第389話 俺と付き合ってくれや!!

 『ノータイム』は、全国チェーンを展開している大手のファミリーレストランである。

 地方ごとに営業時間は変わってくるが、音無歌恋が店長を勤める『ノータイム』は24時間営業時間だった。

 

「店長、ちょっと良いですか?」


 事務室で椅子に座り、PCに向かって来月のシフトを考えていたカレンは先の無くなった飴の棒を咥えながら女性店員へ振り返る。


「どうしたの?」

「ちょっと店の外で困った事が……」

「わかった。今行くよ」


 カレンはPCにロックをかけてから椅子から立ち上がる。そして、店員の後に続き、店の外へ。


「……」


 外に出るとそこには、リーゼントに晒しを巻いた、昭和風な族の格好をした三人の若者がヤンキー座りをしていた。彼らを警戒し、通行人は避けて通る。完全な営業妨害である。


「あれです……店長。知り合いですか?」

「うーむ。まぁ、飴をあげたヤツだったかな」


 それは今から一ヶ月ほど前だったか。仕事帰り道に商店街を通っていると、路地でボコボコにされたヤンキーを発見。どうやらユニコ君に戦いを挑んで負けた様だった。

 見つけてしまった事を後悔しつつも、見てみぬフリは出来ないので、救急車を呼んだ。


“余計な事をするんじゃねぇ!”


 と、手負いの獣の如く、凄んで来たので常備している飴を口に突っ込んで黙らせる。


“ふざけた事――むぐっ?! 飴を――むぐっ?! おい、しゃべらせ――むぐっ?!”


 何かを言う度に飴を突っ込んで阻止し続けて時間を稼ぎ、救急車が来たので連れて行って貰った。(救急隊員は、今季はユニコ君に挑む人が多いなぁ。しかし、なんで彼はこんなに飴を? と不思議がっていたが)


「……どこで私の名前を知ったんだか」

「店長は、この辺りじゃ有名ですからね」

「今回はソレが嫌方に作用したか……」


 確かに自分の見た目は眼を引くので逆にそれを利用して客引き何かをしていたりする。おかげ様で集客率も中々に悪くないが……たまに、こーいうのが出てくるのだ。


「どうします?」

「パンダ呼んで」


 パンダとは警察車両の事である。

 すると、連絡を入れる前に視線に気づいた一人が他の二人に声をかけて立ち上がった。その中には飴嵐を食らわせた敗北者の若者がいる。

 顎や首に包帯やらを巻いて、まだ完治はしていない様だ。彼はカレンの目の前に歩いてくる。


「ようやく見つけたぜ」

「恩を仇で返される様な事をした覚えはないげどな」


 かなりの修羅場をくぐっている眼は、並みの人間では威圧されるだろう。実際に隣にいる店員は少し怯んでいた。


「俺は北陸爆走連合の総長――野宮金治郎」

「……音無歌恋」


 なんで北陸爆走連合の総長がこんなに所に居るのか。別に北陸爆走連合の事に詳しい訳ではないが、総長と言うからにはそれなりの者なのだろう。知らんけども。


「あの時は世話になったぜ」

「まぁ、世話はしたな。それで、報復が営業妨害これか?」

「おい!」

「金ちゃんはな! そんな野暮な目的じゃ――」

「お前らは黙ってろ!」


 サーセン!! と後ろの二人はビシッと“休め”の姿勢になる。統率は取れている様だ。


「今日はあんたに言いたい事があって来たんだ」

「聞くよ。言ってどうぞ」


 カレンは礼儀を気にする相手で無いと察して、ポケットから棒付きの飴を取り出すと口に咥える。


「俺と付き合ってくれや!!」


 金治郎は遠くに叫ぶ様にそう言うと、次には場が無言になる。

 道行く人たちが、金治郎の大声告白を耳にして足を止めて、なんだ? なんだ? と成り行きを見守っていた。


「見た感じ、ツーリング相手は沢山居そうだが?」

「違う! 俺が言いたいのは……くっ! 言葉が出てこねぇ!」

「頑張れ、金ちゃん!」

「連合は全員が金ちゃんの味方だよ!」


 三人の様子を見て、北陸爆走連合はガチガチの恐怖政治じゃ無い感じかぁ、とカレンは少し微笑ましくなる。

 横にいる店員は、今回はこのタイプかぁ、とカレンの動向を見守った。


「その前に」


 答えを返す前にやることがある。カレンは店の前ではなく、駐車場の空いている場所を指差す。


「場所を移動する。ここじゃ営業妨害だからな」

「おう! お前ら! 移動だ!」

「「押忍!!」」


 三人はバイクをずるずると移動させる。

 その際にナンバープレートを見ると北海道のモノであった。


「……またわざわざ、遠い所から来たもんだねぇ」


 また来られても面倒なので、きっちり“理解”してお帰り頂こう。

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