁ、そっか。結局は帰って来ないといけなかったか」
今年は友達を送るために会いに行かなければならなかった。
流石に1日じゃ無理だなぁ。今日は少し様子を見るだけにしておこう。まずは、
「散歩行くぞ、お前ら」
三犬豪のモーニングルーティーンじゃい。
『神ノ木の里』は本日から平常運転へと切り替わる。
里の外に出ている村民へ帰省の連絡。
厳戒態勢の解除。
銃の手入れと保全。
使用した弾薬の確認。
それらを本日に完了させて、ちょっと銃声の響く田舎町に戻るのだ。
畑の管理や止めていた業務も再開する為にも事は迅速に進む。
そして、オレは――
「おお。やっぱり、スゲー事になってる」
シャベル、スコップ、軍手、ゴミ袋を持って母屋から山に入ってすぐの所にあるちょっと拓けた空間にやってきた。
そこは四畳程の広さで、木々が避ける様に真上がぽっかりと空いている。太陽の陽射しが入る分、光合成は頻繁に行われ、雑草天国になるハズなのだが、土が見える様に綺麗に整地されている。
「オレは雑草帝国との滅亡戦争を覚悟してたんだけどなぁ」
「ワシとじっ様がちょいちょい様子見にやって来たからのぅ」
「ひょっ!」
背後から唐突にばっ様から話しかけられてオレは飛び上がる。
「ばっ様……せめて、がさがさ鳴らしてや」
「別にエロ本でも探しに来たワケじゃ無かろう? しかし……ワシはケンちゃんが何故巨乳好きになったのか、それだけが良くわからんのじゃ。アキラはさほど大きくなかったし、じっ様も将平も巨乳が極端に好きと言うワケではない。ケンちゃんだけが異質。外の世界には巨乳が溢れておるんか?」
「ここぞとばかりに巨乳巨乳言いやがって。なにさ、人の性癖をつつく為に気配消してやって来たんか」
「ほっほっほ。ケイを見ればわかるわい。アレが上司とは良い思いをしとるようじゃのう」
「七海課長は1課で、オレは3課。別の部署だから昨日ほど接点は無いよ」
オレはシャベルを持って、空間の真ん中に突き立てる。
しかし、良く考えてみると里を出るまでは女性どの部位が良いとか意識したことはなかったな。
里の人間が皆、身内と言う事もあってそんな眼で見れなかった事も起因かもしれない。
なんかこうー、性癖がアンロックされる程の、ビビっと来た瞬間があったような――
“鳳君は3課だと思ったわ。鬼灯詩織です。改めてよろしくね”
“貴方がケンゴ君ね~。リンちゃんの母親の鮫島瀬奈です~”
「…………」
あー、あの二大巨峰だ。二人との接触がオレを未来永劫、おっぱい派閥に組み込んだ根源だろう。いや、あの御二方は臀部も神ってるんだけどさ。
仕事では鬼灯先輩が居て日常生活ではセナさんが居る。
良く考えれば絶対に1日に一回は巨乳と出会うとか言うヤベェ日常だった。海外の時はダイヤが常に居たし、休日はリンカとの絡みが多かったし。
そんな中、色々とラッキーなんちゃらも少なくないワケで……そりゃ、おっぱい派閥にもなるだろ。まぁ、ぜんっぜん後悔してないけどね! むふふ。
「その様子じゃと、夜のオカズには困っておらんようじゃな」
「…………さーて。やることやらないとなぁ!」
オレはシャベルで地面を掘り始める。本来の目的が脇に反れる程におっぱいは魅力に溢れているのだよ。
ザック、ザック(土を掘る音)
「ケンちゃんや」
「なにー?」
「やっぱり、アヤではボリュームが足りなくて物足りなかったようじゃな。やっぱり、鮫島嬢くらいは無いとケンちゃんのは起たんか。この欲張りさんめ」
「……」
「年末までに『○✕△しないと出れない部屋2』を造っとくでな。何とか連れ込め。お膳立てはしておいてやろう。男を見せい!」
「もー! 手伝う気が無いなら帰れよ!」
オレがシャベルを投げるとババァは、ほっほっほ、と笑いつつパシッと受け取った。
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