第451話 しれっと脱獄するんじゃねぇよ
ユウヒちゃんの双子の妹、コエちゃん救出作戦。
熊吉を含む、熊3頭の徘徊する母屋へ向かう為に、夜道を歩くメンバーはオレを含めて五人。
姉のユウヒちゃんに、最高峰の大和撫子のアヤさん、超人荒谷蓮斗に、熊投げのゲンじぃ。
RPGのパーティー的には、ユウヒちゃんがナビゲートでアヤさんは遊撃前衛、蓮斗が体力のある前衛で、ゲンじぃは攻撃力の高い前衛って所だ。
うん。見事に突貫する事しか考えてないパワーパーティーだね。回復キャラもバフをかけるキャラもいない。
しかし、今回はこれがベストな形だと直感的に感じている。
「その熊吉ってヤツぁ、どんなヤロウなんだ? 鳳の旦那」
「オレもヤツと対峙したのは9年くらい前だからなぁ」
蓮斗は熊吉とは面識がない。
まぁ同じ熊と何度も出会うなんて、動物の感動ドキュメンタリーくらいしか聞かないが……今回はそんなメルヘンな話とは180度真逆。血で血を争う、リアルナワバリバトルなのだ。
「今では二メートル半はある化け物だよ」
七海課長の情報だが信憑性は高い。昔は立ち上がっても二メートルに届くかどうかだったが……まだ成長してんのか、あのヤロウ。
「熊は本来は群れを成さぬと聞きます」
「そうなんだよ。熊ってさ、個体の強さが十分にあるから群れを組む必要が無いんだ」
山における食物連鎖の頂点でもある熊は群れを組む必要性がない。普段は人里離れた山奥にのそのそと暮らす動物なのだ。
「熊吉は、この付近を縄張りにしようとしてるからな」
「この辺り一帯の食物連鎖の頂点が、じっ様だからね……」
ゲンじぃは熊吉が度々訪れた理由は、シンプルな縄張り争いの延長であると推測する。
熊吉はここはもう奪えないと学んでくれませんかねぇ。
まぁ、人の生活圏に踏み込む熊はソレが当然となってしまう。そうなったら駆除するしかない。
「しかしよぉ、熊吉が徒党を組まなきゃジョーを仕留められないと踏んでるなら、相当、警戒してるよな」
「じっ様は単独だと二度も撃退してるワケだしね。一度ゲンじぃにもぶん投げられてるし今回も、ナイフ1本で熊吉ともう一頭を仕留める勢いだったらしいし……」
ホントにジジィは、これで全盛期よりも衰えてるハズなのだ。若い頃はどんだけ化け物だったかって話だよ。
「ケンゴ。勘違いしてるみたいだが、ジョーはそんなに強くねぇぞ?」
「え?」
熊二頭とナイフ1本で対峙するジジィが?
「アイツは色んな物を利用するのが上手いんだ。呼吸や目線、対峙するモノの関節の可動域。周囲に自分が優位となるモノは何があるか。相手を仕留めるなら、利用できるモノなら小石でさえ武器にするぜ」
流石は任務成功率100%の『国選処刑人』。その心意気なら不測の事態にも柔軟に対応できるだろう。
「けど、利用できるモノが多くないと実力は凡人だな」
柔道だと俺の方が強いしな。とゲンじぃは、ジジィが都市環境に特化した性能であると語る。
「普段から生態に関しては事細かに調べあげてる。どこを刺せば肉が薄いか、致命傷となる内臓はどこか、武器は何が有効か、ってな具合にな」
『処刑人』としての任務は人の生活圏で行われる事が想像できる。故にあからさまな凶器を持ち歩く事は出来なかっただろう。
よく考えて見れば……そんなジジィの心の拠り所はこの里に帰ってくる事だったのかもしれない。
「……」
「ビビったか?」
「あ、いや……少しは優しくしてあげようかと」
「ガハハ」
そんな事情を深く理解しようとせずに当時のオレは里を飛び出した。個人的な事情があったとは言え、六年間も連絡しないのはちょっと長過ぎたかなぁ。
「失敬!」
「わっ!?」
その時、懐中電灯で足下照らしつつ先頭を歩くユウヒちゃんの目の前にそんな声と共に影が現れた。
周囲の闇よりも濃い黒さを持つ装い。それは夜では完全に保護色となる姿である。
「ユウヒちゃん、下がって!」
オレとアヤさんはユウヒちゃんを護る様に前に出る。熊吉にプラスして謎の不審者。面倒事がどんどん増えるな。
「待たれよ! 姫!」
頭を垂れたまま、不審者はそう言ってくる。姫? 何言ってんだコイツ。あれ? この口調は……どこかで……
「ユウヒちゃん、アイツ照らして」
「うん」
パッと懐中電灯の光が目の前の不審者を照らす。そこに片膝をついて居たのは……暁才蔵じゃねーか!
「ケンゴ、コイツはアレか? 9月頃にフォスター女史にセクハラした忍者か?」
「そうです」
9月に海外支部からやってきたアメリカ生まれのキス魔――ダイヤ・フォスターにセクハラかました変態忍者だ。
それ以前にワケわからん理論の下、下着泥棒を繰り返していたガチの犯罪者である。(未だに轟先輩の下着は帰ってきてない)
コイツは真鍋課長とお尻お仕置きマンに捕まって警察に自首したハズ。
もー、しれっと脱獄するんじゃねぇよ。今は構ってる余裕は無いってのにさ。そもそも何でこんな所に居やがるんだ?
「姫……」
「私の事ですか?」
と、才蔵は心酔する様な目でアヤさんを見た。
まさか……知り合い? とアヤさんに視線を向けるが彼女もオレを見て、覚えが無いと首を横に振る。まぁ、そりゃそうか。
「ゲンじぃ。コイツ、キケン」
「不安要素を後ろに残すのもアレだしな。ふん縛るか」
ゲンじぃとオレは前に出る。蓮斗とアヤさんにはユウヒちゃんを護ってもらって、さぁ、捕まえてお尻審問官に引き渡すぞー。
すると変態忍者は、オレらを静止するように手をかざす。
「見誤るな! 某は敵ではない!」
才蔵は、カッと眼を見開いてそう言った。
「あと、ライトが眩しい!」
ユウヒちゃんはそんな才蔵をずっと照射していた。
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